第8話 幕間~結成! ライト騎士団

「――でね、ライトはごねたのだけれど、やっぱり団長はライトにして、私はあくまで副団長でいようと思いますの。だってそうでしょう? 私が団長になってしまったら、勇者様の為というよりも、国の為という肩書の方が強くなってしまいますもの。勿論平和の為に国の為にも動くつもりですわよ? でもやはり名目は勇者様の為の騎士団、ということにしておきたいの」

 色々あって、あり過ぎて、落ち着いた日の夜、就寝前。エカテリスは楽しそうに、ライトとの話をリバールにしていた。

「ふふっ、姫様、副団長になるのでしたら、ある程度の弁えも必要ですよ? 何分、姫様は行動力があり過ぎですので。張り切るのはいいですけど、ライト様にご迷惑を掛けないように」

「わ、わかってますわよ、私の我が侭で迷惑はかけませんわ。ライトにも……リバールにも」

「……姫様」

「本当に今日はごめんなさい。リバールの事を信用してないわけじゃないのに――」

「謝罪も反省も十分聞きました、大丈夫です。必要以上の反省は、心の負担になるだけです」

「……ありがとう」

 優しく微笑むリバールに、エカテリスは安心する。――幼い頃から傍にいてくれたリバールは、エカテリスにとって姉に近い存在であり、エカテリスはリバールにとって妹に近い存在でもあった。

「それで――反省を生かした上で、リバールにお願いがありますの」

「何でしょう?」

「リバールにも、騎士団に入って欲しいのです」

「ライト様と姫様の騎士団に……ですか?」

「ええ。リバールが、必要以上に表立って動かず、あくまで使用人でいたい、というのは知っていますわ。でも何かあった時に誰よりも冷静に判断出来るのはリバールですし、何より近くにいてくれると安心しますもの」

「…………」

 近くにいてくれると安心、というフレーズに幸せを感じるリバールだが、この程度では表情には出さない。――が、

「お願いですわ。どうしても嫌……かしら」

 懇願してくるその瞳は、まるで捨てられて飼い主を求める子犬の様に見えた。――ああずるい、その表情はずるいです姫様。嫌なわけないじゃないですか。その表情で頼まれて動かないリバールは世界に一人もいないです。

 最初からリバールは一人しかいないのに意味のわからない葛藤をしている間に、先に口が動いていた。

「畏まりました。この私でよければ、喜んで参加させて頂きます」

「本当に!? ありがとうリバール、大好きよ!」

「うっ」

 大好きよ!……大好きよ!……大好きよ!……リバールの脳裏に、エカテリスのその言葉にエコーがかかって響き渡る。幼少の頃から一緒にいるので、決して初めて聞くフレーズではないのだが、それでもリバールにとってそれは魔法の言葉であった。

「……リバール? どうかしたかしら? 大丈夫?」

「姫様……五分位前からのやり取り、もう一度やりませんか」

「何の為に……?」

「来るとわかっていれば、ラストの展開をもっと変えます」

「だから何の話ですの!?」



「――というわけで、二人にも騎士団に入って欲しいのだけれど、どうかしら?」

 翌日。手近な所で、レナとマークを騎士団に勧誘しているエカテリスの姿があった。

「ええ、僕は構いませんよ」

「右に同じかな。というより入っても入らなくても私の仕事変わらないだろうし」

「ありがとう二人とも。団員として、騎士団を盛り立ててくれることをお願いしますわね。――何か意見があったり、誰かスカウトしたい人がいたら遠慮なく仰って。勿論内容次第ですけど、真摯な話なら当然前向きに考えますわ。皆の騎士団ですもの」

「はーい」

「了解です」

「それじゃ、私は騎士団のエンブレムや腕章の発注をするから、失礼させて貰いますわね」

 足取り軽く、エカテリスはその場を後にした。何となくその背中を見送る二人。

「これは……あれですね。ライトさんは流されるままに決まった話でしょうね」

「だろうねー。寧ろ勇者君が知らない所で進行の可能性もあると見たよ私は。――マーク君的にはホントに大丈夫だったん?」

「ええ。寧ろ王女様がライトさんに積極的に関わるのであれば、正式に騎士団として所属して頂いた方が、逆に騎士団単位で考えられるのでスケジュール云々は組み易いですから」

「まあ、姫様は不確定要素多いからねえ。――にしても、勇者君は随分姫様に懐かれたね」

「僕はレナさんに後処理を押し付けられただけでしたけど、そんなに色々あったんですか?」

「うーんと、「男女の痴情~私の荷物、貴方の部屋に置かせて下さい」みたいな」

「確かに色々ありそうですけどまったくもって内容が掴めないんですが」

 ちなみにだが、男女の痴情=ベンとシンシア、私の荷物=エカテリスがエリー・グッツをライトの部屋に置いた、である。

「でも騎士団かー。……いや待てよ、団員を増やせば私の護衛としての仕事も減るのでは。有望そうな人材をピックアップするかな」

「ピックアップはいいですけど護衛を誰かに押し付けるのは駄目ですからね……」

「えー、結局誰かしらが守ってくれればいいんでしょ? 別に私じゃなくても……あれ?」

 ササッ!

