第198話 演者勇者と「あこがれのゆうしゃさま」3
「さて、この辺りでいいかな」
レナに勇者の任務サボってみない、と提案され、何となく返事に困ってる間に半ば強引にハインハウルス城下町まで連れて来られた。――既に城下町に来てしまってる時点でサボってしまったという事実。
「ここまで来ちゃってから訊くのもあれだけど、俺サボるとペナルティとかあるのかな」
勇者を立派に演じるのが任務。それを放棄してしまったのだ。減給、謹慎、解雇。色々なフレーズが過ぎる。
「一回位大丈夫だって。話は皆が聞いてくれてるわけだし。私なんて何度サボってその度にマーク君に上手く誤魔化して貰ったかわかんないよ?」
「何でそんな自慢気に言うかなそれ!? 全然胸張って言うエピソードじゃないよ!?」
ああマーク、元気ですか。君の元上官は今日も元気です。僕が代わりに今振り回されてます。
「つーかもう後に引けないんだから、後悔は後にしなって。遊ぶ時は何も考えないのが一番だよ?」
「まあ、そうではあるんだけど。……というか、遊ぶってここで何するんだ?」
「まずは合流」
「合流?」
一体誰と、と思っていると。
「呼ばれて飛び出ていざ参上ー!」
クルクル、スタッ!――二人の背後に何処からともなく着地する人影。振り返れば、
「やっほー、元気してたん二人共」
「フュルネ!」
雷鳴の翼及びライトとレナの秘密の友人、フュルネだった。
「どうしてここに?」
「レナに呼び出されたねん。丁度怪盗としての活動も休みだったし。――あ、これ土産な。この前盗みに入った悪徳貴族からかっぱらって来たんや。好きなの選んでいいで」
「あ、このピンク可愛い。私これがいい」
「コラー! 流石に軍の人間として窃盗品貰っちゃ駄目だろ! 駄目!」
流石にこれだけはやってはいけないとライトは必死にあげようとするフュルネと貰おうとするレナを止める。
「ちぇっ、ケチ臭いなあ勇者君」
「ホンマやで。ちょっと位ええやん。……で? ウチは今日何で呼ばれたん? また厄介事でも起きてるん?」
「ううん、今日は普通に三人で遊ぼうと思って。勇者君と私、二人だけじゃ味気ないから呼んだのよ」
「マジで!? わざわざウチ誘ってくれたん!? や、嬉しいわー! ありがとなレナ!」
本当に嬉しそうな笑顔でフュルネがレナに抱き着く。大げさな暑苦しい、という表情をレナは隠さない。
「ライトもありがとな。安心していいで、今抱き着いてあげるから」
「順番待ちしてませんけど!?」
まあでも嬉しくないとは言わない……いやいや今そういう話じゃない。
「とりあえずご飯食べようよ。遊ぶのはそれからで」
「三名様ですね、ではこちらからお入り下さい!」
昼食を終え、さて何しようかと街を歩いていると、最近出来たというアトラクションが楽しめるという建物を発見。三人で入場する事に。
「ではこちらの地図をどうぞ! この館に眠る秘宝を探し出して下さいね!」
案内役の女性に地図を渡され、大きな屋敷内に。どうやら地図を参考に協力しつつ謎を解きつつ進み、ゴールを目指す様子。
「って、これは普段のフュルネがやっている事とあまり違いが無いのでは」
「そんな事ないで。ウチは悪い事して金はあるけどセキュリティが甘い所から盗みをする。でもこれは向こうからの挑戦状っていうシステムやん? 立場がちゃう。――今度ウチの仕事に一緒に来るか? よぉわかるで」
「相手が悪人でも俺を犯罪に巻き込むのは止めて!?」
それこそサボり所では無くなる。
と、そんな会話をしていると最初のチェックポイントに。
「んー、正しいボタンを押せばドアが開くけど、間違いを押すと罰ゲームだって」
ボタンが四つ並び、その上にはどのボタンか選ぶ為のヒントと思われる紙が貼られている。
「フュルネさあこういうの得意じゃないの? ぱーっと解いてよ」
