第13話 玉の在り処で待つ聖霊

 街灯が点在する住宅街から景観はガラリと変わり、辺りは木々で囲まれている場所へと辿り着いた。


「ここはどこですか?」


「ロゼルじゃよ。お主たちが闇の支配者ダークルーラーと戦ってくれた森の中じゃ」


 ロードゲートはそう言いながら、指先から光の玉を二つ出して、自分の近くと蒼雷の付近を照らす。真っ暗で何も見えなかったが、光の玉が照明の役目を果たしてくれている。


 ロードゲートが歩き始めると、蒼雷もその後を追う。


「先生も意地悪ですねよね。転移魔法テレポートが使えるなら、一度来たことがあるんじゃないですか――」


 と、蒼雷が拗ねるとロードゲートは笑みを浮かべながら謝罪した。


「すまんの。実はここに来たのは昨日なんじゃ。蒼雷君たちが戻ってきた後に、調査しておったのじゃ。龍騎君から受けた報告が気になったのもあっての。そこで、お宝を見つけたもので、蒼雷君にプレゼントしようかと思っての」


「俺に? 先生がくすねたら良かったのに」


「まあ、正確に言うと君にしか扱えない代物での――。疾風の玉があったところにそれはある」


「てことは、疾風の玉があった場所に向かっているんですか?」


「左様」


転移魔法テレポートでそこに行くことはできないのですか?」


「無理じゃ。移動系の魔法は、特殊な魔力で妨害されておるからの。さっきの到着地点が、目的地の一番近くになる」


「なるほど。まだ結構先ですよね?」


「そうじゃの。まあたまには散歩も良かれと思ってな。君とこうして一緒に歩く機会も少ないし、ワシの我が儘に少し付き合ってくれんか?」


「いいですよ。というか、この機会なので、いくつか聞きたいあるんですけどいいですか?」


「勿論。答えられることなら何でも」


 蒼雷はその返答が嬉しかったのか、小さく拳でガッツポーズをした。


「ジェラは先生でもやはり勝てなかったのですか?」


 蒼雷の質問に、一呼吸置いてから口を開いた。


「本気を出して戦った無理じゃったの。君の星屑の玉スターダストボールのような強力な固有魔法ユニークマジックは持っておらんしの。というか、あの魔法は特殊すぎる。ワシの裁きジャッジメントでは奴に勝つことはできなかった。じゃから 七色の操雷者アルレーズに頼んだのじゃ。手加減をしたつもりはない」


「そうでしたか――。スペルダーはどうですか? ジェラと比較して」


ジェラと比較すればスペルダーは子供みたいなもんじゃろ。五年前のお主のほうがどう考えても強い。気付ておらんかもしらんが、ワシが本気で魔力開放したときと同じくらいじゃて。六年前、ワシがジェラと戦ったときの魔力覚えておるか?」


「確かに遠くから、物凄い魔力が感じ取れていました。そんなに出ていたのか――」


「それほど――お主が持つ本来の実力が凄いということじゃ――。チートじゃの」


「チート? 何ですかその言葉?」


 蒼雷が首を傾げると、ロードゲートは咳払いをして誤魔化した。


「今のは忘れてくれ――話を戻すと、闇の支配者ダークルーラーのアジトさえ分かればいいのじゃが、如何せん見つからないのじゃ――。本来、魔法省がもっと動くべきなんじゃがの――大臣ゼノに強化しろと言っておかないといけないの」


「人手不足なんですか? 魔法省は」


「まあ、そうじゃの。前任の大臣バルドスを含めて、多くの魔法省の人間がやられたからの。今の魔法省は比較的に若い世代が多い。それは確かにいいことではあるのじゃが、闇の支配者ダークルーラーのような強敵との実践経験を積んでいる人間が少ないのじゃ」


「ああ――確かに」


 蒼雷は苦笑しながら、前回の戦闘を思い出していた。


「じゃからワシが、 七色の操雷者アルレーズを作り上げたのじゃが――。ジェラが強すぎたの。250年前ほどはワシのが強かったのじゃが」


「いや。どんだけ前の話をしているんですか」


 蒼雷がそう言うとロードゲートは陽気に笑っていた。


「いずれにしても君達には感謝しておる。ただ、今回は魔神が復活するかもしれんから、困ったもんじゃの」


「そうですね――あ、名案なんですけど先生の 裁きジャッジメントを教えてくださいよ」


 ロードゲートは蒼雷の案に、思わずギョッとして転がっている石ころに躓きそうになった。


「大丈夫ですか?」


 蒼雷は、ロードゲートがドジを踏んだところを見たのは初めてだったので、気にかけた言葉とは裏腹に、やった! という思いが込みあがっていた。


「驚かさんでくれ」


 ロードゲートは立ち止まり、後ろからついてくる蒼雷に視線を向けた。


「単刀直入に言うと、今のお主じゃまだ無理じゃ」


「光と雷の複合以外に何かあるんですか?」


「魔力が足りなさすぎる。お主が仮に発動したとしても、放った瞬間魔力が0になり命を落とすの。まあジェラを倒したときの魔力があれば発動できるかもしれんが――。いずれにせよ、蒼雷君の今の状態じゃ練習することすらできん」


 それを聞いた蒼雷は、冗談だろと言わんばかりに顔を引きつっていた。


「とりあえず木々が抜けたの」


 せせらぎが聞こえ始めたので、蒼雷は音の鳴るほうへと走っていった。


「綺麗な川ですね」


 木々に囲まれたなかに突如として現れた渓谷。穏やかな流れの小川にポツポツと点在する岩の足場。今宵は満月という事もあり、小川は煌びやかな光を放っていた。


「昨日、訪れたときは日中だったのじゃが、透明度は凄まじかったぞ。時間が空いた時に水野君と二人で来ると良い。何なら、旅費を出しもよいぞ」



「先生、めちゃくちゃお昼どきの小川を推してくるじゃないですか」


「綺麗じゃからな。まあロマンがあるのは、今見とる川じゃがの」


「そうですね。あいつにも見せてあげたい」


 蒼雷の感想にロードゲートは優しく笑みを浮かべていた。


「さて、上流のほうに向かうぞ。もう少しで疾風の玉があったところに着く」


「はい!」


 ロードゲートが川沿いを歩き始めると蒼雷もついていった。20分ほど歩くと次第に川の流れが少しずつではあるが激しくなっていた。重力の玉を窪みを入れて、ヒントをもらったときと同じ光景だった。


「もしかしてあの岩ですか?」


「左様」


 蒼雷が指した岩は、大人が三人立っても余裕のスペースが岩の足場だった。他の岩の足場は、大人一人が限界の大きさ程しかないので、他の岩の足場と比較して、大きさが違うのは一目瞭然だった。


「蒼雷君。あそこに行ってみてくれ」


「いいですよ」


 蒼雷はそう言って、疾風の玉が隠れていた岩の足場に立つ。


「ここにあったのか」


『疾風の玉を奪われてから来おって』


 蒼雷が、突如として聞こえてきた声に驚きながら、一旦ロードゲートの方を向いた。


 ロードゲートは首を左右に振った後、視線を上に向けたのだった。


 蒼雷は怪訝な表情を浮かべながらも、ロードゲートと同じく視線を上に向けた。


 何故気付かなかったのだろう――。始めに見たときの感想はそうだった。


 10メートル程の高さの位置には、巨大な翼を広げ空に留まり、黄色の鋭い目を蒼雷に向けているソレ。


 翼を含めた大きさは全長5メートルほどで、体表が鳶色に覆われている巨大な鳥だった。

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