第20話 大地の玉、争奪戦Ⅵ

「やべえな」


「何がヤバいの蒼雷?」


「分からねえか? 遠すぎて誰の魔力か分からんが、上空で戦っている二人がいる。イーグルファルコン、様子を見ることはできないのか?」


『高度、一万メートルのところでの戦闘だ。俺もこんな魔力は久々に感じる』


  千里眼オラクルアイを発動して様子を見るなり、『ほう――あのご老人か――』と呟くイーグルファルコン。


「先生か?」


『ああ。もう一人の男は誰か分からんが、かなりの手練れだな。あのご老人と対等に戦っている』


「そうか。先生も手伝いに来てくれたのか」


『どうやらそのようだな』


 蒼雷とイーグルファルコンがそう会話していると、玲が「あっ!」と声を上げた。


「レンガの建物あったよ!」


「本当か?」


 玲が指す南西を見ると、所々に木が生えているレンガ造りの建造物があった。蒼雷、玲、イーグルファルコンは真っ先にそこに向かう。


『仮にここに属性玉があるとしたら、守護聖霊はエンシェントゴーレム。コイツも小僧の力になる。というか魔力めちゃくちゃ上がるぞ。あと、腕力がやたら上がる』


「なんだ、その十歳未満の子供みたいな説明」


『良かったな。 神の瞳ゴッドアイのハンデの帳消しどんどんできていくぞ』


「弱点が無いの強すぎるってちょっとセコイ気がするんですが」


 蒼雷と玲はそう言いながら建造物の中へ入っていき、イーグルファルコンは外で待機していた。


 そこで待っていたのは、煌びやかな輝くを放つ黄金の台座。しばらく待っていると、薄い茶色の玉が姿を現した、玉の中は、粒のようなものが舞っている。


「これまた綺麗な玉だな」


「凄いね宝石みたい」


 そう各々感想を述べていると、ゴゴと地鳴りのような音が聞こえた。


「今の音何?」


『目覚めたんだよ。エンシェントゴーレムが』


「目覚めたってどこに?」


『おかしいな出てこない――って言っている場合じゃないぞ。敵が来る』


 イーグルファルコンはそう言って、緑色の玉となり、蒼雷の中に入っていく。


 蒼雷と玲は慌てて外に出ると、そこにはレイゾンが立っていた。


「来ていたのか神瞳蒼雷――」


「レイゾンか。まさかアンタも 闇の支配者ダークルーラーだったとはな」


「ザギロスと戦ったんだろ? 本調子じゃないのにボコしたそうじゃないか」


「ボコしたって程でも無いんだけどな」


 蒼雷がそう言うと、レイゾンはニッと笑みを浮かべた。


「俺も楽しませてくれるんだろ?」


 レイゾンはそう言って拳を構えた。


「属性玉には興味はないが仕事だだからな。大地の玉を頂くぞ?」


「拒否権無いよね?」


「当たり前だろ?」


 レイゾンはそう言って蒼雷に襲い掛かった。両方の手を鞭のようにしならせて高速で攻撃を繰り出す。蒼雷は紙一重で全て躱してはいるものの、完璧に避けきることができる程甘くはない。


 掠っているだけで、蒼雷の頬は、一つ、二つ、三つと切り傷を負う。


「もらった」


 ナイフのように尖らせた鋭利なレイゾンの手は、蒼雷の顔面に直撃した。


 しかし、蒼雷は水へと姿を変えていた。


「水の分身か」


 レイゾンは左を見るなり、玲が魔法をかけていることを察知するなり、左手を向ける。


 一本の小さな氷柱が玲を目掛けて飛んでいく。玲はそれを右手で難なく掴み、レイゾンに向かって放り投げた。


 レイゾンは投げられた氷柱を首を傾けて避けたと同時に、腹部に強烈な一撃が入っていた。蒼雷が懐に潜り、蹴りを一発お見舞いしたのだ。


 吹き飛ばされたレイゾンは何本もの木に直撃し、なぎ倒していく。 魔力浮遊エアで体勢を空中で整えると、空中で激突しそうだった木をバネにし、猛スピードで蒼雷の方へ向かう。


「玲!」


「ウォータードラゴンブレス!」


 玲の詠唱で出てきたのは水の龍。その龍が口を大きく開けて、直径三メートル程大きさを持つ、水のエネルギーの弾を吐き出す。その塊には魔力が大量に込められており、避けるのが普通ではあるが――。


「アイスメイク」


 飛んでいる最中、右手を向けて水のエネルギー弾を凍らせる。


「ちょっと! あの人私と相性悪すぎじゃない!?」


「ごめん。氷属性の魔法を使うの忘れていた」


「えええええ――」


「自分で犯罪者リスト見て勉強してくれ」


 蒼雷はそう言いながら、襲い掛かってきたレイゾンに拳を振りかざす。


「アイスメイク」


 レイゾンは蒼雷の右手を凍らせている隙に、左手に持つ小型の氷のナイフで、蒼雷の腹部を刺す。そして、部位魔法マナパーツを使った右の拳は、蒼雷の鳩尾に見事にクリーンヒットした。