「? どうかしたんですか?」

「今、そこの角から国王がこっちをこっそり覗いてた」

「国王様が?」

「うん。私が気付いたら姿隠しちゃったけど」

「何かあったんですかね?」

「どうだろね? ま、こそこそしてる時点で方向性は予想付くけど」



 そしてその日の夕刻、夕食時。

「エカテリスよ、話がある」

「何でしょうか、お父様」

 食事も後半に差し掛かった所で、ヨゼルドが不意に口を開いた。

「噂を耳にした。ライト君を中心とした騎士団を作っているそうだな」

「あら、お耳が早いですわね。――仰る通りですわ。先日の事案の反省を生かし、私が私として精一杯動けるように考えた結果ですわ。お父様の偽勇者計画も呑みましたし、お父様にご迷惑は掛けませんわ。――何か問題でも?」

「うむ。――団員として、ひとまず身近な所から加入させているそうじゃないか」

「はい。ひとまず、リバール、レナ、マークの三人には加入の約束を取り付けましたわ。そもそもが私、もしくはライトの近くにいる人間ですし、支障も出ないでしょう?」

「ああ、彼らを加入させた事を咎めたいわけじゃない」

「それなら何が問題ですの?」

 生まれる一瞬の間。ヨゼルドは力強く真面目な目でエカテリスを見る。

「どうして私を最初に勧誘に来ないのだ」

「……はい?」

「普通こういうのは、身近な人間→父親に相談する→じゃあパパが入ってあげよう→ありがとうパパ、大好きよ! の流れだろう!?」

 そして話の内容はまったくもって真面目ではなかった。欲望丸出しであった。――エカテリスが溜め息をつく。

「一万歩譲って私がお父様の事が大好きだったとして」

「そこ一万歩も譲るの!?」

「お父様は国王ですのよ? 政治執務で忙しいでしょう、騎士団で活動なんてとんでもないですわ」

「二十四時間三百六十五日仕事があるわけじゃないぞ、少し位参加出来る」

「ダーメ、ですわ。お父様には国王として内面から国を完膚な物にして頂かないと。ピクニック気分で参加されても困ります」

「む……」

「第一、身近な人間なら誰彼構わず勧誘するわけじゃありませんわ。そういう意味では、お父様が勧誘されなかったのも別に不自然ではありませんの。いい歳して仲間外れみたいな感覚は止めてください」

「うう……」

 すっかり論破され、凹んでしまうヨゼルド。食事も平らげ、気にせずリラックスするエカテリス。

「失礼致します」

 と、そこにタイミングを見計らってか、ハルが食後の飲み物をカートに乗せて運んできた。

「あっ、ハル! ねえ貴方、私達の騎士団に入らないかしら?」

「ちょーっと待ったー! 言ってる傍から誰彼構わず勧誘してる!」

「ハルは前々から勧誘したいと思っていたのです、誰彼構わずではありません」

「ハル君を勧誘したいなら、この私を勧誘してからにしてもらおうか!」

「それでねハル、騎士団ですけれど――」

「何処で覚えたの誰に教わったの父親へのスルースキル!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐヨゼルド、気にせず話を進めようとするエカテリス。――原因は兎も角、日常茶飯事の光景なのでハルとしては驚きもしなかったり。

「ぐぬぬぬ……ええい仕方ない! ハル君、エカテリスが私を騎士団に勧誘するまで、君は騎士団に入るのは禁止だ! これは国王命令だ!」

「あっ、ずるいですわお父様! ハル、お父様の命令なんて私が無かったことにするから、貴方さえ良ければ騎士団に入ってくださらない?」

「ハル君!」「ハル!」

 同時に頼み事をされ、同時に名前を呼ばれる。一度ずつ両方の顔を見て、数秒考える。

「では、私で良ければ騎士団に入らせて頂きます」

 そして逆に言えば数秒で答えが出てしまった。

「ぬぐわああああ!」

「やった! ありがとうハル、これからあらためてお願いしますわね!」

「はい。微力ながらお力添えさせて頂きます」

「ハル君……ハル君……っ! 君まで私を見捨てるのか! 君の、君の雇い主は泣いてるぞ!」

 確かに泣いていた。目の前で泣いていた。いい歳して本当によく泣くな、という言葉がハルの喉元まで来ていたが一応我慢するのだった。



「というわけで、順調に団員は増えてますわ。安心してね」

「その話聞いても俺は何の安心も出来ないんだけど!? 昨日の今日で腕章とか団員増加とか!?」

 ライト騎士団は、騎士団長が何もせずとも、副団長のおかげで、圧倒的速度で大きくなっていくのであった。

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