第256話 リンド王国重鎮の反応
次の日早速リューミナ王国への重臣達と、今後の対応の会議が開かれる。勿論昨日の今日のことなので、城勤めをしている者達のみでの会議だ。自分達はオブザーバーとしての参加だ。厳しい目を向けられるかと思いきや、意外とこちらへの非難は無かった。寧ろこうなる前に動かなかった国王や、その行動を良しとした大臣たちに向けられる目の方がよほど厳しい。
「今更ながらとは思いますが、やはりリューミナ王国に援助を求めたのは間違いだったのでは?」
「ではあのルカーナ王国に援助を求めていた方がましと言うのか?」
「せめてエスサミネ辺境伯がヴィレッツァ王国を滅ぼす前に、リューミナ王国に対して共同戦線を張れるよう、ヴィレッツァ王国側ではなく、ルカーナ王国統一を手助けすべきではなかったのではないですかな?」
「そう言うおぬしはエスサミネ辺境伯の動きを掴んでいたのか。掴んでいたらなぜ教えなかったんじゃ?」
今となっては併合は仕方が無いとしても、もう少しどうにかならなかったのか、という意見が多い。現状を把握している大臣が多いのに正直驚く。不思議に思い近くに立っている衛兵に尋ねてみる。
「皆さんは実質生活が変わらないとはいえ、併合されること自体は受け入れているようですね。もう少し徹底抗戦を言い出す人がいてもおかしくないと思ったのですが……」
「ああ、それはコウ殿達が救助用の最上級のマジックアイテムを使用しましたからね。あれは国家の存亡にかかわる時、若しくは国家の総力を挙げて何かを行う時に使われるものです。たとえ現国王陛下であろうと、よほどのことが無い限り要請を拒否できません。これはリンド王国が建国されて以来厳格に守られてきた絶対的なものです。ましてや、国王陛下が拒否しなかった以上、大臣に拒否ができようもありません。
もっとも今のように意見を言うことまでは禁止されてはいませんが」
コウが最初に思ったことは、なんてものを簡単に渡すんだ、ということだった。
(コウは知っていてこの褒美を要求したのですか?)
衛兵の説明を聞いてユキが思考通信をしてくる。
(いや、知らなかった。というかそんな御大層なものを渡されてるとは思わなかった。常識から言ってあり得ないだろう。私はただ現地人の協力者が欲しい時に備えて欲しがっただけだ)
(では、当初の予定通り現地の協力を得られたということですね)
(ふむ。交渉の材料の一つにはなるとは思っていたが、決定打になるとは予想外だったな)
(へぇ。コウの予想外のことをしてくるなんて。ウォルガン王もなかなかやるな)
サラが感心したように通信してくる。
(何を言っている、この世界に来てから予想外なことばかりだよ。常識がここまで違うとはな。だが結果的に良い方に行っているから良しとしよう。大体、併合の条件としてはあれは破格の条件だ。まあ、国王が侯爵になるわけで、他の者はもっと低い地位になるわけだから、心情的に文句を言いたくなる気持ちも分からなくはないがね)
白熱した議論に聞こえつつも、その実単なる不満のぶつけ合いにコウ達が飽きたころ、王妃が立ち上がる。
「皆様のお気持ちはよく理解しました。確かにこの決断にご不満もあるでしょう。ですがこれは陛下とわたくしがよく考えた上出した結論です。陛下は皆様のことを憂いておられました。それを、押し留めたのはわたくしです。陛下に苦情を言われるのであれば、まず
髭面の厳つい男たちの前で、静かにたたずむその姿は、容姿の若々しさと小柄な体格もあり、神に祈りをささげる敬虔な少女のように見える。
王妃がそう言った途端、でしゃばるな、などの怒声が上がるかと思ったが、先ほどまで言い合っていた重鎮たちの目が泳ぎ、誰も王妃の方を見ようとしない。
「どうしたのです。
そう言って王妃は微笑む。
猛獣。コウが思った感想はそうだった。姿は変わらないながら、最早、猛獣が哀れな子ネズミの群れを探っているようにしか見えない。
「い、いえ、王妃様がご納得されているのであれば……」
「そ、そうですな。国王陛下の独断かと思い心配したまでのことで、決して異論を唱えるつもりは……」
「わ、儂は最初からこの案に賛成だったぞ。情勢から考えて降るのは仕方が無い事。それを思えば最上の条件だと思っておりましたわい」
会議場の皆がそれぞれ賛成の言葉を言い始める。
「皆様、ありがとうございます。差し出口を挟んでしまい申し訳ありませんでした」
そう言って再び、王妃はにっこりとほほ笑み、席に座る。横に座る国王はその姿を見て誇らしそうだ。こういった場合自分の権威が損なわれたと、普通不機嫌になるのではなかろうか、訳が分からない。
(聞き忘れていたのだが、リンド王国の直系は王妃の方で、国王は実は王配なのか?)
(いえ、間違いなく直系はウォルガン王です。王妃様は公爵家のご令嬢ですね。但し養子ですが。ああ、理由が分かりました彼女は元Sランク冒険者です)
Sランク冒険者、それは冒険者のランクと言うより、桁外れの強さを持つ冒険者に与えられる称号だ。クレシナ嬢ですらあの強さだったのだ。なるほど王妃の機嫌を損ねて、抵抗戦などやられては、リューミナ王国としてたまったものではないだろう。厚遇はそういった理由か、とコウは納得したのであった。
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