第11話 特別授業Ⅰ

「俺に修行をつけてくれって?」


 駿聖は問いかけてきた玲と雪菜に再度内容を問いかけていた。


「先生は闇の支配者ダークルーラーのメンバーにも勝てるほどの実力でしょ?」


「いや。俺は闇の支配者ダークルーラーのメンバーと戦ったことがないし、魔力や戦闘スタイルが分からない以上、何とも言えない。それに魔法を教えるのであれば、近くに適任がいるかじゃないか」


 駿聖の返答に玲は首を左右に振った。


「蒼雷に頼んだけど、蒼雷は修行するって言っていた。それに魔法を使えないから、具体例を出せない。だから、教えたことをできるまで時間がかかるぞって。だからもう先生しかいないかなって」


「先生の授業は分かりやすいので、ぜひご教示いただきたいなと!」


 玲の後に雪菜が念押しをすると、駿聖は困惑の表情を見せた。しばらく考えたあと、頭を掻きながら仕方ないと呟いた。


「教えるのは放課後だぞ」


「やったー」


 駿聖の渋々した承諾に二人は手を合わせて跳ねていた。


「ここまで言われちゃ流石に断れないわな」


 と呟いたあとに、続けて二人に問いかけた。 


「因みに何がしたい? 魔法を覚えることか、身体能力の向上、魔法についての知識」


「私は全部だね。今のままじゃ皆の足を引っ張ってしまうから、蒼雷にもっとサポートできる魔法と、火力の高い攻撃魔法を覚えたい」


「なるほどな、白川はどうだ? 俺が教えることなんてなさそうだが」


「誰かに教えてもらうという風習は実はあまり無いんです。なので、玲ちゃんと同じ内容でいいです」


「そうか。で、気になったんだが、いつの間にちゃん付け?」


「堅苦しいからお互いちゃん付けで呼ぶことになりました!」


 と、敬礼しながら元気よく挨拶する玲に、思わず「おお――」と声を漏らす駿聖。


「じゃあ俺はそろそろ戻るからな。17時から開始する。とりあえず教室にいておけ」


了解ラジャー!」


 放課後、玲と雪菜、そして何故か夜炎が席についていた。


「あれ? 一人増えている」


「急にけしかけてすみません。俺も受講したくて来ました」


「気にしなくていいぞ。そうだな、とりあえず三人確認しておきたいことがある。世に出ている魔法をどれくらい把握している? 魔法名、属性、効果、取得難易度についてだ」


「火、水、土、風、雷、闇、光。それ以外にも白川のような氷というような属性が存在し、それらの魔法を全て含めても5000種類程だとされています。魔法名、属性、効果、取得難易度の把握は、2000種類ほどできています」


「ヤバい。私学校で習ったものしか分からないから、500種類くらいだ」


「まさか、私が覚えている魔法の数が不知火くんと同じくらいだなんて」


 雪菜は魔法省に身を置いているにも関わらず、一般学生と覚えている魔法の数がほぼ同じくらいだと知り、自分が見てきた世界があまりにも狭かったことを痛感した。魔法省に身を置いていたとしても、ここ最近会った人たちは、蒼雷を始め別次元だった。目の前にいる駿聖もその一人。魔法省の秘密部隊のなかでも、全ての魔法をほぼ把握できているとされている人物は、秘密部隊統括の龍騎と、雪菜を今回の任務に差し向けた【シルバーソウル】くらいだとされている。それくらい魔法の種類を覚えることは難しく、また勉強する術もなかなか無い。なので、雪菜が持つ魔法に対しての知識量は多いほうだとされていた。


「魔法を覚えるには、何よりも実践経験だからな。あまり、世の中に出ていない、つまり使用者が少ない魔法は知る術が無い。未だに全ての魔法が掲載されている本は世界に数冊しか無く、入手するには高額なお金が必要になってくる」


