第257話 2個目のデータキューブ
少々予想外の事が起きたが、無事交渉も終わりコウ達は気分よく帰途に就く。時間が惜しいというほどではなかったが、取り立てて優先すべき用も無いので、そのままレファレスト王へ報告に向かう。
城に入ると、宰相のバナトス公爵が出迎え、例の密談の部屋へと案内してくれる。そして国王の横に座る。今回は同席するようだ。
「そなたらの顔を見るに交渉はうまくいったようだな」
レファレスト王はそう切り出す。
「交渉と言うほどのことはしていませんけどね。基本的に国王陛下の提案を飲む形ですんなりと纏まりましたよ。随分と気を使った内容だとは思いましたが、あの王妃を警戒してですかね」
コウは砕けた態度で尋ねる。バナトスももう咎めはしない。
「勿論それもあるが、ただ単に出せる手札で最上のものを示したにすぎぬよ。リンド王国併合にはそれだけの価値があるからな」
「あの条件なら特に自分達でなくとも良かったのでは?」
最後の一押しでマジックアイテムを使ったが、あれは本当に最後の一押しだった。ウォルガン王が条件を拒絶していたら、流石に交渉は決裂していただろう。
「かも知れぬが、使える者を使わない理由にはなるまい。我が国の他の使者が赴き、拳で勝負など言われたらすごすごと帰ってきかねない。そうでなくても飲み比べで勝負など言いそうだ。その点そなたらなら安心だ」
過去の経験から言って、それはさすがに無い、とは言えなかった。
「それでは約束の品を頂けますかね」
「勿論だとも」
そう言ってレファレスト王は宝石があしらわれた箱の中からデータキューブを取り出し、コウに手渡す。
「感謝します。ところでこのようなものは後幾つあるのですか?」
コウとしてはあればあるだけ欲しい。その為なら少々の無茶はするつもりだった。
「残念ながらもうないな。そなたらに対する有益な報酬となると分かった以上、手を尽くして探してはいるのだが、なかなか見つからぬ。情勢が落ち着けば捜索範囲も広げられるが、現状ではそれもできぬ。せめて発見場所ぐらいは、とは思っているのだがな」
レファレスト王は心底残念そうに話す。
「いえ、そうしていただけるだけで十分です」
コウはそう感謝の意を述べる。それから暫く歓談をして、城を後にした。
宿に帰ると早速データキューブの解析を行う。データの記録形式は同じだった。つまりは同じ機械とは言わないまでも、同型、若しくは互換機で記録されたということだ。
「で、どうだったかね?」
まるで期待していないというと嘘になるが、二つ目で有益な情報に当たるほど運が良いと思っているわけでもない。一つ目でもかなり有益だったのだ。今度は音楽データかな、というぐらいに考えていた。
「これはかなり重要度の高い情報になるかと。中のデータはここに転移した宇宙船の船体データです」
「船体データ? 宇宙開拓時代の船体の設計図がそこまで有益かね?」
宇宙船の設計図など、時間がある時に博物館に行ったら眺めるかもしれないが、逆に言えばその程度のものだ。失われた技術があるならともかく、それは記録技術が未熟だった、星間航行どころか星系内航行すら困難だった時代の話だ。あまり価値がある物のようには思えなかった。
「いえ。設計図ではありません。船体データです。設計図も勿論含まれますが、修理記録、受けたダメージの記録、故障記録、その他船体に関するデータが記録されています。要約すれば外部からどんな影響を受けてこの世界に転移させられたのか、分かるかもしれないということです。ただ、私は解析用の汎用プログラムしか持ち合わせていませんので、研究用AIと違い時間が掛かります」
「ほう。それは素晴らしい。なに、時間が掛かるのは仕方がない。研究船ではないのだから。船がこの惑星に着陸したことは間違いないのだろう。その座標データもあるのではないかね?」
「はい。この惑星で魔の大陸と呼ばれている大陸です。ただ初期調査の時に見つけることができませんでしたので、入念に隠されているか、直ぐには分からないほど、朽ちてしまったかのどちらかでしょう」
「幾ら10万年たったといっても、宇宙船がそこまで朽ちることなどあるのかね?」
コウの知識として宇宙船は頑丈なものだ。それこそデーターキューブなどよりずっと。それがそう簡単に観測できないほど朽ちるものだろうかと考えてしまう。
「保持するだけのエネルギー及びテクノロジーが無くなれば案外と脆いものですよ。私の本体ですら環境によっては1万年も持たないでしょう。ましてや宇宙開拓時代の船など一見しては土と同化していても不思議ではありません。長期保存を目的として作られた記録媒体とは違います。コストの面もありますからね。ただ初期調査の段階では以前にも宇宙船が転移していたとは考えていませんでしたので、調査不足の可能性もあります」
「ふむ。とりあえずは魔の大陸に行って調査をするのが先決かな」
現地調査を行えば、発見できることも多いだろう。コウはそう考える。
「コウが種の勢力圏の争いをどうするかによります。魔族としては完全に人間からの侵攻と捉えるでしょう。悠長に調査をするような自由が与えられるとは思えません。完全に我々の姿を魔族から隠せるかどうかも現時点では不明です。事が国ではなく種の争いであるため、話し合いで解決するのはかなり難しいかと思います。コウが魔族を滅ぼすと決められたのなら大丈夫ですが」
ユキからの忠告に、コウは暫く考える。この世界に転移されたころと違い、世界そのものに愛着がわいていた。無暗に種族を絶滅させるのをためらうほどには。
「その辺りは力ずくで、と言いたいところだが、どうせ魔族の方が攻めてきてるのだ。ここは人間に頑張ってもらって有利な講和をするなり、攻め滅ぼすなりしてもらうとしよう」
あくまで躊躇うのは自分が単独で種族を滅ぼすことである。どの道人間の味方をすると決めていたのだ、目的のために利用することに躊躇いは無かった。
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