よん「窓の外」
友人は逃げてしまった。
地方から大学のために上京してくるときに、一番悩んだのは住む場所だった。
話には聞いていたが東京の家賃はとても高く、大した仕送りももらえない自分としてはどうにかして安い物件を探したかった。
しかし大学からあまりにも離れた場所は嫌だ。
そんな願いが簡単に叶うはずも――あった。
キャンパスは都心だったのだが、そこから電車で20分も離れていないような立地で、相場より2万安いワンルーム。
しかもリノベーションしてあるらしく室内はピカピカ。
悩むことなく即決した。
しかし本当にそんなうまい話はあるはずもなかったのだ。
異変は引っ越してすぐだった。
引っ越し当日は、とりあえず寝具とカーテンだけ設置して寝ていたのだが、カーテンの外に人影が見える。
引っ越し早々泥棒か? と怯えながらカーテンをほんの少しだけめくってみるのだが、そこには誰もいない。
呆然としてしまった。
そしてそれは毎日続いた。
そのことを大学で早速できた友人に話すと一笑に付された。
腹が立ったので友人を家に招待したら、その日も当然のようにその影は現れ、そしてそれを目の当たりにした友人は、雨の降りしきる真夜中だというのに飛び出すようにこの家から逃げていってしまったのだ。
友人が出て行った玄関を少し眺めた後、あの影のいる窓を再び振り返る。
影はまだカーテン越しにいた。
布団を被り直して、影を見ながら思わず笑う。
コイツはこの土砂降りの中ずっと外に立っている。
大してこっちは買ったばかりのフカフカのベッドの中だ。
あいつはきっとずっと入ってこられないで、雨の日も風の日も、悴むような寒さの日も、体中から汗が噴き出る蒸し暑い日も、ずっとあそこにいるだけなのだ。
思わず笑ってしまう。
いい物件に住んだものだ。
他人の不幸を見るのは、相手が幽霊だって面白い。
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