第15話 大地の玉、争奪戦Ⅰ

 自然大国フェリペスにある、パルテナの森と呼ばれる森の一角に、高さ10メートル以上、奥行き5メートル以上の岩山が、数キロにも及び並んでいる、ロックベルトと呼ばれる場所があった。そのロックベルトの岩山の前に、ターバンを巻いた男、バロガンが立っていた。


 200cm以上の巨躯を持ちながら、首、腕、胸、背中、脚、 ももなどの、筋力を主に使う部位全てが、完成された肉体美。あまりにも完璧過ぎる筋肉の付き方は、見る者全てを魅了してしまうのではないだろうか? 夜中に歩いていれば、それこそ魔物と誤解するのではないのだろうか?


 そんな、バロガンは太い眉と、二重の柔らかい目が印象的。褐色肌とは対照的に、笑ったときの白い歯が目立つ。上半身は衣服を着ていないが、下半身はデニム生地のパンツを履いている。


 ふう――と深呼吸し、目の前に聳え立つ岩山を見上げる。


 そして、右の拳を握り、左手は岩山に向かって、握るような手の形を取った。


 刹那、獣の雄叫びのような気合いの声は森全体に響き渡る。その後、右の拳を突き出すと、目の前の巨大な岩山は粉々に砕けてしまった。


「流石師匠! お見事です!」


 そう話しながら、森から出てきたのは、右手には2メートル程の巨大な魚を、左手には桶に入った水を持つ、十にも満たない茶髪の少年だった。


「今日も大量だな。よくやったぞアドラー」


 バロガンがニッと笑みを浮かべると、アドラーは照れ笑いを浮かべていた。


「さあ飯にするか」


 バロガンは先程砕いた岩山の、大きめの岩を選んで地面に敷き詰める。その上に、アドラーに魚を置くように首で促す。


 その魚を手刀で二つに分けた後、手を翳し発火させた。


「そろそろだな」


 しばらくすると、バロガンは二切れの魚に対して息を吹きかけると、程よく焦げ目が付いた魚の丸焼きの完成。


「相変わらず美味そう」


「まあこんな生活を昔からしていると慣れるものだ」


 二人はそう言いながら、手を合わせて料理にありつけた。


「って言ってもお昼だけですけどね。朝と晩はちゃんと家に帰って料理作るじゃないですか」


「まあ、趣味ってことだ」


「そもそも師匠が持つ敷地が広すぎるんですよ。ロックベルトがあるこのパルテナの森、全域が敷地なんて――」


「破壊帝を倒したときの世界から貰った報酬だ。まあ、実際倒したのは蒼雷だけどな。森を買えば食料にも住む場所にも困らんだろ?」


「豪快過ぎるんだよな~」


 アドラーは体だけではなく、考えることも大きいと再認識した。自然大国と呼ばれるこの国には、海の幸も、森の恵みもあることから、食料に困ることは相当なことが起きないと尽きない。


 そして、この国の食料というのも、ホテルや一流の料理屋に出されるものが多く、食材全般が美味で有名であることから、非常に需要が高い。


「アドラー、腕の調子はどうだ?」


 バロガンがそう言って指を指したのは、アドラーの右腕。アドラーの体には似つかわしくないほど、屈強な腕は成人男性と同じような太さで、とても十を満たない少年の腕の太さではない。また、爪は黒く、腕の色は赤土色となっており、皮膚と呼ぶより、鉄のような光沢を帯びている。


