第209話 演者勇者と「あこがれのゆうしゃさま」14
ワイワイガヤガヤ。――ハインハウルス城は、巨大国家ハインハウルス王国の首都にそびえ立つ居城であり、そこに務めている人間も多種多様で当然数も相当数。
そんな御勤めの人間達を支える施設の一つがここ社員食堂である。朝早くから夜遅くまで営業しており、大勢の胃袋達がお世話となっていた。今日の朝も早くから大繁盛。
「えっと、モーニングAセットで」
「はーい、Aセット入りまーす!」
ライトも遠征だったり特別な用が無い時は、よくここにお世話になっていた。味も当然美味しくバリエーションも豊富。
「では私はこの鯖の塩焼き定食で」
「はーい、国王様は鯖の塩焼き定食……って国王様!?」
流れでそのまま注文を受けた店員が一度普通に注文を通してその客を二度見した。
「……何してるんですか、国王様」
ヨゼルドである。普通に国王の格好でそこに居た。
「勇者の君が利用するんだ、国王の私が利用してもいいだろう」
「いや駄目とかそういう話ではなくてですね」
普通国王は自分の国の城の社員食堂で食事しない。
「ライト様も薄々おわかりになられてると思いますが、突然こういう事を平気でなさる方なので。今回に関しては駄目という理由も思いつきませんし」
と、横にはハルが。
「あ、すみません、そのまま忖度無しで注文を受けて下さい。私はBセットのパンコースで」
そのままハルは動きが止まっていた従業員の所へ行き、要は大丈夫だと説明し、自分の注文も済ませる。――最初からヨゼルドに誘われて一緒に来た様子。
そのまま三人は出てきた食事の乗ったトレーを受け取り、テーブル席へ。いただきます、と手を合わせ食事を開始。
「うん、美味い。脂が乗っていて鯖が美味い。米に合う」
庶民の味に舌鼓を打つヨゼルド。格好が格好じゃなければ本当にただの気の良いオジサンである。
「国王様が気さくな方なのは重々知ってましたが、流石に舌は肥えてると思ってましたよ」
「まあ、君の想像通り、君よりも遥かに高級な品々を食べる回数は多いさ。でも、料理の本質は値段ではなく、素材を栽培育成する所からどれだけ丹精込めて時に苦労をして作っているかだからな。ただ無意味に高級品だけを食べてその意味を悟れなくなったら駄目だと考えている。食べれるのが当たり前ではない。だからこの過程の全ての人への感謝を忘れたくないのでな」
「ヨゼルド様、鼻の下に米粒がついてますが」
「えっ、ハル君取って」
「その位ご自分でお願いします」
紙ナプキンを用意する所まではハルもしてくれた。仕方なく自分で取るヨゼルド。その落差で若干薄れるが、
(……相変わらず、凄い人なんだよな)
その前の台詞を当たり前の様に言えるこの人物の大きさに、ライトは改めて感心させられる。
「さてライト君、小耳に挟んだぞ。色々大変らしいな」
「あ……すみません、俺の個人的な部分が大半を占めているので、報告すべきかどうか迷いまして」
当然フリージアとの一件だろう。ライトも素直に謝罪。――もしかしたら、その話をしに今日、あえてこういう明るい場を選んで自分に接近してきてくれているのかもしれない。
「もし本当に任務に大きく支障が出るなら、私が上手く解決しても構わんぞ。表立っての行動は無論だが、裏もリバール君程ではないが宛てはあるからな」
ヨゼルドからの提案。確かにつまらない事で躓いていたら勇者としての威厳に関わるだろう。――でも。
「国王様」
「うん?」
「俺の中で、それは解決じゃないです」
権力で強引に、有無を言わさず。その結果、何が残るだろうか。――もう一度、本気で彼女と向き合うと決めたのだ。
「お気遣いは本当に嬉しいです。でももう少し、俺に時間を下さい。――任務にこれ以上支障は出しません」
「そうか、君がそう言うのなら私は何もしないでおこう。無事完了の報告を待っている」
そう言って、嬉しそうな表情でヨゼルドはライトを見た。
そしてそんなヨゼルドを見てハルは思う。――知っている。この人は、やろうと思えば本当にいくらでも簡単にこの事案など解決するであろう事。そしてもしその権力を持つ自分に簡単にライトが頼った時、解決する引き換えに、ライトをどういう目で見る様になるのかを。
ライトを信じてはいたが、ハルは二人のやり取りを聞いていて一安心。――流石です、ライト様。
「さてライト君、ついでに簡単な任務の話があってな、その話もしてしまおうか」
「用件?」
「今晩時間を空けておいてくれ。簡単な会食のスケジュールがあって私と一緒に参加して欲しい。正装などはしなくても大丈夫だ。レナ君にも伝えておいてくれ。そうだな、夕方六時になったら迎えに行こう」
「わかりました」
そしてその日の夜。迎えに直接来たヨゼルドに連れられ、レナと一緒に城下町へ。何処かへ高級料亭へ行くのかと思いきや、庶民派人気食事処「白狼亭」へ。予約をしてあったのか、奥の個室へと案内された。
「かんぱーい!」
そして乾杯の合図と共に、参加メンバーがグラスに口をつける。
「じゃあまずは自己紹介からにしようか。――ヨゼルドです。この国の国王やってます!」
一人目。ハインハウルス王国国王・ヨゼルド。
「ニロフと申します。勇者ライト殿の騎士団において魔導士として在籍。更にライト殿に魔法を教える傍らで、世界一の魔法使いを目指すという夢を持っております」
二人目。仮面の魔導士・ニロフ。
「レナです。勇者君の護衛やってまーす」
三人目。ハインハウルス軍騎士及び演者勇者ライトの専属護衛・レナ。
「ソーイです! ハインハウルス総合魔術研究所で研究員やってます!」
四人目。ハインハウルス総合魔術研究所研究員・ソーイ。
「フリージアです。右に同じ」
五人目。ハインハウルス総合魔術研究所研究員・フリージア。
「ライトです。一応勇者やらせてもらってます」
六人目。ハインハウルス軍演者勇者ライト。以上の六人で――
「――何の集まりなんですかこれ!? 普通に挨拶しましたけど! 俺会食って聞いてましたけど!」
――食事が始まったが何の集まりなんだかさっぱりわからない。ソーイはおろかフリージアまでいる。頑張ると決めたもののこういう対面はいささかライトは気まずい。
「何ってライト君、男三、女三、三対三の食事。――合コンという奴だ」
「何故合コン!?」
「ハインハウルス総合魔術研究所との直接交流は私はあまりないのでな。いい機会だから気楽な形で交流を深めたいと思ったのだ。決して美人で噂のフリージア君の顔を拝みたかったわけじゃないぞ、決して」
あ、この人、絶対それが理由だ。――朝のあれは何だったんだ。
「国王様直々の招待状だから断れないのを良い事に、こういう連れ出し方をするとはね。権力の使い方を覚えたわけ。ふぅん」
フリージアがこちらを見ることなくそう吐き捨てた。――違う、違うんだジア、俺は何もしてない!