「ウチは暗号言うても謎解きの暗号は出さへんよ」
「まあ待て二人共、こういうのはちゃんとヒントを読めば」
丁度真ん中に立っていたライトはヒントを見て真剣に考える。こういう文章はまず見る角度を変えて――
「あ、どれかが正解なら全部押せばいいんじゃない?」
「そやね。謎解き出来なくても罠の解除は得意やで。行くでレナ、せーの」
「え、いや今結構いい所まで解読出来て」
ポチッ。――右二つをレナ、左二つをフュルネが同時に押す。すると、
「お」
ガチャッ。――ドアの鍵が開く音がして、
「おっとぉ下やね」
「うぉう!?」
カポッ。――立っている所の地面が開き、床が無くなる。そのまま穴に落ちそうになるライトの右手をレナ、左手をフュルネが握り一歩後方へジャンプ、罠を回避した。
「ほら出来た」
「ほら出来たじゃないよ!? 俺結構いい所まで考えてたんだぞ!? 普通は落ちてるぞ今の!」
逆に言えば超反応で落ちる前にライトまで助ける二人の実力が飛び抜けているという証拠でもあった。――穴の中はクッションとスライダーになっており、滑ってスタートまで戻されるギミックの模様。
「あのー……お客様、そういう解決方法は少々困るのですが」
と、その様子を見ていた係員が苦笑しながら話しかけてきた。――そりゃそうだろ。これだけで全部解決出来るわ。普通の人はこんな事出来ないし。
「ほら、怒られただろ! 遊びに強行突破を織り交ぜるんじゃない!」
「じゃあ仕方ない。――フュルネ、そっち任せた」
「ほいほーい」
そう言うと、今度はレナが右側から、フュルネが左側からライトに抱き着く。
「え、ちょ、何だ急に」
「せーの!」
そしてその状態のまま、開いた地面の床下――クッション滑り台へとダイブ。
「ちょおおおおい! 行くなら行くって言ってくれえええ!」
「勇者君が大人しく落ちろって言ったんじゃん」
「言ったけどさあ!」
「あはははっ、結構スピード出るやん! あれでも狭ない?」
「三人ひと固まりで滑ってるからでしょうよぉ! 危ないってこれ!」
「仕方ない。フュルネ、もっとガッチリ勇者君に抱き着こう」
「そやね」
「離れるという選択肢は!? って、ちょ、抱き着くついでに俺の視界を塞ぐの誰だ!?」
「見えない方が興奮するでしょ」
「言い方! というか今前見えないの怖いぃぃぃ!」
そんな風にスタートに戻ると、滑り台の滑り方に関してやはり係員に三人は注意を受けるのであった。
「お、セールやて。服見いひん?」
アトラクションを堪能(?)した後、再び街を三人で歩いてると、フュルネからそんな提案。見れば大手の洋服店が特売の様子。
「俺そういうのあまり詳しくないんだけど、男物女物で違うだろ。三人で見れるものなの?」
「じゃあジャンケンで決めるで。ウチが勝ったらレナの下着、レナが勝ったらウチの下着、ライトが勝ったらウチとレナの両方の下着見ようや」
「下着以外の選択肢を下さい!」
男女問わずお気に入り可愛い綺麗な物が大好きなフュルネらしい選択肢であった。ウブやなあライト、とフュルネは笑う。――兎にも角にもとりあえず店に入ってみる。
「そういえば服なんて買ってないな……」
演者勇者として着任後、衣服も部屋に一通り揃えられていたので買う必要性が無かった。
「ならウチとレナでコーディネートしてあげるで。まずは……上着やな。こんなんどう? イメチェン出来るやろ」
「ダンディ勇者君になれるじゃん。じゃあ下はこれだね」
「じゃあ帽子も被ろうや」
「こうなってくると髭も欲しくない? つけ髭つけよう」
「となるとステッキが」
「ワイングラスでワイン回さないと」
「ちょいやらしい感じの美人秘書を」
「俺で遊ぶなあああ! 俺をどうしたいんだお前等!」
洋服屋にいやらしい美人秘書が売ってたら怖い。あははは、と笑いながら謝るレナとフュルネ。――まったく。
