第103話 演者勇者と学園七不思議11

「貴女は……勇者様の……騎士団の……」

「リバールと申します。エカテリス様の専属使用人兼ライト騎士団所属。――申し訳ありませんが、私は治癒魔法は得意ではなくて。彼らを打破するまで、そこで休んでいて貰えますか」

 落ち着いた表情でそう告げると、リバールは改めて愛用の二刀流短剣を持ち直す。

「駄目です……あの人達、普通じゃありません……何をしてくるか……」

 リバールを疑うわけではなかったが、実際に戦ったアルテナとしては、流石に三人を相手に優勢に立てるとは思えなかった。――自分の為に、犠牲者など出て欲しくない。

「普通じゃない、ですか。――普通って何でしょうね?」

「……え?」

「私も多分、普通ではありません。それでも姫様に選んで貰えたから、こうして真っ直ぐ前を向いています」

 だがそんなアルテナの想いを他所に論点のずれた返し。アルテナが戸惑っていると、リバールが地を蹴り、高く飛び、空中から攻撃を仕掛けに入る。

「悔い改めよ」

 対する白装束三人。内二名がリバールの動きを牽制する為に風魔法を放ち、

「…………」

 シュバババ!――動きが制限された所で、残りの一人が再び無数の針を放つ。

「!」

「あ……そんな……!」

 アルテナが助言する暇もなく、リバールはその無数の針を喰らってしまう。――が。

「ふっ!」

「がはっ……!」

 ズバズバッ!――リバールは何の躊躇いも鈍りもなく、針を放った白装束に連続斬撃。更にはミドルキックで思いっきり蹴飛ばし、間合いを作る。

「ああ、毒ですか。――期待外れで申し訳ございません、この程度の毒は効かない様に仕上がってまして」

「!?」

 そしてそのまま何事もなかったように刺さった針を抜く。――忍者ならではの特性。現役だった頃、訓練で少しずつ体内に取り込み、基礎的な毒素に関しては耐性が出来上がっていた。

「さて、我ながら卑しい考えですが、貴方がたを撃破すれば、こっそり潜入していた罪とチャラにして貰えそうですね」

 その言葉の直後、リバールは消えるように高速で移動。白装束達に接近戦を挑む。――あまり大っぴらに忍術を使いたくないという考えからの選択肢である。

 忍術を使わない、というのは勿論リバールにとってハンデになるが、そのハンデを物ともせず、三対一の激しい接近戦を展開する。

「悔い改めよ」

「それ以外言う事ないんですか?――ああ、今のレナさんっぽい感想ですね」

 実際、白装束達はそれ以外何も発言して来ない。自分達は何者なのか、目的は何なのか、当然何も伝わらない。不気味ではあった。

 それでも、とりあえずやる事は一つだけ。――確実に、勝利する事。

「まあでもそうですね。当然私にも悔いも罪もありますが――それを見ず知らずの貴様らに指摘される筋合いはない」

「!?」

 瞬時に迸るリバールの殺気。辺りを圧倒的威圧感が包み込む。

(この人……本当に、王女様の使用人なの……!? 王女様の使用人となると、ここまでの人じゃないとなれないの……!?)

 それは守られている側のアルテナすら怯えてしまう程の物。リバールの正体を知らなければ尚更である。

 そこからはリバールの独壇場と化していく。先程よりも更に速度、攻撃に鋭さが増し、三対一で互角の接近戦が、徐々にリバールに優勢に傾き始める。

「さて、そろそろその装束の下の顔を拝んでみたいですね」

 薄っすらと笑い、二刀流短剣を持ち直すリバール。当然白装束達には焦りが走る。

「っ……悔い改めぶふぉおぉ」

 タタタタタ、バキッ!――そんな中、言葉の途中で飛び蹴りが入り、一人吹き飛ばされる。元々リバールとの戦いでダメージが重なっていたのもあり、見事なノックアウトとなった。