「ああフリージア君、ライト君を責めないでくれ。今回に関しては本当に私の独断なのだ。深く考えず、食事を楽しんで貰えると嬉しい」
すかさずヨゼルドのフォロー。ライトも一安心。
「そうそう、勇者君は権力の使い方はこれから覚えていくんだもんねー」
更にレナのフォロー……
「じゃねえ! 覚えていく気ないから! 俺は権力に溺れません!」
「流石ですなライト殿。権力に溺れてしまえば今騎士団に揃えている可憐な女性陣が離れてしまいます」
「理由もそんなんじゃなくてね!?」
「王様ゲーム!」
「いよっ! 流石若ナイスタイミングですな!」
「待ってましたー!」
なし崩しに合コンが始まって少し経過すると、最初から用意していたのかヨゼルドがくじを取り出す。兎に角テンションが高いヨゼルドと、合コンというイベントが楽しいニロフ。そしてイベントにテンションを上げてくれるソーイ。
「……はぁ」
フリージアは溜め息混じりにアルコールを口に運びながらチラリ、と呆れ顔で見ていた。
「勇者君、今更なんだけど」
「うん?」
「合コンって出会いの場所でしょ? 男子三人が知ってる人って私は一体どうしたら」
レナは始まって数分で冷静になっていた。確かにどうしたらいいんだろうか。
「勇者君となんて行動一緒にしない日なんてほぼないじゃん。私の下着事情まで知ってるし」
「何か全部を知り尽くしたみたいな言い方止めて!? あの日は不可抗力だよ!?」
そんないつものやり取りをしていると、不意に感じる視線。ハッとして見れば、
「…………」
「……え、あ」
フリージアだった。冷たい目でこちらを見ている……と思ったら直ぐに視線を外された。更に気まずくなった。明らかに誤解された。――というわけで、六人の中で地味に一番帰りたいライトだった。違うんだこんな距離の詰め方求めてない。
「王様だーれだ!」
そんな中進行する王様ゲーム。一回戦、王様になったのは、
「あ、私ー」
レナだった。――ライトとしては中々に要注意人物である。何せ平和な場面では突拍子の付かない事を言い出す人物。頼むからこれ以上おかしな事は……
「じゃあ、三番が国王様に私の賃金の値上げを要求する」
「突拍子付かないだろうとは思ってたけどそれ王様ゲームでやる注文!?」
「だから私男女の集まりとしてはこの飲み会興味ないんだってば」
ハッとして見ればニロフがヨゼルドにレナの賃上げ交渉をしていた。三番はニロフだったらしい。何の図だ。
「王様だーれだ!」
続いて始まる二回戦。王様になったのは、
「ふふふ、私だ!」
ヨゼルドだった。――これはこれで危険な匂いがした。この状態のヨゼルドはただのスケベなオジサンである。お酒も入ってセクハラな命令をしてとんでもない事に……
「では行くぞ。――二番と四番が、ハインハウルス王国国王の国王としての素晴らしい所を言う!」
「国王様!? 何か願い事が切実なんですけど!」
「生の声が聞きたいのだよ私は! デスクワークしてても国民の噂なんて聞けないの!」
セクハラな要求は微塵もなかったが合コンでする話ではないだろう。とりあえずソーイとレナがヨゼルドを政治的観点から褒めていた。二番と四番だったらしい。
「王様だーれだ!」
三回戦。王様になったのは、
「私でーす!」
ソーイだった。――ライトは一安心……していいのか迷った。一安心していい程ソーイの事は知らない。
「じゃあ、とりあえず定番いっておきましょうか! 一番と五番で〇ッキーゲーム!」
だがそんなライトの不安はすぐに消えた。合コンらしい定番の遊びをソーイは提示。――ふぅ、これなら安心……
「はい、それじゃ一番と五番は名乗り出てー!」
「……あ」
出来なかった。ハッとして見れば、ライトは一番のくじを持っていた。
「はい、一番はライトさんですね! じゃあ五番は」
「……あたし」
「……え」
フリージアだった。――ライトに新たなる試練が降りかかるのであった。
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