第290話 シリウス号探索5

 シリウス号の探索は順調に終わり、コウ達は外へ出てくる。なんだかんだで3日を費やし、そして今は3日目の夕暮れ時だった。


「なかなか有意義な探索だった。そろそろ夜だな。食事をしながら情報をまとめるか」


「今日は休んで明日きちんと会議をした方がよろしいかと思いますが……」


 ユキが常識的な意見を言ってくるが、その意見が採択されるとは思っていないようだった。


「私は真面目な人間でね。今日できることを明日に延ばさない質なんだよ」


「それは知りませんでした。てっきり延ばせるだけ延ばし、延ばせなくなったら、やらなくていい方法を考える方だと思ってました」


「それもあながち間違いではないがね。今回は分かったことを知りたいという知識欲の方が勝っただけだな。この世界と元の世界の往来ができるかもしれないなど、ワクワクすることではないかね?」


「あくまでも可能性の話ですよ。まだ現段階では荒唐無稽な話ではなくなった、といった程度です」


「それでも、十分な進捗だよ。何せまだ我々はこの世界に来て10年も経っていないのだからな。それでここまで知ることができるとは、先が楽しみじゃないかね。2万年前、ここでは10万年前か、必死に研究して分からなかったことを我々が解明できるかもしれないのだよ。君達も少しは喜び給え」


「喜べったって……比較対象のコンピューターが2万年前の骨董品じゃなあ。分かったからと言って威張れるもんじゃないし、分からなかったら恥ずかしいし、ユキは逆にプレッシャーに感じてるんじゃないか?」


 これまで余り口出ししてこなかったサラがぼそりと呟く。


「プレッシャーは別に感じていませんよ。それに、今晩食事をしながら話すというのは単に公式の場でないということにするためです。きちんとした資料をそろえた後で会議という形式をとると、場合によっては帰還任務が最優先となります。それを避けたいだけですよ。私の推論次第では、しばらく会議も無いでしょうね」


 ユキがため息とともにそう言う。聞いた方のコウは愉快そうだ。


「そういう考え方もあるな。まあ、本当に必要なら行動を起こすがね。その前に心の準備ぐらいさせてくれても良いだろう? それに、酒を飲みながらなら、どんな荒唐無稽なことも受け入れる自信がある。なんなら忘れることも容易い」


 そう言ってコウは、マジックテントを広げる。そして中に入り、それ以上議論することなく、料理をテーブルの上に並べていく。ユキも諦めて、くつろげるように部屋を整えていく。

 メインの食事を終え、軽くナッツ類を摘まみながら、酒を飲みだす。馬鹿話をするには丁度良いくらいのほろ酔い加減になって、コウはユキにシリウス号での探索での探索結果の説明を求めた。


「まだ推測の範囲は出ませんが、結論から言いますとシリウス号は元の世界から転移したというより、こちらの世界の影響を受け引きずり込まれた、というのが正しいと思われます。

 この結論に至った理由はいくつかありますが、もっとも大きいのは私達みたいに膨大なエネルギーを受けたわけではないということです。そして、無慣性航行をするため重力波などを遮断するフィールドを展開していたとは言え、私達のように空間そのものを歪めてはいませんでした。

 無慣性航行は現在も通常ドライブで使われるように、空間的に非常に安定した技術です。それの影響で時空が歪む可能性は非常に低いです。もしそんな事が起きるのなら、これまで数多くの行方不明船が発生していたことでしょう」


「ふむ。それでこちらで起きた現象とは何が有力かな?」


「魔法が有力かと思われます」


「あんな場所で、魔法を使った者が居ると?」


 シリウス号が転移した場所は、自分達の感覚ではこの惑星の目と鼻の先と言え、この星の住人からしたら星の彼方だ。まだ衛星にすら有人飛行をした形跡がないのに、その先にこの星の住人が到達してるとは考えにくかった。


「いえ、人類が魔法を使用したわけではないと思います。距離は離れていますが、約5万光年、7万光年、13万光年離れた所で超新星爆発が起きています。起きた時期はそれぞれ、15万年前、17万年前、23万年前です。重元素が発生するのはこの宇宙でも超新星爆発が基だと思われます。それから推察すると大量のマナも放出されたに違いありません」


「そして、マナが仮に光速で拡散したのなら、10万年前に丁度この星系でぶつかったと」


「はい。そして魔法というのは意志の力によってマナを変質させ利用するものですが、逆にマナがその条件になったならば発動するということもあります。大雑把な例えになりますが、発火は物質が発火点になったら燃えるということにたとえられます。それに至るまでの経緯は関係ありません。火を近づけても、エネルギーを照射し熱を上げても、結果として物体の発火点に達すれば発火します。

 それと同じことがマナにも言えます。恐らく魔法的なダンジョンというのは最初そうやってできたのではないでしょうか。そして多くの者がそういったダンジョンができると認識したことにより、マナがその状態になりやすくなった。いわば人類全体で大規模魔法を使いダンジョンを作っているわけです。この仮説ですと、古い、つまり人間が知恵を持つ前に、魔法的なダンジョンが作成されていないことの説明が付きます」


「それで調査のため、この惑星を一時離脱したいわけか」


 ユキはこの惑星の一時離脱を申請している。10万光年離れた位置に赴き、痕跡を探ろうというわけだ。単艦でのワープは大型船でなくてはできない。長期間の調査のため、調査船をおいてくるにせよ、母艦であるユキカゼが動かなくてはならない。そして単体行動はリスク軽減のため避けた方が無難だ。ましてや、単艦での遠隔指示行動などもってのほかだ。やるなら前と同じく自分の指示下での3隻同時行動が望ましい。


 調査船をおいてくるだけの簡単な仕事。だが、調査の精度を上げるためにはある程度多くのポイントに調査船をおく必要があるだろう。少なくとも半年以上の時間が掛かるだろう。

 いってみれば、たった数ヶ月である。ただその期間さえ苦痛に思えるほど、コウはどっぷりとこの生活に浸りきっていた。

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