第10話 演者勇者と聖戦士2
「騎士様、ウガムへいらしていただきありがとうございます!」
ハインハウルスを出発して一日半、ライト一行はウガムへ到着、町長の歓迎を受けていた。ここは町長の家の前である。
「町長を務めております、ムーライと申します」
「ソフィです。それから、こちらは勇者様。今回特別に同行して頂きました」
「なんと、これは軍の方々だけでもありがたいのに、勇者様まで来ていただけるとは! まだまだ私の運も尽きてはいないのかも」
ソフィから一歩下がってレナとマークに挟まれる立ち位置にいたライトに、ムーライは感激した様子。ライトもここで動揺や怪しい動きを見せるわけにはいかないと、笑顔で会釈した。
開口一番に挨拶をしたのはソフィであり、ライト達よりも一歩前で話を聞くこの状態は、自然と自分が中心となって話を聞きます、という形を作り上げていた。普通に考えたら勇者がいれば勇者が中心であるはずなのに、上手くその空気の流れを変えていた。それでいてレナとマークはしっかりとライトの左右で「護衛感」をアピール。各々の見事な動きにライトは感謝と感動を覚えた。
一行はそのまま町長の家の中へ。応接室に通された。流石町長と言えばいいのか、周りの家よりも一回り大きく、応接室も綺麗だった。――それよりも、ライトが気になったのは。
「町長さん、お若いですね」
ということだった。見た目からして三十台前半位だろうか。街の代表にしては若い。
「三か月前、前町長の引退に伴い、町長選挙を行いまして、当選しました。生まれ育ったこの街を、ただの田舎町で終わりにはしたくはなかったのですが、その熱意が伝わったようで」
「成程……」
改革推進派とでも言えばいいのか。ライトは素直に関心していた。今でこそ勇者ではあるが、自らではないという違いを感じたせいかもしれない。
「それでは、早速ですが詳しい話をお聞かせ下さい。私達は、坑道からのモンスターの出現ということは耳にしています」
「はい。――三か月前に町長になり、早速改革案の一つであった、テレニスアイラとの行路を繋げる工事を始めました。以前にはなかったんですが、運よく道に出来そうなルートを発見出来たんです。ですが何分工事もタダじゃない、金も人力も必要です。街の資金を賭けた、一大プロジェクトとなりました。ところが」
「坑道から、モンスターが沸いて出るようになり、工事の続行が厳しくなった」
と、そこでマークが鞄から大きな地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
「ウガムがここ、テレニスアイラがここ……となると、行路はこのルートとなりますね。坑道は……ここですか?」
「はい」
ライトにもわかるようにだろうか、マークはそのまま指で位置をなぞりながら、ムーライに位置を確認した。――確かに地図から見ると、問題の行路と坑道は近い。坑道から溢れたとなれば、行路に影響が出てしまうのはある意味仕方がない位置関係であった。しかし、
「普通坑道にモンスター住み着いても、外に意味もなく出て人間にちょっかいは出さないでしょー。何かしたんじゃないの?」
レナが頬杖を付きながら疑問を口にする。それは少なからずソフィとマークも思ったことではあった。――モンスター、と聞くと聞こえが悪いが、全てのモンスターが無差別に人間を襲ってくるわけではなかった。魔王軍に使役されているモンスターは兎も角、野良のモンスターは切欠がない限り案外人間を襲ったりはしない。なので、不用意にモンスターの縄張りに足を踏み入れない、というのはこの世界の常識でもあった。冒険者や軍の人間がモンスターを討伐するのは、人間の居住範囲、行動範囲まで手を出してくるモンスターに対して、なのである。
「そんな、我々は何もしていません! 坑道には昔からモンスターが生息しているのは知っていましたから手を出すことなどありませんし、何より坑道を使わなくても今回の工事は完遂する計画でした。それに、出てくるモンスターも様子がおかしいんです」
「様子がおかしい、とは?」
「万が一坑道からモンスターが出てきても、我が街の冒険者で十分に対応出来る量、レベルのモンスターしかあの坑道にはいないはずなんです。それなのに工事現場に出てくるモンスターは我々が知っているレベルよりも高いようで……」
「結果として解決策が自分達では見つけられず、国に相談を持ち掛けた所、結果として私達が派遣されたわけですね」
「はい。――どうか、宜しくお願いします! この街の未来の為に、騎士様、勇者様のお力をお貸しください!」
「町長さん、必死だったな」
宜しくお願いします、と懇願してきた時の表情が思い出された。――町長との会談を終え、一行は用意された宿へ移動。ここでとりあえず一晩休み、調査は翌日となっていた。
余談だが、マークは荷物を置いた後、現場に行ったことがある冒険者や工事関係者に話を聞きに一足先に移動、レナは「ちょっと街をぶらぶらしてみるー」とふらっといなくなり、連れて来ていた兵士数名は一応街の付近の調査と別々になり、今この部屋にはライトとソフィの二人だけとなっていた。
「根底に、この街の発展の為に工事を無事な形で再開したい、でも自分達だけでは本当にどうしようもないから、喉から手が出る程私達の力を借りたい。――そういうことなのでしょうね。私には、少しだけわかります」
「どういうこと?」
「私が武器を持つ切欠はお話しましたよね? その直前、もう駄目だ、と諦める気持ちは湧かず、喉から手が出る程助けが、自分に力が欲しいと願ってしまった。その瞬間の気持ちに、きっと近いのかな、と」
その時を思い出しているのか、少しだけソフィは辛そうな表情を見せた。
「でも俺から言わせれば、二人とも凄いじゃないか」
「え?」
「結果として、解決する何かを手繰り寄せてる。それは欲しいと思った全部の人間が手に入れられる物じゃないよ。運もあるのかもしれないけど、特にソフィは自力でそれを手に入れて、打破して、今に至るじゃないか。俺は誇っていいと思う」
それは素直なライトの感想であった。若くして必死になる町長もそうだが、死の危機を自らの新たな才能で打破したソフィは、ライトにしてみれば尊敬に値していた。
だが、そのライトの言葉に、ソフィは複雑な笑顔を浮かべる。
「あ、ごめん、何か俺、気に障ること言った……?」
「いえ、違います。きっと私も、ライトさんの立場で町長さんを見たらそう思うと思います。でも――でも、私が目覚めた、手に入れた力は、本当は……」
そのままソフィは、ゆっくりと立てかけてあった自分の両刃斧を見る。そして――パァン!
