第98話 演者勇者と学園七不思議6
「――それでは学園長、全面的にこちらのお話を呑んで貰えると」
ケン・サヴァール学園、学園長室。学園長であるスージィカがソファーに座り、テーブルを挟んでやはりソファーに座っている一人の若い女性、その女性の側近として隣に立っている男性と会談を行っていた。
「勿論です。私には、ずっと神様の思し召しがあると信じていました。タカクシン教のご加護があれば、学園も、私もより幸せになれると信じています」
「良い心がけです。その言葉、想い、忘れる事の無き様。――マシュー」
「はっ」
合図を出すと、立っていた男が契約書をスージィカの前に置く。スージィカは迷わずそれにサインをした。
「これで契約成立ですね。具体的な話はまた今後、ゆっくりと詰めて行きましょう。――それでは、今日はこの辺りで」
「ありがとうございます」
笑顔で頭を下げるスージィカを背中に、二人は学園長室を後にする。
「――流石です、キュレイゼ様」
ドアから離れ、声が届かなくなった所で、男――マシューが声をかける。
「私が何かをしたわけではない。あの女、最初から自分の力があれば、自分の人柄なら神に救われて当然だと思い込んでいるタイプだ。学園長だか何だか知らないが、手玉に取ってくれと言わんばかりの人間だよ。神に選ばれし存在には程遠い。精々、駒として資金源として利用させて貰うとしよう」
冷静な面持ちのまま、女――キュレイゼはそう分析する。
「クレーネルに手を出されないように気を付けておきます。こちらが見つけた格好の獲物を横取りされたらたまりませんから」
「流石にあの女も人の手柄を横取りする程落ちぶれてはいまい。――逆に、奴には迂闊に手を出すなよ。実力もそうだが、何せあの女「あの方」のお気に入りだからな」
「忌々しいですな。何故あの女が」
「発言にも気を配っておけ、何処で聞かれるかわからんぞ。私は簡単にお前を失うわけにはいかないからな」
「勿体なきお言葉……! しかしマシュー、キュレイゼ様の為ならいつでもこの身を投げ出す覚悟!」
「お前の忠誠には感謝している」
「はっ!」
実際に感動した様で、精一杯の返事をマシューはキュレイゼに返す。
「……フフッ」
「? どうかなされましたか?」
「いいや、何でもないさ」
不敵な笑みをキュレイゼは浮かべる。――そう、私は「まだ」お前を失うわけにはいかない。もっと重要な場面で、精一杯利用させて貰うぞ。それまで精々、私に尽くしてくれればいいさ。
(それこそ、クレーネルも、「あの方」も、神も……私の目的の為なら、全て利用してみせる)
謎の二人組は、そのまま学園を後にするのだった。
「私はね勇者君、決して怒ってるわけじゃないんだよ」
「うん」
ケン・サヴァール学園食堂。ライトとレナは向かい合って食事をしていた。
「だから若干目の前に食べ物が多いのもその憂さ晴らしじゃないし、今別に君を咎めたいわけでもない」
「うん」
いや絶対怒ってるし今咎められてるよ俺。デザート二人前一人で食べる気満々じゃないか。
「たださ、何であそこでもっとガッ、と言ってくれないのかと」
話は少々前、ライトとレナがシイヤに話しかけれた所まで遡る。
「いえ、俺が話をしたいのは、貴女です、レナさん」
シイヤはレナを見て、そうハッキリと言い切った。
「……私? いやだからさ、勇者君と話したいなら別に直接話して大丈夫だって。私のコネクションいらないって」
「そうではなくて。護衛の貴女の姿に、興味があるんです」
「はぁ?」
その発言に、レナの表情が分かり易く崩れた。
「護衛というからには、もっと警戒心が強かったり、人数が多かったり、分かり易い所が多そうな物ですが、貴女からはそれが感じ取れない。だが、勇者様の護衛として選ばれているということは、周囲はおろか、国王様でさえも認める程、貴女の実力が高いということだ。相当にね。一目見てそう思った時、人として、男として、興味が湧くのは当然の事」