ライト弄り(?)も落ち着くと、普通に服を見ながら店内を周る形に。
「なあなあライト、これとこれ、どっちが似合うと思う?」
「フュルネだったら右の方じゃないか? レナだったら左な気もするけど」
「へー、これが勇者君の好みなんだ、結構いいじゃん。勇者君が買ってくれるなら勝負服にしようかな」
「理由が現金な奴め……」
まあ、でも。
「――それで良かったらプレゼントするぞ。フュルネもさっき選んだのでいいなら」
「え? 本当にいいの?」
「偶にはな。勇者の給金って結構いいんだ」
それに、今回の一連の催しの目的が、俺の考えてる理由なら、な。
「やったー、おおきに! ウチも大事な時に着るわ」
「大げさだって、そこまで高くないだろ」
「じゃあじゃあ、お礼に今度こそ私とフュルネの新しい下着、選ばせてあげよう」
「何でそうなる!?」
「そりゃそうやろー、服は上だけじゃなくて中も大事なんやで。気持ち入るしなー」
ガシッ。ライトは右手をレナ、左手をフュルネに掴まれる。そのまま三人は下着売り場へ――
「って本当に行こうとしてる!? いや違う、それが目的でプレゼントしたんじゃない!」
「まあまあ」「まあまあ」
「何がまあまあなの!?」
選んでるの見ちゃったら今後色々想像しちゃう機会が出来ちゃうでしょうが!……とも、何となく言えないライト。ああ、俺は弱い。何て色々弱いんだ。
「あー、楽しかったわー、ホンマに」
洋服屋の後も三人で遊び回り、時刻はあっと言う間に夕方に。流石に夜になる前に城に戻って謝罪したい気持ちがライトにはあったので(レナには無かった)、ここで解散という事になった。
「誘ってくれてありがとなー。友達と遊ぶのなんていつぶりかわからへんかったし」
「ま、楽しんでくれたならわざわざ呼んだかいがあったかな」
「ライトも。服、おおきにな。次会う時楽しみにしててーな」
あれから下着をどうしたかは……想像に任せる事にする。
「じゃ、ほな二人共。また遊ぼうなー。……ああそだ、レナ」
直後、スッ、とフュルネはレナの横に行き、少しだけ耳元に口を近づけ、
「話せる範囲でええ。事情、今度聞かせてーな」
そう、小声で伝える。ライトには聞こえなかったが、聞こえたレナは軽く溜め息。――まあ、この状況下で感じるなっていう方が無理かもね。覚悟の上で私も誘ったし。
そのままフュルネは手を振りながら、群衆の中へと消えていった。ライトとレナも軽く手を振ってその姿を見送る。
「さ、私達も帰ろうか」
「そうだな」
二人もそのまま、城への帰路につく。
「……本当に壮大にサボっちゃったな」
ここまで完璧にサボるつもりも無かった。しかも楽しんでしまった。……ここへ来て罪悪感が増す。
「ホント、勇者君は真面目だよねえ。偶にはこういう事しないと駄目だって。ほら、私達は立場上色々あるわけじゃん? 逃げられない案件だって沢山あるわけだし。いつかはそれに立ち向かうなら、こういう時があったっていいと私は思うわけよ」
「そう言って昔からサボって来たんだろ色々」
「まあね」
悪びれず言い切るレナ。いつも通りだった。――逃げられない案件、か。レナがわかって言ってるのかどうかはわからないけれど。
「……なあ、レナ」
「んー?」
それでも、こうしてアクションを起こしてくれた相棒に、義理を果たしたい。
「今日もう少しだけ、サボれるか?」
「……それって」
「聞いて欲しい話があるんだ。いや、聞かなくてもいい。俺の独り言になってもいい。でもその間、隣に居てくれないかな」
ふっとその表情を見ると、優しい目で、レナは自分を見てくれていた。そして、
「しょうがないなあ。サボろうって言い出したのは私だしね」
そう、承諾してくれるのであった。そして――
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