第10話 とある目的
暗黒に包まれた国、スダインのとある地下に
「まずは次の玉の在り処についてだ」
そう言い放ったのは、頭に眼鏡ほどの小型のバイザーを装着している金髪の精悍な顔つきをした好青年。男とは思えぬほど白い肌をしており、大きい青い瞳が印象的だ。部下の一人の男に指示を出し、部屋を薄暗くさせた。そして、白い壁がプロジェクターになり説明を続けた。
「ゲートが疾風の玉を入手してくれたことにより、次の玉の在り処が標された。それはフェリペスだ」
構成員は表情をさほど変えずそのまま話を聞く。
「この映像を見せてほしい」
金髪の青年がそう言うと、映像は森の中にあるレンガの建造物が映された。建造物からは所々に苔や木が生えている。最近できた建造物ではないことは明白だ。その中に入り奥に進んでいくと、突き当りには金で出来た台座が煌びやかな光を放つ。その台座の上に、薄い茶色の玉が見え隠れしている。玉の中にある光は粒のように小さく舞っていた。
映像が終わると部屋は元の明るさに戻った。
「ちょっと待って! ヒント少なくない?」
そう発言したのは目つきが鋭い赤髪の少年、黒暗寺凶死郎。
「確かにヒントは少ねえな。ゼノン、本当に情報はそれだけなのか?」
銀色の長い髪に鮫のような鋭い目つきをした男、ザギロスは怪訝な表情を浮かべながら、バイザーを着けた金髪の青年ゼノンにそう問いかける。
「残念ながらこれだけだ。空から見た情報などがあれば、楽に動くことはできると思うがな。何にせよ、フェリペスは自然の大国だ。とはいっても国の七割が森で、目立つような地形もない。なので、これだけのヒントしか無いのだろうと推測している」
「成程な。弱ったなフェリペスにはややこしいのが一人いるんだ」
ザギロスのその発言に、全員が目を向ける。円卓の片側の中心に座る、毛先が曲がった白銀の髪をした、三十代前半かと誤解を招くような、美貌と端正な顔立ちした
「俺の情報によると、
ザギロスの神妙な顔つきに反して大丈夫だろうと問題視しない者や、実力を試したいと闘志を燃やす者、各々に様々な反応を見せる。
それを見ていたスペルダーはゆっくりと口を開く。
「バロガン・パウワは魔法ではなく、ただのパンチで地形を変える怪力の持ち主だ」
それを聞いた凶死郎と、隣に座る葉巻を咥えた、口元と顎に髭を蓄えた男、スターツは苦笑を浮かべていた。
「ただの怪力馬鹿ならいいのだが、
ザギロスがそう言いながら視線を向けたのは、目元以外の顔の部分を包帯で巻いた褐色肌の大男。成人男性二人分が並べるほど横幅が広く、銃弾をも跳ね返しそうな厚い胸板。手に力を少し入れるだけで、一匹の生物かの如く脈を打つ血管は、巨大な腕を象徴しているようにも思える。
「そうだな。今回の作戦には俺が参加するべきだな。是非とも手合わせを願いたい」
「馬鹿言うな。一度会ってみろ、下手すると誰か一人は死ぬ」
「それはさせん。ワシが全員の壁となるからな」
そう言って高らかに笑うのは長い白髪をヘアゴムで結っている初老の男性ウリベリス。ザギロスは呑気なウリベリスを見て少し呆れた。
「お前たちでは話にならない。疾風の玉を入手できたのも、ゲートが出し抜いたからだ。まずは構成員を含めて、組織の単純な力の強化が必要だ」
そう説いたのは、毛先が少し曲がっている髪質に加えて、襟足が肩につくほどの長さの黒髪。鼻の中心まであるほどの長さの前髪を右に分けて流している男性。くっきりとした二重に切れ長の目、決して高い鼻ではないものの、全ての顔のパーツが完璧で、髪形と衣装次第では女性にもなれそうな美丈夫だ。両耳には狼のような絵が描かれた銀色のピアスをしており、
「ベルーガの言う通りよ。まず私たち全員が強くならないと」
ベルーガに同意して発言をしたのは、腰くらいまでの長さで、紅色の髪色をした女性。前髪で右目が隠れており、少し垂れ目の黄色い瞳が印象的で、ぷっくりとしたピンク色の唇を持つ。豊満なバストが強調されるようなノースリーブの黒服に身を包んでいる。
「まあ、ベルーガとルビーの意見はごもっともだな。レイゾンはどう思う?」
ザギロスがそう振ったレイゾンと呼ばれる男は、サイドに剃り込みを入れ、短い銀髪を立たせている中年男性。鷹のような鋭い目には凄みを感じる。