「…………」
要は、シイヤはレナの実力を見抜いた上で、立場を知った上で――口説いている。
「勇者様。逆に、レナさんとお話するのに、貴方の許可は必要ですか?」
「いえ、別に許可は要りませんが」
「良かった。――レナさん、今度お食事でもいかがですか。貴女の都合の良い時でいい。ゆっくりお話しましょう」
そう言って、シイヤはその場を去ろうとする。
「シイヤ先生」
そのシイヤを、ライトは一旦足止めした。
「今の話の意図がわからない程俺は鈍感じゃない。勇者でも、決して護衛のプライベートに口を挟む権利は無いし、挟むつもりも無いです。でも、目の前で聞いてしまった以上、言っておきたい事があります」
「何でしょう?」
「彼女は護衛である前に、大事な仲間です。その彼女が困るような事になるなら、遠慮なく口を挟ませて貰いますよ。勇者ではなく、人として」
ライトとシイヤの視線がぶつかる。シイヤが直ぐにふっ、と笑う。
「わかりました。肝に銘じておきます」
軽く頭を下げると、改めてシイヤはその場を後にするのだった。
「私があの甥っ子先生に好感触持ってないのわかってたでしょ。拗れる前に勇者パワーでドン、で良かったのに。それこそ勇者チケット使ってでも」
「流石にその使用法は俺国王様に怒られるよ!?」
私物乱用もいい所である。
「実際問題、俺に止める権利は無かっただろ……悪人罪人なわけじゃないし、実は気が合う可能性もゼロじゃないし」
「そうだけどさー……まあ、最後に一言? 言ってくれたから我慢するけど」
勢いで言ったけどあれ言わなかったら俺どうなってたんだ、と思うとゾッとするライトだった。――でも、レナ、か。
実際、レナは目を惹く美人である。そしてシイヤの推理通り、多少の態度を飛び越えても任せられる実力の高さ。これ程の逸材は、そう出会える物ではないだろう。シイヤの気持ちもわからないでもないライトだったり。
「あら、ライトにレナもここで食事?」
と、不意にそんな声。
「エカテリスに……アルテナ先生?」
見れば、食事を乗せたトレーを持った二人が一緒に歩いて来ていた。隣も丁度空いていたのでそこに座る。
「アルテナ先生に、色々話を訊いてましたのよ。皆は先生としての話は受けているけど、生徒としての話は私が個人で受けるべきだと思ったから」
「熱心で驚きです。期間限定じゃなく、ずっと通って欲しい位です」
何事も全力で挑むエカテリスである。当然生徒としての熱意も本物だろう。生徒会長とか似合いそうだなあ、とライトは思った。
「愛好会、研究会も色々あるみたい。午後、見学に見て回ろうと思ってますわ」
ドサッ、とテーブルの空いた箇所に活動している愛好会、研究会の資料だろうか、パンフレット、チラシの束を置く。気になったのでライトは見てみる事に。
「スポーツの類から、趣味の類まで……へえ、凄いね、これは通ってたら俺も迷いそうだ」
「勇者様愛好会があったら迷いませんのに」
「ある意味無くて安心するよ……」
程よく無かった。もし存在して呼ばれでもしたらライトは色々ピンチである。
「エカテリス様は、勇者様の事を随分と想ってるんですね」
「当然ですわ! 私の憧れですもの! 私の気力の源は、勇者様の為ですもの! 勇者様の為なら私は――」
「ストップ、エカテリス、ストップ!」
「え?……あ」
いつもの勢いで語るエカテリスだったが、この場でアルテナからすれば勇者はライトであり、つまりエカテリスが熱弁、身を捧げる覚悟があるのもライトであり。――当の本人がここにいるわけで。
「あ、あのっ、そうではなくて、ライトはその、でもライトが嫌いとかそういうわけでもなくて、ライトはライトで」
色々な意味で顔を真っ赤にしてしどろもどろになるエカテリス。アルテナはつい笑ってしまう。
「勇者様は幸せ者ですね。王女様の事、大切にしてあげて下さいね」
「ははは……」