「……もしかして、大事な会話の途中だったりしました?」

「いえ、全然。――見事な飛び蹴りです、ハルさん」

 結界の外にいたライト騎士団より、先行して到着したハルである。ハルはそのまま直ぐにアルテナの所へ。

「アルテナ先生、私は騎士団の中で機動力が一番あったので先行して来ています。退避中の生徒達は勇者様が保護、無事に脱出させていますのでご安心下さい」

「! よかった……! ありがとう、ございます……!」

 生徒達にもしもがあったら。――やはりアルテナの一番の心配はそこだったので、ハルの報告で一気に気が抜ける。

「さて。――そういえば、先輩と私、二人で戦うって中々ないですね」

「メイド二人がツーマンセルで激闘ですか。あまり男子生徒の教育には良くないかもしれないですね」

 三対一がハルの参戦、一人ノックアウトにより、二対二となり、大きくライト騎士団側が有利となって戦闘再開となる。

「いちいち着替えないのはずぼらなんでしょうか。私も一応先輩と同じで戦闘服はあるんですが、先輩と違って瞬時に着替える術はないもので」

「ハルさんキックの時はどうしてます? 普通にやったらスカートの中が丸見えですよね?」

「悔い……改め……っ!」

「速度と角度に気を配れば見えないですよ。いざとなれば風魔法を使って調節しますし」

「思ったんですが、今度オーダーメイドで特殊な魔術を組み込んだ仕事着、作って貰いませんか? いちいちキックの時に気を配らなくてもいい様に」

「く……悔い……改……!」

「あ、いいですね。相談してみましょう」

 戦闘しつつの会話。それはもう余裕の表れ。――実際、一対一で負けるリバールとハルではなかった。あっと言う間に白装束を追い詰めていく。

「と、いうわけで。――そろそろ観念して、悔い改めよ以外にお話して下さるのであれば、命の保証は致しますが」

 リバールが最後の警告を告げる。表情はやはり伺えないが、息も荒く、追い詰められているのは歴然だった。観念するか、と思っていると――

「神よ、我らに救いを!」

「!」

「先輩っ!」

 ズバァァァン!――突然起きる爆発。リバールとハルはアルテナを保護しつつ退避。爆発で粉塵が舞い、数秒視界が悪くなる。落ち着いた時には、

「逃走か……自爆か。跡形もありませんね」

 爆発で地面が抉れ、そこに白装束の姿は無かった。先に倒していた二人も含め、四人共である。爆発に紛れて逃げたのか、跡形もなく自爆したのか。最早そのどちらかかもわからなくなっていた。

「やっと違う言葉を話したと思ったらこれですか。迂闊でしたね」

「私達の役目は第一に生徒さんとアルテナ先生の保護です、それは成功してます。一旦戻りましょう、先輩」

 そこで立っていても仕方がない。ひとまずは仲間との合流の為に、アルテナに肩を貸しつつ、移動をする事に。

「そういえば先輩、どうして先にこの結界の中に入っていたんですか?……まさか」

「そこに私の愛があったからですが」

「うーわ」

 そんな会話をしながら歩いて行くと、やがて仲間達と無事合流出来たのであった。



「あ、ライトくん達!」

 サラフォンの指摘。結界システムの調査をしていたサラフォン、巻き込まれていない生徒達を教室に戻し、落ち着かせるのを教師と共に行っていたエカテリスが結界を突破して突入したライト達を出迎える。

「無事で何よりですわ」

「その代わり、問題点が浮上しちゃったみたいだけどね……」

 ライト達はリバール、ハルから戦闘の様子を聞いていた。襲って来た白装束は何者で、どうやって結界を突破して、何が目的で、何処へ消えたのか。――何一つ解決出来ていない。エカテリス、サラフォンにも説明すると勿論うーん、という雰囲気になってしまう。

「あ、ハルとリバールさん! アルテナ先生も無事だよ!」

 考えていると次いで帰還、ハルとリバールにアルテナ。

「先生! アルテナ先生!」

 と、その姿を見かけると同時にアルテナを呼びながら近付いてくる声。――アルテナが庇った五人の生徒達であった。

「皆、無事で良かったわ」

「先生も無事で良かったよぉ……あたし達ずっと不安で……ティシアなんて泣いちゃうし」

「だ、だって……先生、私達の為に……ぐすっ」

「ありがとう、心配してくれて。ほら、先生なら大丈夫だから」

「先生っ……!」

 応急処置のおかげで、アルテナは自分で歩ける程度には回復していた。優しく微笑み、涙するティシアの頭をふわり、と撫でる。

 先生として、慕われてるんだな。――そんな感想をライト騎士団の面々が感じたその時。

「アルテナ先生! これは一体どういう事なの!?」

 暖かく染まりつつあった空気を悪い意味で壊す様にアルテナを呼びながら近付いてくる声。――学園長、スージィカだった。横にはシイヤの姿も。

 ドン、とアルテナの周囲にいた生徒達を軽く押し退けるようにしてスージィカはアルテナの前へ。

「システムの故障ならどうしてテストを始める前に気付かないの!? 生徒達を危険な目に合わせて、親御さん達にどう説明すればいいか!」

「……申し訳ありません」

「まったく、伝統ある学園の教師として恥だわ! 何を考えているの!?」

 物凄い剣幕で怒るスージィカ。あまりの勢いにアルテナに助けられた生徒達は怯え、ライト達は呆気に取られてしまう。中々の想定外の勢いだった。

「あの、学園長先生」

「何、言いたい事でもあるの!?」

「今回の事故なんですが、どうも――」

「言い訳なんて見苦しいわ! 反省しなさい!」

 最早取り付く島もない。アルテナは何も言えなくなってしまう。

「何あれ、やば。ちょっとソフィ、ハーブティー飲ませなよあれに」

「頭から熱々のをぶっかければいいか?」

「あ、ごめ、狂人化してたんだ。いやそりゃするか」

 少し離れた所で見ていたレナとソフィの会話。他にも口には出さないだけで、一体何なんだ、という想いは一致であった。事故の原因がアルテナにあるわけではないのに、何故にあそこまでアルテナを責めなければいけないのか。しかも相手の話を聞く耳を微塵も持たない。