「俺も同意見だ。ただ、前から言っているが、そんな話に興味はない。俺にはそれほど忠誠心はないからな。スペルダーも了承のうえだ。カネがいいから雇われている。ザギロス、お前ならわかるだろ?」
「よせよ。ペリグリンのときの話をほじくり返すな。仮にもアンタの背中を追ってきたんだ、それくらい分かる。ただアンタの分析力や洞察力は一品だ。今は意見を聞きたい」
ザギロスがそう見つめると、レイゾンは溜めをつく。その後ゆっくり口を開いた。
「何もバロガン・パウワだけが敵ではない。フェリペスはメギラほどの魔物はいないが、強力な魔物がいる。魔法省が動かないとも限らない。属性玉は俺達が取ったが、何らかの方法で嗅ぎ付けられるかもしれない。あとは何人をフェリペスに向かわせるかだ」
「久々に僕も外に出たいな。魔物がいるのであれば研究材料にもってこいだ」
銀縁の眼鏡をクイッと上げて、不敵な笑みを浮かべたのは、黒髪の前髪を右に分けている白いシャツに、紺色のネクタイをし、その上に
「確かに、天魔の研究材料も必要だな。許可しよう」
スペルダーがそう返答すると、時雨は一礼した。
「今のところは、天魔とクルーデスだが、他に行きたい者はいるか?」
スペルダーの問いかけに口を開いたのはレイゾンだった。
「俺とザギロスも行こう」
「ペリグリンコンビかよ。笑えねえな――」
ザギロスが苦笑すると、レイゾンは微かに口角を吊り上げる。
「私が行くわ」
ルビーがいたずらな笑みを浮かべながら小さく挙手をした。スペルダーはそれを見て頷く。
「任せた。とりあえずはこれくらいでいいだろう。あとは――」
スペルダーがそう言ってゼノンの方に目を向ける。
ゼノンは咳払いをした後、進行を続けた。
「次は、短期的な幹部を含めた構成員の強化方法についてだ」
「ああ――それならいい方法があるぞ」
そう言って意見を出したのは、再びザギロス。
「俺はこういう分野に関しては天才なんだ」
不気味な笑みを浮かべたと同時に、体が謎の圧力に押し付けられる。体が、腕が、脚が、全てが重く自由を封じられた。平然としているのは、スペルダーを始め、ゼノン、ベルーガ、レイゾン、ルビー、ザギロスのみ。他の約半分の構成員は苦しみで顔が歪んでいるようだ。
「もういいだろう」
汗一つかいていないベルーガが涼しげな顔でそう呟いた。ザギロスは頷き魔法を解く。
「今のはグラビティワールドという魔法で、一定の範囲にかけることができる。効果は体感してもらった通り、空間の重力を変化させる魔法だ。今のは十倍に設定していた」
「いや! ヤバいって今の!」
思わず円卓を叩いて立ち上がった凶死郎。スターツはまあまあとあやす。
「どうだゼノン? 悪くないだろ?」
得意気な笑みを浮かべるザギロスに、ゼノンは尊敬の眼差しを見せていた。
「流石だな。ボス、強化作戦はザギロスのグラビティワールドを使用しましょう」
「そうだな。肉体の強化は魔力の質をも高める。短期間で強化を図るには最適な手段だ。フェリペスに向かうのは一週間後にする。それまでにザギロスのグラビティワールドで己の力に磨きをかけてくれ」
スペルダーの言葉に、一同は返事をすると幹部達はこの部屋を出ていく。一番後ろにいたゼノンをザギロスは手招きをして呼び止めた。
「どうだった?」
ザギロスの抽象的な質問は、他人では理解することができないが、ゼノンは意図を瞬時に理解し返答した。
「特に怪しい動きはない」
「そうか。外出とかしてねえのか?」
「たまに席を外すくらいで、基本的には基地にいるようだ。エリスも知っている」
「悪いな。俺の正体を知っておきながら色々と――」
ザギロスが珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべた。そんなザギロスを見て、八つも年上のザギロスのそんな姿を見たくないゼノンは小さく首を左右に振る。
「問題ない。復讐のためとスペルダー様の心を取り戻すためだ。お前とは立場が違えど、目的は同じだ」
「そうだな」
ザギロスは少し俯きながら照れ笑いを浮かべた。そのタイミングで扉が開かれた。
「なに? 二人でコソコソと」
そう言って入ってきた女性は、腰くらいまであるサラサラとした金髪に、薄い水色の大きな瞳を持ち、きめ細かい白い肌を持ち、純白のコートに身を包んでいる。左の腰にはサーベルをルビーのような鞘に納めている。