「今日は特に暴走することはないですね。もう少しでコントロールできそうなんですけど」


「力の使い方は徐々に慣れていけばいいさ」


「蒼雷さんは僕と同じ年で、既に神の瞳ゴッドアイを使いこなしていたんですよね?」


「まあそうだな。あいつは元々戦闘センスがいいからな。でも、まだまだ能力は不十分らしい」


「一度会ってみたいな」


「そのうち会えるさ」


 そう言うとバロガンは魚を食べ終わった。


「ご馳走さまでした」


 手を合わせたと同時に、バロガンの顔つきが変わった。


「どうしました?」


 アドラーの問いかけに応じず、左の森の奥のほうを見ているバロガン。アドラーは怪訝な表情をしながらも、ある程度の予測をした。


 左は森の南側で、この森の入り口ともなる場所。誰かがこの森に訪れたのには変わりないだろうが、バロガンが神妙な顔つきになるのは珍しかった。


 バロガンは桶に入っている水を飲み、「よし」と意気込んだ。


「アドラー。少し待っていてくれ。どうやら仕事のようだ」


 仕事と言った時は、島に侵入しようとする密猟者を追い払う時の台詞だった。しかし、アドラーからすれば緊張感がいつもと違う。


「僕もいきます!」


「――逃げろと言ったらすぐに逃げろよ?」


「うん!」


 アドラーはそう言って残っている魚を食べ終わり、桶に入っている水を飲み干した。


「行くぞ」


  魔力浮遊エアを使って、二人はこの地を後にした。そして、ほんの数分で目的地に着いた。森の入り口には黒いローブを着た人間が、50人ほど集まっている。


「 あの黒いローブは闇の支配者ダークルーラーか?」


闇の支配者ダークルーラーってあの闇の支配者ダークルーラーですか?」


「そうだ。とりあえず様子を見に行くか」


「どちらにせよ、良からぬことを企んでいるわけですよね?」


「そうだな。どうする? 来るか?」


「流石にあの人数を師匠一人が相手にするのはできないでしょ。僕もついていく」


「よし。行くぞ」


 バロガンとアドラーはそう言って黒のローブの集団に向かう。


 すると、二人の男がバロガンとアドラーを見上げている。


 長い銀髪の男ザギロスと、短い銀髪の男レイゾンのペリグリンコンビだ。


 バロガンとアドラーが着地すると、黒いローブの人間は一斉に二人を見た。


「元ペリグリンのレイゾンとザギロス、それに最近エクゾトレイブを脱獄した時雨天魔――凄い面子メンツだな」


「光栄なお出迎えだな。七色の操雷者アルレーズのバロガン・パウワ。それに、そこのガキの腕はもしかして

土神の腕グランマーグアームか? 書物でしか見たことが無かったから驚きだ」


 ザギロスがそう言った後、銀縁の眼鏡をかけている時雨が口を開く。


「なに、僕達は戦う気はない。属性玉を探しているんだ」


「属性玉? あの伝説の属性玉か」


 バロガンの問いかけにそうそう! と同意しながら時雨は頷く。


「アンタ達が知っている昔の闇の支配者ダークルーラーのように、むやみやたらに人を殺す集団ではない。また、戦う必要も無いと思っている。大人しく手を引いてくれないか?」


「残念ながらここは俺の森だ。属性玉を取りに来た――なんて説明だけでは、この森へは入れさせん」


「アナタの森って、ここはフェリペスの一部でしょ? 別にアナタを通す必要は無いんじゃないかしら?」


 そう言い放ったのは、紅色の髪色をした女性、ルビーだった。阻まれて不服なのか、少し高圧的になっているようだ。


「いや、この森はバロガンの所有地だ。だからこの森から取れる食料は、あらゆる国に流通しているため、こいつの懐にお金が入るって仕組みさ」


「へえ、いいじゃない。お金持ちってことね」


 ザギロスに回答にルビーは舌なめずりをした。


「うえ――何か変な女の人いる。あれ誰ですか?」


 アドラーがバロガンに問いかけるも、バロガンは首を左右に振る。


「知らん。が――恐らくお金好きなんだろうな。どこに興奮要素があるのか全く分からんが」


 ルビーのこの反応は日常茶飯事なので、 幹部クラスの構成員メンバーは特に驚くことは無い。いつもの悪い癖が出ていると、心の内に秘めてスルーしている。


「説明しないと通してくれないか?」


「勿論」


 ザギロスの問いかけに間髪入れずに返答するバロガン。


「仕方ねえ」


 ザギロスのその発言と同時に、ザギロス、ルビー、時雨、そして、 闇の支配者ダークルーラー一の大男、クルーデスの四人がかりで襲い掛かった。


 



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