第19話 大地の玉、争奪戦Ⅴ

 蒼雷、玲、夜炎、雪菜の四人は、魔力をできるだけ抑えながら森の中を駆け抜けていた。


「不知火、音で状況分かったりするか?」


「俺の耳そこまでよくないぞ。聖霊を使えばいいだろう」


「――お前天才だな」


 蒼雷のあまりにも真っ直ぐすぎるリアクションに、夜炎は拍子抜けしていると、玲と雪は二人でフフっと笑みを浮かべていた。


「イーグルファルコン。出てきてくれ」


『ああ――』


 緑の光が蒼雷の体の中から現れ、蒼雷達とある程度距離をとったところで、体表が鳶色の巨大な鳥が姿を現す。


 夜炎、玲、雪菜はイーグルファルコンの優雅な姿に心を奪われていた。


「姿を現したのはいいけどよ。玉になったまま空から 闇の支配者ダークルーラーの幹部を見つけることはできないのか?」


『できん。地上では光の玉の姿を維持できんのだ。というか聖霊使いが荒いな』


「え、そうか? 困ったらいつでも呼びな。キラッ! ってスゲー格好いいこと言っていたから甘えようかなって」


 蒼雷の言葉を聞いて、玲と雪菜は、イーグルファルコンの事をツンデレと呼び始めてたので、イーグルファルコンは緊張感の無い奴等だなと一言。


『まあ、任せろ。そんな回りくどいことしなくとも、俺はお前とは違い、魔力を感知できれば、それでいいんだからよ。聖霊ってのは 繊細デリケートなんだ。一つの魔力に対して、イメージが溢れ出てくる』


 イーグルファルコンはそう言いながら、 千里眼オラクルアイを使用した。


『小僧ども。目を瞑りながら走れ』


 訳も分からず言われたことをとりあえずやってみる四人。すると、イーグルファルコンが 千里眼オラクルアイで見ている映像を蒼雷、玲、夜、雪菜に共有する。


「映像を共有できるなんか聞いてねえぞ!」


 蒼雷の強めの口調に『うるさい』とイーグルファルコンは一蹴。


 映し出された映像は、 闇の支配者ダークルーラーの下っ端が森の中を走っている姿。関係が無さそうな映像はどんどん切り替えていく。しばらくそれを行っていると、森のなかで立ち止まっているザギロスの姿があった。そのザギロスが西の方角を凝視していた。


「レンガの建造物――」


 ザギロスはそう呟きながら、その建造物に歩み寄って入っていく。真っすぐ進んでいくと台座がある。


「金の台座じゃねえな」


 ザギロスはそう言って建造物から出ていく。


「一旦ストップ」


 蒼雷の言葉にイーグルファルコンは 千里眼オラクルアイの使用を止めた。同時に、一同は走ることを一旦止めて立ち止まる。


「不知火どう思う?」


「ザギロスはレンガの建造物に入っていき、真っ先に台座に向かった。影で見づらかったのか、入り口から数歩進んでから、金では無いと呟き、建造物を出た。つまり、レンガの建造物の中にある、金の台座に大地の玉がある。推測ではあるがほぼ間違いないだろう」


「だな」


「イーグルファルコンは 千里眼オラクルアイで、感知した敵の方角とか分かるの?」


「分かる。けど何でだ?」


「イーグルファルコンに 千里眼オラクルアイで敵の情報を感知してもらい、位置を把握しながら 闇の支配者ダークルーラーが探していない場所の建造物を見つけるのはどう? それをすると四人が固まって行動できるから安全じゃなかなって」


「それいい! そうしようよ!」


 雪菜の提案に乗り気な玲だったが、蒼雷は人差し指で額に手を当てながら、う~んと唸る。対して夜炎は首を左右に小さく振ってから口を開く。


「いや、理想としては各々散らばって行動したい。敵が万が一にも大地の玉を見つけたとき、近くの誰かが様子を見て、大地の玉の奪取。又は足止めをすることができる。そして、イーグルファルコンに常に見てもらっているので、他の三人に共有して合流すると言う形だ」


『いや、遠くに離れていると、映像の共有はできないぞ』


「そうなのか……」


「俺と玲。不知火と白川の二手に分かれよう。その方が危険度は少ない」


「そうだな」


「玲の魔力量も以前と比較して大分上がっているから、この中の誰かが戦闘態勢に入ればすぐにわかる。互いに気を付けよう。イーグルファルコン、闇の支配者はダークルーラーが行っていないところはどこだ?」


『探していないところは多いぞなんせここの森は広いからな。ここより二十キロ先の西側はまだまだ探されていないぞ』


「よし。部位魔法マナパーツを使って探しに行くぞ」


 こうして蒼雷と玲。夜炎と雪菜の二手に分かれて大地の玉の捜索を開始した。


     ◆

 