「エリスか。なあにいつもの話だ」
ゼノンが淡々と答えると、エリスは少し頬を膨らませた。
「可愛くないな~」
「腐れ縁だから今更だろ?」
「確かにそうだけどさ」
「ところで、エリスお前今帰ってきたのか?」
拗ね気味のエリスに声をかけたのはザギロスだった。
「そうそう。結構大変な任務だったんだよ。寒すぎて死にそうだった」
「雪の国カルセアだったよな? 収穫はあったか?」
「ない」
ドヤ顔で答えるエリスにため息をつくザギロス。
「もうちょっと反省しろよ。ゼノンもお前もボスの側近なんだ。俺達をまとめる総括だろ?」
「確かに?」
エリスはすっとボケ、なぜか疑問系で答える。
「テメェふざけんな!」
「ごめんごめん」
とエリスは謝るが、正直全く反省の色がない顔をしている。
「まあいい。二人ともちょっと付き合ってくれ」
ザギロスの言葉に、頭にクエッションマークを浮かべるゼノンとエリス。ザギロスが外に出ると二人は言われるがまま付いていった。
三人が来たのは何も置かれていない真っ白な部屋。100坪ほどの大きさのこの部屋は、よく構成員同士が戦闘を行う際に用いられている。
「二人で俺を相手してくれ」
ザギロスの真剣な眼差しとは反対に、ゼノンとエリスは目を合わせてキョトンとしている様子。
「このままじゃ駄目なんだ」
そのザギロスの眼差しにゼノンはやれやれと頭をかき、困惑した表情を浮かべた。
「いいだろう。ただし、エリスはお留守番だ。俺が相手してやる」
「有難うよ」
ザギロスとゼノンは一定の距離を保ち、しばらくの硬直状態が続いた。張り詰める緊迫感に、エリスが固唾を飲み込むとゼノンは動き出した。
「いくぞ!」
戦闘時間15分と短い戦闘のなかでザギロスは惨敗をした。ゼノンは24歳という若さでありながら、40を超えているベテランのレイゾン、クルーデス、ウリベリスをも圧倒できる実力者だ。ある意味目に見えた結果ではあった。
両膝をつきながら口から流血しているザギロスを、ゼノンは様子を伺っている。
「もういいだろう」
「まだだ」
ザギロスの右手には邪悪で禍々しい魔力が集中していた。心なしかこの部屋の空気が冷たくなっている。
「ちょっとあれ何よ?」
あまりにも強大な魔力。ザギロスが本来持っている魔力を遥かに上回っているうえに、禍々しく恐怖すら感じるソレは明らかに異質のモノだった。次第にその魔力の塊は、ザギロスの体の大きさを二倍ほど上回っている。
「完成したのか――」
ゼノンは冷や汗を流しながらも、どこか喜んでいるかのようにも見える。
「この
ザギロスがそう得意気に言うと、ゼノンは両手を挙げて参ったと言い放った。しかし、ほぼ無傷で降参させられたゼノンはどこか安堵したような穏やかな表情だった。一方、エリスは話についていくことができず、怪訝な表情を浮かべている。
エリスは二人に近付き、ザギロスの右手にある
「その危なそうな魔法は?」
「さっき言った通り、宇宙にあるブラックホールの下位互換だ。許容範囲内のものは念じるだけで全て飲み込むことができる。この魔法は俺自身が強くなるためってのはあるが、一番は万が一のときに備えてだ。魔剣ハデスは強力な剣だと聞く。その力が記されている伝説も恐らく事実だ。ここまで状況証拠が揃っているのだからな。と、考えると魔剣ハデスを制御できない可能性がある。ましてや魔神ハデスが復活したとなれば人類滅亡の可能性もある。俺達は何も人類滅亡を望んでいるんじゃない。そうだろ?」
ゼノンとエリスは黙って頷く。
「俺達を捨てた世界の頂点のやり方を更生させるために必要なモノが、魔剣ハデスという圧倒的な抑止力。しかし、扱えきれなければ俺がこの
「ああ――前に言っていた作戦か。なかなかぶっ飛んでいるけど」
エリスはようやく納得したようで、手をポンと叩いた。
「流石だなザギロス。いや――ザギロスさん」
ゼノンは敬意を表してそう呼ぶとザギロスはニッと口角を吊り上げた。
「俺達、四人の目的は同じだ。世界をより良くするためだ」
「ああ」
「そうね」
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