怪しまれずには済んだが、エカテリスは勿論、ライトにも恥ずかしさしか残らない。最早ライトは笑うしかなかった。
「勇者君と姫様はいいなー、幸せそうで。私なんて甥っ子先生だよ。帰宅部一択の私には所詮甥っ子先生なんだよ」
と、そんな様子を見てレナの中で先程の燻りがぶり返してきた様子。愚痴を零し始めた。
「?」「?」
「ああ、実は」
「?」マークを頭に浮かべるエカテリスとアルテナに、ライトはシイヤとの出来事を簡単に説明。
「無理もありませんわ。レナは美人だし実際優秀ですし」
「姫様にそう言って貰えるのはありがたいですけど、それとこれとは別ですよ……」
「シイヤ先生が、ですか……あの、もし本当にお困りになる様だったら、仰ってくれれば、私が上に懸け合いますから」
「ありがと。まあでもいざとなったら勇者君に庇って貰うんで。愛人枠はゲットしてるんで」
「その誤解を招く適当発言止めて!? 百歩譲って仲間なら兎も角知り合ったばっかのアルテナ先生にまで、信じちゃったらどうすんの!?」
「え、責任取って貰うだけだけど」
「だからぁ!」
そのやり取りで、何となくだがちゃんとしたレナとライトの関係性もアルテナは理解したようで、再び笑ってしまっていた。
「あ、あのっ!」
と、そんな四人のテーブルに近付いてくるのは、今度は三人の女子生徒。
「今、王女様が愛好会と研究会のパンフレットに目を通してるって聞いて……その、これ、私達の研究会のなんです、読んで貰えますか!」
緊張の面持ちで、代表して一人がエカテリスにパンフレットを差し出す。
「わざわざありがとう。勿論、目を通させて頂きますわ。時間が合えば、各会の見学も行こうと思ってますの。その時は宜しくお願いしますわ」
「は、はい、お待ちしています!」
エカテリスは笑顔でパンフレットを受け取りそう返事をすると、嬉しそうな笑顔で三人はその場を後にする。
「姫様、ホントに全部回るんですか? 絶対中にはつまんないのとかありますって」
「それは見てから判断しますわ。兎に角、留学生となった以上、出来る事はやるって決めましたの。いい機会だからライトの護衛じゃなかったらレナも連れまわしてましたわよ?」
「げ、危ない所だった」
「あれ? でもそれじゃ俺がふごごご!?」
「勇者君それ以上はいけない。私のケーキをあげるからそれで手を打って」
ライトの口に無理矢理ケーキを詰め込むレナ。それじゃ俺がエカテリスと一緒に行けばレナも一緒じゃん、という言葉は強制的にクリームの味に掻き消された。
「でも、実際興味を惹かれる会も沢山ありますわよ。ほら、今持って来た子達のも」
エカテリスは三人組のパンフレットをライトに手渡す。見れば、
「オカルト研究会……?」
手作りの可愛らしい、オカルトとは若干離れたパンフレットがそこにはあった。
「この学園の不思議を探っているんですって。歴史ある学園ですもの、隠された浪漫があるかもしれませんわ」
興味深そうにエカテリスはオカルト研究会のパンフレットを見ていた。――こういうのにも興味あるんだ。
「でも、それを理由に時々あの子達、旧校舎に近付くんです。先日も」
一方でアルテナが軽く愚痴を零す。――先日も、となると。
「リバールが見つけて、先生が注意しに行った時?」
案内の時の事が思い出された。生徒は近付いていいのか、というリバールのツッコミで、アルテナが注意に行った。
「はい、あれもあの子達なんです。駄目だって言われてるのに。その内本格的に侵入して、可笑しな事にならなければいいとは思うんですが」
「成程……」
あの旧校舎は秘密過ぎてオカルト研究の対象にまでなってるのか。
(本当に、何か秘密があったりするのかな)
火の無い所に煙は立たないって言うしな、などとライトは「まだこの時までは」軽く思っていたのだった。
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