「っ!」
自分の頬を、自らの両手で叩く。
「ごめんなさい、変な気持ちにさせちゃって。今のは忘れて下さい、任務に集中しないと。ライトさんの初任務、成功させましょうね」
先程の言葉も気にはなったが、今のその言葉にも嘘はなさそうだった。そう言われてしまうと、逆にライトとしても自分が変な気持ちのままで足を引っ張るわけにもいかない。
「うん、頼りにしてるよソフィ。――でも」
「?」
「任務終わった後でもいい、何か聞いて欲しいことがあったら、俺で良かったらいつでも聞くよ。その、話して楽になることだってあると思うし。――俺には何もないから、聞く事位しか出来ないけど」
その言葉に、ソフィは今度は初めて会った時のような優しい笑顔になる。
「ありがとうございます。それじゃ、気持ちが落ち着いたら、いつか相談に乗ってもらおうかな」
「うん、演者勇者の俺で良ければいつでも」
「ふふっ、立場云々じゃなくて、ライトさんという人に、ですよ。それに――から」
「え? 今何て――」
ガチャッ。――と、ドアが開き、レナが帰ってきた。
「ただいまー。ソフィのクッキー美味しいけど、しょっぱい物も食べたくなるよねぇ、って思って色々買ってきたよ」
「ええ……何処に行ったのかと思ったら」
「いやー勇者君、気持ちはわかるけど流石に任務中にお酒は買ってこないよー」
「食べ物だけを買ってきたことを咎めてるわけじゃねえ!?」
何の緊張感もないレナにライトはツッコミ。その様子を見てついソフィも笑ってしまう。ライトも、ついソフィが最後何と呟いたのか確認するのを忘れてしまうのだった。
「それに――これが、私にとって、騎士としての、最後の任務ですから」
そして翌日。朝食を終え身支度を終え、ライト一行は問題の坑道の前に来ていた。
「ここですね。地図からして……あの辺りが行路の工事現場かと」
マークが地図を見ながら再確認する。工事現場は、目視でギリギリ視界に入り、坑道入口であるここから見下ろすような位置取りにあった。
「んー、確かに襲い易いっちゃ襲い易いけど、だからと言って無暗に襲うには距離があるねー。人為的なり異変なり、何かしら原因はありそうだ」
よっ、といった感じでレナは工事現場の方を見下ろしながら言う。
「何にしろ、調査は必要です。――それでは、これから内部に入り、本格的な調査に入ります。前衛は私、主に攻撃してくるモンスターの撃破を担当。レナはライトさんの護衛、マークは進行しながら、坑道に異変、違和感がないか調査。ライトさんも何か気付いたら遠慮なく発言して下さい。場合によっては、真実の指輪を使ってみても」
「あいよー」
「了解です」
「ごめん、ちょっと質問」
レナ、マークは素直に頷いたが、ライトが軽く挙手をして質問を。ソフィが、視線で「どうぞ」と促す。
「冷静に考えてみたんだけど、真実の指輪、俺以外の人間が使った方が効果的なんじゃないの? 俺魔力少ないからわかることなんて少ししかないし」
それこそ調査をメインにするマークが嵌めた方が効果的かもしれない。自分のする事が何もない役立たずになったとしても。――と、そんな疑問にそのマークが答える。
「僕らは僕らで、あまり効果がないんですよ、それ」
「どういうこと?」
「それは自分にない知識を、純粋に脳に響かせるアイテム。戦闘経験、知識を重ねる僕らが使うと、僕らが元々持っている知識が混ざり合って、正しい答えが出ないことがあるんです。なので、それを使えるのは、元々が特別な力、心をお持ちの勇者様と」
「経験が圧倒的に少ない人間、つまり今回で言えば俺、ってわけか」
「はい。ですから、ライトさんの特権ですから、お気になさらず」
そう言われれば自分がやるしかない。効果は薄いが、自分で頑張ろう。少しでも役に立てれば。
「では疑問も解決したので出発します。気を引き締めましょう」
そして四人は、ソフィを先頭に、坑道へと足を踏み入れた。
「くくく……あははははっ!」
「っ!?」
そして――少し進んだ所で、不意にその笑い声が、坑道に響き渡った。
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