「魔法省に一冊保管されていますけど、厳重に保管されていて、自由に閲覧できるのは魔法省のなかでも数人しかいないそうです」


「そうだ。なので、方法としては実践経験で覚えるしか無い。そんな未知が多い魔法ではあるが、魔法の種類をほぼ全て覚えることができている者に、ある資格が与えられる」


「ある資格?」


 三人声色は違えど興味津々に問いかけた。


「そう。それは固有魔法ユニークマジックの会得だ」


「聞いたことないですね」


 夜炎がそう呟くと、そうだろうなと言わんばかりに駿聖は話を続けた。


固有魔法ユニークマジックは基本的に、その人物しか使えない魔法で、独自に開発した魔法のことだ。魔法が全て掲載されている本にすら載っていない、極めて希少レアな魔法のことを示している。魔法の知識量、感性、想像力、その事象を起こすための理。これらが合わさり、会得することができる」


「先生はできるんですか?」


 玲の問いかけに駿聖は首を振る。


「残念ながら俺ですらできない。というか、固有魔法ユニークマジックを使えるのは俺が知っている中で四人しかいない」


「少ないですね。因みに誰ですか?」


 夜炎がそう問いかけると駿聖は再び口を開いた。


「ロードゲート先生が扱う、裁きジャッジメント、破壊帝ジェラが扱う呪いカース、水野龍騎さんが使うシール、そして、蒼雷が使う星屑スターダスト


 夜炎は眉をピクリと上げて反応し、雪菜は呆けたような表情を浮かべている。


「すご、蒼雷使えるんだ!」


 と玲は心の底から感心している。


「三人のビッグネームのなかに神瞳くんの名前が――」


「まあ使えない俺が説明するのも何なんだが、固有魔法ユニークマジックってのは強力すぎる必殺技だ。不知火と水野は水野さんとスペルダーの戦いを見て肌で感じたはずだ」


「魔力と技の豊富さは明らかにスペルダーが上だった。しかし、水野さんは封水波シールウェーブを使って魔力を封じるという荒業を使った。相手を倒すことはできないものの、強制的に撤退させることができる。つまり格上相手でも勝てるということですね?」


「そういうことだ。そもそもジェラを倒せたのは他でもない。蒼雷がいたからだ。世間では七人がジェラに立ち向かい、弱っているジェラにトドメを刺したのが蒼雷と言われているが実際は違う。ボロボロだったのは俺達で、ジェラは平然とした。ダメージを負ってはいたが、大したことはなかった。そんな破壊帝が繰り出した魔法は、国一つを破壊できるほどの高密度のエネルギーを宿した攻撃魔法。蒼雷は固有魔法ユニークマジック星屑の玉スターダストボールを使って、その魔法を吸収し、倍にしてジェラに返した」


「国を一つ破壊できる魔法って――」


「信じられない――」


「それを返しただと?」


 玲が口にした後、雪菜、夜炎の順に口を開いて各々感想を述べた。


「本来、魔法での戦闘は単純な魔力の大きさではなく、自身が扱う魔法、体術、作戦、相性、経験、能力で勝敗が決まる。しかし、あまりにも魔力の差が大きいと、魔法の規模が大きく、一発のダメージが大きい。勝てる要素全てが無になる。埋めようのない高い壁だ。その埋めようの高い壁をぶち破ることができる唯一の方法、それ固有魔法ユニークマジックだ。まあ俺が何を言いたかったのかをまとめると固有魔法ユニークマジックの習得を目指すために魔法の種類を叩きこんでくれ。そうすることで戦闘にも余裕でき、魔法を喰らった時の対処法も早く立てられる」


「先生、もしかして詠唱破棄のメリットってそこにあるんですか?」


 玲の質問に対して駿聖は大きく頷く。


「そうだな。魔法ってのは読み合いだからね。相手が把握している魔法の数、いわゆる経験値で決まることもあるから、強力な詠唱破棄ができる人ほど、戦闘を有利に進めることもできる」


「でも魔法の数を覚えると言ったって、そんな簡単に覚えることできないって先生言いましたよね?」


 雪菜がそう言うと、駿聖は得意気に笑みを浮かべた。


「俺が覚えている魔法を全て共有する。そして使える魔法に関しては全て披露しよう。そして自分のモノにしてくれ。ここカルノールの先生として、そして七色の雷操者アルレーズの一人としてな。これから別の部屋に移動する。そこで君達は強くなるんだ」