 その頃、バロガンとアドラーがいたロックベルトの、砕かれた岩山の前に、両耳に狼のようなピアスをした、黒服に身を包んだ美丈夫がいた。その男は砕かれた岩を見るなり、ほうと呟いていた。


「ルビーがいるから、こっちが負けることは無いが、どうも戦力が多いようだ。それにルビーじゃ勝てない相手が来るしな」


 男はそう言って首を後ろに回して見ていると、光の粒が発生し始めて一人の男が現れた。その男は直ぐに、もう一人、他の誰かがいることを察したようだ。


「君も闇の支配者ダークルーラーかな?」


 金のフレームをかけた灰色のローブに身を包んだ老人は、そう言いながら黒服の美丈夫の男性に問いかけた。


「アルレーザ・ロードゲート。地球上最も強いと言われている最強の魔術師。会えて光栄だ」


「お主、名は?」


「闇の支配者ダークルーラーのNO.1スタード、ベルーガだ」


「ほう。お主だけどうやら別次元のような強さじゃの。属性玉はまだ見つけていないようじゃな?」


「そうだ。貴様が来てはこっちに勝ち目が無い。ここで食い止めてやる。いや殺してやろうか?」


 ロードゲートはしばし、口元の白髭を触りながらベルーガを見ている。


「お主。ワシの実力を知っている上に、まんざら虚勢を張っているようでも無いの」


「そういうことだ」


 すると、ベルーガはその馬から消え、同時にロードゲートもその場から姿を消した。


 姿が無いまま、不気味に風を切っている音が響く。


 音がピタリと止む。時間にしておよそ三秒程。二人が姿を現したのは、高度一万メートルの高さだった。辺りは見渡す限りの雲海。


「勘ってやつかの。お主と戦うとバロガンの大切な森どころか、フェリペスの生態系全てを壊すほどの被害が出そうじゃ」


「賢明な判断だな。少しだけ魔力を解放するぞ?」


 ベルーガはそう言うと、邪悪で禍々しい魔力の嵐が発生させる。


「まるで台風じゃな」


 あまりにも強力な魔力は、ベルーガの下にの周囲にある雲は吹き飛んでいく。


「少しだけだぞ?」


 ベルーガの挑発的な言葉に、微塵も焦りを見せないロードゲート。


 ロードゲートは右手をベルーガに向けて、光と雷の魔力を混合させているが、ロードゲートが扱う雷の色は虹。故に、ロードゲートの魔力は虹色に輝く。しかし、色はどんどん薄れ、やがて白く輝く魔力となる。


裁きの粒ジャッジメントグレイン


 ベルーガの体の内側から無数の光の剣が飛び出してきた。


「普通ならこれを喰らえば、血まみれになって息絶えるのじゃが」


 再び右手に魔力を、先程と同じように集中させる。そして右手を広げた状態で、天に掲げた後振り下ろす。


裁きの断頭台ジャッジメントブレード


 右手から現れた数メートル程の、刀身を模した形状の魔法は、容赦なくベルーガを切り付けた。見るからに右半身を真っ二つに切られていたのだが――。


「お主何者じゃ?」


 ベルーガは何事も無かったかのように、ロードゲートを見つめている。


「なかなかやるな。血を流したのはどれくらいぶりだろうな」


 ベルーガは右手で左半身に手を当て、水魔法を使い、血まみれの体を再生させた。


「ワシの回復魔法より優れとらんか? 水神の爪アクエリアスクロウばりじゃの」


「そうなのか。神の力も大したことないな」


 ベルーガはそう言いながらロードゲートに右手を向けた。


 刹那、ロードゲートは後ろに吹き飛ばされる。ベルーガはその場から姿を消して先回り、ロードゲートの鳩尾を蹴り上げた。


 更なる上空に向かっていくロードゲートに再び先回り。闇の魔力を集中させる。


「アビス・ダークフラッシュ」


 放たれたアビス・ダークフラッシュは、クルーデスが放ったものとは別次元。十メートル以上の横幅を持つ、闇のエネルギー波は、ロードゲートを飲み込んだ。


 エネルギー波が収まる同タイミングで、ロードゲートが現れて、ベルーガの顔面を殴打した。右手には魔力が込められているようで、部位魔法マナパーツを使っているのは明らか。ロードゲートの魔力量は世界一。故に込められている魔力も相当なもの。しかしベルーガは平然としている。


部位魔法マナパーツを使っているにしてもなかなかのもだ。うちにはクルーデという大男がいるのだが、彼ほどタフな人間でも、拳一つで首を飛ばすことができるほどの威力だった」


 ベルーガはそう解説しながら、血を吐き捨てた。


「そら首を飛ばすつもりで殴ったからの。お主、ワシより高い魔力で顔をガードしたな?」


「どうだろうな。さあもっと来い。骨のある奴と戦えて楽しめそうなんだ」


「ワシが二発も魔法を放って、生きている人間はジェラを入れてお主が二番目じゃよ」


「それは光栄なことだな」


 ベルーガは口角を吊り上げた。








 

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