「この学園の事を把握しているわけではないですけれど、トップとして疑問の姿ですわね。お父様を見習って欲しいですわ」

「大体さあ、今回の試験統括してんの、アルテナ先生じゃなくて甥っ子先生じゃないの? そっち責めればいいじゃん」

 ある意味周囲の目を忘れ、ヨゼルドと比較するエカテリスに、ここぞとばかりにシイヤをどうにかして欲しいと思うレナ。

「シイヤも何をしていたの!? アルテナ先生に任せられないなら貴方がちゃんとしなさい!」

「あ、認識してんだそこは」

 しかしヒートアップしているので二人の声は届いてはいない(と思われる)中、矛先がシイヤにも向く。

「な、待ってくれ叔母さん、今回は原因不明のエラーだ、俺のせいじゃ――」

「それが発生しない様にするのが貴方の仕事でしょう! 無責任よ!」

 そしてこちらにもまったく聞き耳を持たないスージィカ。シイヤもあからさまに怒りの表情を見せるが、言っても無駄と感じたか、それ以上口を開くことはなかった。

(何だ……? 何がそこまでこの人を駆り立てるんだ……?)

 流石に対応、態度、違和感しか感じ取れない。トップ云々の前に人として間違っていないだろうか。――ライトは意を決して、一歩前に出る。

「スージィカさん、いいですか?」

「勇者様! ウチの教師達が大変お恥ずかしい姿を見せてご迷惑をかけて……」

「いえ、迷惑だなんて思ってません。ハプニングですから助け合うのは当然です。――俺達も現場近くにいましたけど、原因は不明でした。もしかしたらアルテナ先生シイヤ先生、一個人の話じゃないかもしれない。正式に調べてみた方がいいんじゃないですか? それに」

 チラッ、とライトはアルテナを見る。シイヤは何をしていたか知らないが、アルテナが必死に戦っていたのは知っている。

「アルテナ先生は、教師として生徒を守る為に戦っていました。教師として、恥ではないと思いますよ」

 そのアルテナを、状況をしっかりと知らない彼女が恥だと貶すのはあまりにも酷い話。

「……勇者様は、私が間違っていると?」

「そんな事は言ってません。でも、もう少し状況を汲んであげてもいいんじゃないですか」

 そのライトの言葉に、スージィカは一瞬黙る。

「……偉そうに」

 そして少しだけそっぽを向いてボソッ、と呟く。ライト達の耳には届かないが――次の瞬間。

「リバール! 駄目よ!」

 エカテリスの言葉。ハッとして見れば、腕を出してリバールを制止していた。――リバールには聞こえていたらしく、「何か」しようとしていた。それを察したエカテリスが制止した様子。

「大よその予測は付きます、私達も恐らく同じ想いですわ。きっと貴女なら証拠も残さないでしょう。でも、駄目よ」

「……承知致しました」

 え、え、何、とライトが戸惑っていると。

「とりあえず私は一旦失礼します。今回の件の仕事も出来てしまうでしょうし。――シイヤ、アルテナ先生、二人もまずは業務に戻りなさい」

「……ああ」「……はい」

 そう言い残し、スージィカは去って行った。続いてシイヤも無言で去り、最後にアルテナが丁寧に大きくライト達にお辞儀をした後、生徒達を連れてその場を後にした。

「……何だったのよ結局」

 軽いフレーズだが、レナのその感想と似たり寄ったりの想いを残されたライト騎士団は浮かべていた。わけがわからない。何故にあんなに理不尽に怒らなければならないのか。

「良く言えば、自我があそこまで強いからこそ、ここまで学園を大きく出来たのかもしれませんなあ。それが正しいかどうかは別として、ですが」

「ごめん、やっぱり俺何も言わない方が良かったかな? 亀裂生まれた?」

「そ、そんな事ないよライトくん、ボクは怖くて絶対言えないけど、でもアルテナ先生が駄目なんておかしいとボクも思ったもの」

「支障が出る様でしたらこちらも正式に対策を練りましょう。それこそヨゼルド様にお願いしても構わないはずです」

 こうして、不穏な空気のまま、実地試験は終了するのであった。

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