 そして、レイゾンは蒼雷の顔面を蹴り飛ばした。


「蒼雷!」


 吹き飛んでいく蒼雷に声をかえるも、レイゾンは玲に近づいていく。


「よそ見をする暇はないぞ?」


 レイゾンがそう言うと、 闇の支配者ダークルーラーの他の下っぱと、幹部が勢揃いした。


 ザギロス、ルビー、時雨とその他大勢の構成員達。


 あまりにも絶望的な状況、玲は足の力が抜けて、地面に膝をついてしまった。


「大地の玉は、神瞳蒼雷が持っているのか?」


 レイゾンの質問に、顔を強張らせながらも首を振る玲。


「そうか。少し拷問が必要だな」


 レイゾンはそう言って、玲の服をナイフで剥いでいく。少しずつ――少しずつ。


「何もそんな事しなくていいじゃないか」


「そうよ。あ、もしかして、レイゾンってロリコンなの? もう45なのに」


「いいから黙ってろ」


 その声は低く、とても冷たいものだった。古くからの付き合いであるザギロスでさえも、レイゾンの行動の意図が全く分からない。


「離せ!」


 そう声を上げながら、レイゾンの顔面に殴打を入れて吹き飛ばしたのは、アドラーだった。吹き飛ばされたレイゾンは、大地の玉が置かれていた建造物を破壊し、建造物の瓦礫に下敷きになってしまう。


「ほう――ガキなかなかやるな」


 ザギロスはそう言ってアドラーの方に視線を向けた。


「全て守りし腕、全てを蹂躙する大いなる力を備えし腕よ。更なる力を発揮する時だ。聖霊、土神グランヴォーロよ我に力を与え給え。発動、土神の腕グランマーグアーム


 アドラーの腕がピカリと、眩い光を放つと、異形な形をしていた腕はさらに増え、両手が赤土色の腕となり、まるで腕そのものが呼吸をしているかのように脈を打つ。その腕は時折、金色に輝き、まさに神のご加護受けているかの如く、神聖な姿であった。


「なんだ――お前も神の能力を持つ者ゴッドホルダーかよ。ちっさい時からその腕だと苦労したろ?」


 森の中から姿を現したのは、異様までの魔力を放ちながら、青い雷を全身に帯びている蒼色の瞳となり、傷が完全に癒えている蒼雷。その異常なまでの魔力の高さから、 闇の支配者ダークルーラーの構成員は冷え汗をかいていた。


「へえ――面白いじゃない。食べちゃいたい。けれどもまだ駄目よ」


 その中でも唯一平常心を保っている者、舌舐めずりをしているルビー。


「悪いけど、5秒もあれば全員倒せる。 土神の腕グランマーグアームまだ使いこなせていないだろ? お兄さんの戦いを見ておきな」


「う――うす」


 蒼雷はそう言って構えると 闇の支配者ダークルーラー全員が蒼雷に襲い掛かった。何が起きたのだろうか。見えない速さで、ザギロス、ルビー、時雨、下っ端を含めた50人程の構成員達は皆、青い雷を帯びて気絶した。


 それを見ていた玲とアドラーは絶句。


「つ、強すぎる――これが神瞳蒼雷さん。師匠より全然強いじゃん――」


「今、速すぎて見えなかった――魔法出していないよね?」


「ああ、全部手刀だぜ。ただ、まだ終わっていない。レイゾンがいるからな」


 レンガの建造物の方を見ると、首を左右に振って鳴らしているレイゾンが現れた。


「今のは効いたな。ただ、 土神の腕グランマーグアームの小僧より。貴様の方がややこしいな神瞳蒼雷――」


「三分しか持たない早くしようぜ」


 蒼雷はそう言って右の掌を向ける。


 放たれた青い雷光がレイゾンに襲い掛かった。


「威力は一点集中か。喰らえば 部位魔法マナパーツを施しても風穴が空くな。だが―― 悪魔の鏡イビルミラー


 レイゾンは両手で、自分の上半身程の大きさの黒い鏡を、どこからともなく取り出した。四つの両端の角にはゴブリンのような顔の絵が彫られていた。その鏡は、蒼雷の詠唱破棄のライトニングフラッシュをそのまま蒼雷に返す。


「アイスバーン」


 右足を地面に踏みつけると、レイゾンから半径50メートルの地面は氷漬けになってしまい、蒼雷を足止めした。


「んなもん効くか」


 蒼雷は右手でライトニングフラッシュを上空に飛ばし、 部位魔法マナパーツで両足に魔力を溜めると、氷漬けになった足は自由を手に入れる。


 その場から姿を消したと思ったときには、既にレイゾンの後ろに回り込み、首に手刀を喰らわせて、レイゾンを戦闘不能にしていた。


「す――凄い」


「バロガンさんのところに戻ろうぜ」


 そう言いながら蒼雷は 神の瞳ゴッドアイを解除したが、地面に倒れこむ。


「やべえ。早めに解除したのに体怠いわ」


『その心配はないぞ。強き者よ』


 そう声を出したのは、倒れ込む蒼雷の前に現れた数十センチの大きさの小さなゴーレム。


「ちっさ――」


 背中には十本の木を生やし、腕と足に枝が巻き付いている、鋼の体を持つ聖霊だった。


『我はエンシェントゴーレム。ここ早く抜けたいんだろ? 早く神殿に行くんだ。なあに、試練をする必要は無い。お主の強さは十分理解できた。我の力を存分に使うと良い』


 エンシェントゴーレムはそう言って、土色の玉となり蒼雷の中に入っていく。


 魔力が増幅したことによって蒼雷は怠さから解放され、起き上がることができた。


「行こうぜ。不知火と、白川にはすでに報せているからそ、バロガンさんのところで合流だ」


 蒼雷がそう言うと、玲、アドラーは頷き、この場から離れた。





















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