第17話 大地の玉、争奪戦Ⅲ

 その頃の数十分前――。


 水野家のプライベート飛行船で、海を渡っていた蒼雷一向。


「フェリペスか~、バロガンさんに会えるかな」


 蒼雷はそう言いながらトランプ表向きで2枚置く。描かれている絵柄はクローバーの2ルサンとスペードの2ルサン


七色の雷操者アルレーズで一番の怪力と聞いた」


 夜炎はそう言いながらカードを二枚裏向きで置く。夜炎の手元にあるカードは0枚。


 ここで先程までの雑談がピタリと止む。


「蒼雷が一回ジョーカー引いたんだよね?」


「お蔭様で、俺の手札は8枚だ。不知火に見破られたからよ」


 蒼雷はそう言いながら不貞腐れている。


「神瞳君は確実に1枚は所有しているけど。もしかしたらまだもう1枚持っている可能性もあるよね」


「そうやってジョーカーの枚数をかく乱させようとしているでしょ? 雪菜ちゃん」


 玲と雪菜はそう言って睨みあっていると。


「お! 女の戦いが始まった」


「もういいか。上がるぞ俺は――」


「待って!」


 玲と雪菜が同時にそう言うと、迫力が凄まじかったので夜炎は思わず「あ……ああ」と声を漏らす。


「今回のトークフェーズ糞長いな。俺はパスだからな。裏向きの札が、ジョーカーとマーク有りのカードじゃなく、ただのペアのカードだったら、俺の手札はまた増えちまう」


「蒼雷はいいよ。それが普通だもん。よし、雪菜ちゃんジャンケンをしよう。勝った人が不知火君の上がりカードが、アンサーする」


「いいわ。望むところ!」


 そして、最初はグーの合図で出したジャンケンで勝ったのは雪菜だった。


「夜炎君には上がらさせない! ダウトよ!」


 夜炎が裏向きにしていたカードを公開。ハートの5ネルトラとクローバーの5ネルトラ


「嘘――」


 蒼雷は置かれているカードを全て裏側に揃えてから、こっそりとまとめて渡す。玲はほっとして胸を撫でおろしていた。渡されたカードの内容を見て雪菜は驚愕した。ジョーカーがたった10枚の中に、2枚も入っていたからだ。


 それを見ていた玲と夜炎は、ニヤニヤと笑みを浮かべていたので、皆が全く疑っていないトークフェーズの時に、裏向きで捨て札ゾーンに置かれてたのだ。


 これで夜炎以外が残り、蒼雷と玲と雪菜で戦うことになる。


 山札を引くドローフェーズ山札から引いたカードと同じカードを探すスタンバイフェーズ→|ペアのカードorジョーカーとその他のカードを表か裏で捨てる《セットフェーズ》→|捨てたカードがジョーカーだったかを審議する《トークフェーズ》→|全員パスorプレイヤーの誰かがダウトと宣言アンサーフェーズ→|ダウト宣言されたプレイヤーは裏側のカードを公開する《リザルトフェーズ》


 と、このような流れでゲームを進行する。カードの枚数は合計10枚。そのうちジョーカーが4枚という内訳になっており、ゲーム性として、セットフェーズの際に、全て裏側にして出し、わざとトークフェーズを発生させて、かく乱させる戦法もある。夜炎はこれで1位抜けとなった。


 そして、結果的には雪菜が最下位の敗北となった。落ち込んでいる雪菜に、まあまあと肩を叩く玲。


「バロガンさんは怪力ってレベルじゃないんだけどな。ただの力のみで、10メートルの岩山を破壊したり、口からライトニングフラッシュ吐いたり、正直訳分からねえよ。まあ、戦った時のあの人は、一番魔物に近いかもな。けれども魔物っぽいせいか、魔物狩りが趣味のキルシュさんに、ボコボコにされたらしい。まあジェラを倒す前の話だけどな」


「相性ってやつか」


「そうだな。戦闘ってのは基本的に相性だ。それでいくと、ロードゲート先生がオールラウンダーだとしたら、その下にアルガロスさんとスペルダーがいる感じかな。俺はその三人の下位互換って感じだ。魔力に波がありすぎる」


「なるほどな」


 蒼雷と夜炎がそう会話していると、窓際に座る玲と雪菜が「何だろう?」と窓の外を指していた。


 雲より下を飛行しているので、もうすぐ着きそうな自然大国フェリペスから、爆発したかのように光が衝突しているようだった。


「あれはどう考えても赤い雷のライトニングフラッシュだよな」


「神瞳――いけるか?」


「任せろ。全てを見通す眼。全てに適応する眼。全てを支配する眼を備えし瞳。聖霊、光神セイレーンよ我に力を与え給え。発動、神の瞳ゴッドアイ


 蒼雷は青色の雷を纏い、両方の瞳は薄めの茶色から蒼色に変色した。魔力には圧倒的な重圧プレッシャーがかけており、近くにいる三人は、一週間前なら対峙できないほどだった。しかし、修行したことにより、蒼雷の魔力が大きくとも、冷静さを保つことができる。


 しかし――飛行船の運転手だけは違った。感じたことが無い膨大な魔力量に、白の手袋が透明の色に変色し始めている。


「お前――戦わないときに限って魔力量多くないか?」


「うるさいな集中させろ。 千里眼オラクルアイ


 バロガンの魔力を感じ取った蒼雷は、バロガンの光景を捉えた。そして、目を瞑りながら口を開く。


「バロガンさんが放っているのはデストロイ・ライトニングフラッシュだな」


「お前が以前見せた、ライトニングドラゴンウェーブと同じクラスの難易度の魔法だよな」


「だな。で――近くにいる魔力は――また、見たこと無い奴だな。バロガンさんと同じような体格をしてやがる。200cm以上の褐色肌の大男で、フットボール選手みたいな筋肉質な体。んでもって、顔は目元以外を包帯でぐるぐる巻きにしてやがるな」


「いかにもって感じね」


 雪菜はそう言うと、玲は「強そう――」という言葉と同時に、不安も一緒に吐き出したようにも思える。


「他には人はいないな」


「一人だけで来たって馬鹿な話は無いだろう」


 夜炎の推測に頷く蒼雷。


「ザギロスは頭が切れるから、恐らく今回も来ているはずなんだよな。でも、バロガンさんが自分の森を易々と侵入させる訳ないし、恐らく何らかの魔法で行動制限をされて、森への侵入をさせたんだろうな」


「自信に満ちた推測だな」


 蒼雷の脈、心音などから聞こえる音があまりにも普通過ぎた。多少なりとも乱れてもいい筈が、いつも蒼雷だったからだ。


「あの人、ジェラとの戦争の時、闇の支配者ダークルーラーの一万人くらいをパンチとキックだけで無双していた人だぜ? そんな人が相手が例え、闇の支配者ダークルーラーの幹部複数人に襲いかかられても、まともに戦っている限りは、そう簡単に不意を突かれねえよ。ただの突きを地面にするだけで地割れ起こしたりするし」


「べ、別次元だわ――迅鳴先生は、光の速さでビュンビュン動くし、何なのアナタ達――」


「いや、引くなよ。褒めろよ」


 蒼雷はそう言いながら 神の瞳ゴッドアイを解除した。


「気合入れていくぞ」


 蒼雷の言葉に、夜炎、玲、雪菜は各々返事をした。




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