 駿聖はそう言って三人を別の部屋に案内した。案内された場所は学園の地下にあるとある部屋の前に来ていた。松明が両端に置かれている暗い階段を下ってきた。


「学園にこんな場所があったなんて」


「学園の地下には、不特定多数の人に必要な部屋がいくつか設けられている。その部屋の一つがここだ。さあ開けるぞ」


 駿聖がそう言って目の前にある厚み数十センチの木製扉を開けると、玲と雪菜は固唾を飲み込んだ。心なしか夜炎の心拍数も少し上がっているようだ。


 扉を開けると駿聖は少し驚いた表情を見せた。食料と飲み物しか置いていない実践演習場くらいの大きさのこの部屋の中心に、まるで待っていたかのように立っていた蒼雷の姿があったからだ。


「この気配は神瞳か」


 夜炎のその言葉に玲と、雪菜は駿聖の後ろからひょこりと顔を覗かせる。


「なんだ駿聖もお揃いで。魔力を感じていたから来ることは知っていたけど」


「なんで蒼雷がこんなところにいるの?」


「それはこっちの台詞だ。不知火と白川はともかく、玲までこんな厳しい部屋に来るなんて」


「厳しい?」


 玲と雪菜が不思議そうに首を傾げると、駿聖が指示を出す。


「扉を閉めてみな」


 その指示通り、雪菜が扉を閉めると数秒後には体が重くて夜炎、玲、雪菜の三人は立つことを許されなかった。押し潰されそうな強力な重力。何とか魔力を使って、体の機能を正常に働かせているものの、少しでも集中力を切らすと、血液がうまく循環せずに下手をすると死に至る。しかし、蒼雷と駿聖は平然と立っている。


「おいおい。本当に大丈夫かよ。この部屋に連れてきて」


 蒼雷がそう言うと、駿聖は大丈夫と一言。


「俺達も最初はこの部屋手こずっただろ?」


「確かにな。修行の場所にあまり選びたくない場所ではあるし。さて、玲、不知火、白川。立つことができなければ何も始まらないぞ?」


「当たり前だ! 魔力を使わずとんでもない重力のなか平然と立っているお前に、負けてたまるか!」


 夜炎は歯を食いしばりながら、上体を起こしていく。筋力だけじゃどうにもならないことを察したのか、背筋に部位魔法マナパーツを集中させている。


「悔しいけどやっぱ魔力の使い方が上手いな」


 蒼雷がそう笑みを浮かべると、夜炎は額に流れる汗を散らしながら立ち上がった。


「な? 言っただろ?」


 駿聖は蒼雷に向けてハミカミながらサムズアップをした。


「ここ十倍の重力あるんだぞ」


「蒼雷が魔力を使わず十倍の重力に耐えていることは知る由もなかった」


「変なナレーション入れるな。十倍の重力の凄さが霞む」


「まあ、生身の身体能力は七色の雷操者アルレーズ一だしね」


「お世辞はやめてくれ、勝てなきゃ意味が無いんだ。と、悠長に話している場合じゃないな。玲と白川がヤバい」


 蒼雷は中腰になり、二人の手に自分の手をそっと添えた。


「いいか二人とも。背筋、腕、脳の三種類の部位に部位魔法マナパーツを集中させるんだ。血反吐が出るような地獄の修行を積まないことには、生身で立つことはまずできない。まずは魔力を使って重力の世界に慣れるんだ。これさえ乗り越えることができれば、魔力の増幅、身体能力の向上、まとめると強くなることができる。だから踏ん張ってくれ」


 その言葉にうんと小さく声を漏らす二人。蒼雷のアドバイス通り、苦しいながらも教えられた箇所に魔力を集中させると、少しずつではあるが上体を起こしていく。


「そうだその調子だ」


 蒼雷のアドバイスで玲と雪菜は30分ほど経ってから立ち上がることができた。夜炎は体が重いと言いつつも、気分も悪くならず、ゆっくりではあるが、歩けるようにまでなっていた。


「重力に耐えるのが精一杯で悪いが、俺がさっき言っていた魔法の披露と解説のフェーズに移るぞ」


「うわあ。趣味悪いな」


 蒼雷がそう言うと、これは三人が望んだことだと一蹴する。


「三人とも強くなりたいんだろ? 魔法を覚えたいんだろ? やれるな?」


「はい!」


 駿聖の問いかけに三人は応えた。















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