第244話 冒険者ギルドへの訪問

 次の日早速冒険者ギルドに顔を出すとルルが元気よく挨拶をしてくる。


「お帰りなさいませ。噂は色々聞いてますよ。各地で大活躍だったみたいですね」


「成り行きでそうなったのも多いけどね。あ、それとこれお土産」


 そう言って、コウは各地のお菓子やフルーツなどを取り出す。


「わあ。ありがとうございます」


 そう言ってルルが目を輝かせる。コウが渡したものは、高給取りの職業に入る受付嬢とて、なかなか食べられないものばかりだった。


「レアナは今日は休みなのかな?」


 コウはちょっと残念に思いながら尋ねる。久し振りに顔を見たいと思ったのだが、居ないのなら仕方がない。


「レアナさんは寿退職されましたよ。お相手は“緋色の湖畔亭”のロブさんの仲間だったケルンさんという方です。Aランクの冒険者だった方です。秘密でもなんでもないので言いますけど、実はコウさんを狙ってたみたいです。でも、コウさん達が暫く帰ってこないと分かって諦めたそうですよ」


 なるほど、時々首筋に寒気を感じていたのは狙われていたからか、と妙に納得する。命を狙われていたわけではないとは言え、狙われていたことには変わりない。

 ただこれで良かったと思う。レアナには好感を抱いているが、レアナの希望に自分は応えることはできない。正確にはできないことは無いが、やる気がない。確かにレアナは魅力的な女性だったが、姿が似ているだけの異種族である。たとえ自分が生身の身体だったとしても、遺伝子操作をしない限り子供は生まれない。それに生身でこんな危険な惑星に降りる気もないし、逆にレアナを自分の艦に乗せる気もない。そもそも他国の民間人を私的な理由で乗せるなど、軍規違反も甚だしい。


「それはめでたいな。私相手では多分レアナの想像しているような生活はできなかっただろうから、良縁があって何よりだ。祝いの品でも贈りたいが、レアナか若しくはそのケルンという男性は嫌がるかな?」


「ケルンさんはそういう方ではないですよ。コウさんのお祝いの品なら素直に喜ばれると思います」


「そうか。ならば、色々世話にもなったことだし、ちゃんとした物を贈ろう」


 ケルンという男性がAランクだったのなら少々の物では喜ばないかもしれない。何が良いだろうかと考えていると、ルルから注意が入る。


「あくまで常識の範囲内でお願いしますね。コウさん達は少々常識から外れていることがありますから……幾らAランクパーティーからの贈り物と言っても、高価な宝石やマジックアイテムや希少なモンスターの素材なんかを贈ったらだめですよ。って、何驚いた顔をしてるんですか! 本当に贈るつもりだったんですか!」


 ルルがコウの表情を見て声を荒らげる。正しくコウはそういった物を贈ろうとしていた。


「ならばどういうものが良いのだろうか?」


「普通は珍しいお菓子や食材で十分ですよ。お酒なんかも喜ばれるかもしれません」


 本当にささやかなものだ。ただ自分に置き換えてみたら、昔ちょっと世話をした知人から高価な物を贈られてきたら確かに困るに違いない、と思い納得する。

 せっかくだからセイレーンのエールの改良版を1樽贈ることにする。何せあれは原価はともかく、希少価値は高いし、何より美味い。


「わかった。ところで、本来の用件なんだが、なるべく早くギルドに顔を出してほしいと頼まれてきたんだけど、ギルドマスターは居るのかな?」


「ええ、いらっしゃいますよ。ご案内しますね」


 そう言ってギルドマスターの執務室へと案内してくれる。執務室の中に入るとオーロラがいた。周りが変わっていく中、オーロラは以前あった時と全く変わっていないように見える。


「久し振りね。噂は色々流れてきてたわ。それはもう信じられないような話が色々と……最近だとユマール騎馬王国に100階層のダンジョンを作ったそうね。それも作りだしたら3日ほどで……っと、ごめんなさいね。こんなことを言うつもりで呼んだんじゃないのだけど、あなた達の顔を見たら、つい口が滑ってしまったわ」


 オーロラはちょっと疲れたように軽くため息をつく。コウとしても、目立っている自覚はあるので、オーロラの言葉に文句を言うつもりはない。恐らく問い合わせが多く来ていたのだろう。通常の業務と別の業務をしなければならないとなると、当然負担は増す。ワーカホリックでもない限り、顔を見たら嫌みの一つでも言いたくなるのは理解できる。但し理解できたからと言って、それに賛同するかどうかは別問題だが。


「呼んだのは知らせたいことが幾つかあるからなの。ジクスに入るとき大きな建物ができてたでしょう。解体用の新しい倉庫を作る予算の許可が信じられない程早く通ってね。あなた方が旅に出た後直ぐに着工できたの。やはり魔石の現物があると違うわね。しかも冷蔵装置付きの最新設備よ。これでレッドドラゴンの解体も問題なくできるわ。

 それと王室御用達のワインも預かっているの。新酒じゃなくて20年寝かせた物よ。葡萄畑は増やしたみたいだけど、こればかりは暫くは量は増えないわね。一応新酒も少しは預かっているけれど、余り味は期待しない方が良いと思うわ。

 後は預かっていたレッドドラゴンとバンパイアロードの魔石を返すわね。自分が言い出して預かったものだけど、ここまで守るのが大変だとはちょっと予想外だったわ。国王陛下が全面的に協力してくれたのが救いだったけど。代わりに随分借りを作ってしまったわ……まあ、これはあなた達には関係の無い話だわね」


 そう言ってオーロラは魔石を返してくる。コウが受け取るとオーロラは肩の荷が下りたように、ほっとした表情を見せる。


「あの国王陛下が何か見返りを要求するとは思えませんがね」


「ただより高いものは無いのよ」


 オーロラの言葉で、この世界でも元の世界と同じ考えがあることに少し驚く。


「それはそれとして、約束通り、魔石から得た情報は教えてもらえるんですよね」


 コウは念を押す。コウにとっては魔石そのものよりも、情報の方がはるかに価値のあるものだったからだ。


「勿論、それは後でちゃんと話すわ。でもまずレッドドラゴンを解体場に出してもらえないかしら。待っている者が大勢いるの」


 コウとしては、情報を早く知りたいという気持ちはあったが、流石にレッドドラゴンを亜空間から取り出す暇もないほど急いでるわけじゃない。コウ達はオーロラの後に従い新しい解体場へと足を進める。

 そこには関係者だけとはいえ、大勢の人が既に待機していた。コウがレッドドラゴンの死体を取り出すと、見たことが無かった者に加え、前に見た者からもどよめきが起きる。


「さて、目くらましを用意しなければいけない情報ってなんなんですかね」


 コウの言葉に、オーロラは少し驚いた顔をする。


「やっぱり馬鹿じゃないわね……落ち着いた場所で話しましょう」


 そう言って、オーロラは執務室の奥にある、個室へとコウ達を招いた。



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