第200話 篭絡
コウ達は店の一番奥にあるVIPルームへと通される。この世界でこの手の店に来たことは初めてだが、内装といい、出てくるお酒の種類といい、この都市のレベルにある店としてはかなり豪華なように感じる。
「どうぞお座りになって。直ぐに食べ物も用意しますわ」
道路で呼び込みをやっていた時とは打って変わって、きびきびと女性は近くの女の子に指示を出している。どうやら店の中ではかなり高い地位にいるらしい。
コウ達を部屋の中に案内し、指示を出すとアムネアはフーっと息を吐く。
(男の子は勿論、女の子も可愛いわ。あのお淑やかさと凛々しさが合わさった黒い瞳の子。頼りがいがありそうながら、女性らしさも兼ね備えているボーイッシュなエメラルドグリーンの瞳の子、まるで人形をそのまま大きくしたようなルビーの瞳の子。全員私のものにならないかしら)
アムネアは微笑みを向けられたサラとマリーの間に座る。最初はコウの横にと考えていたのだが、コウの両側には既にユキとサラが座っていたために無理だった。一瞬、常識のない男と思ったが、自分に向けられたサラの笑顔にどうでもよくなる。
「先ずは自己紹介でもしようぜ。あたいはサラ。このパーティーで前衛をやってるんだ。で、こっちの顔はまあいいけど不愛想なのがコウ。このパーティーの後衛でリーダーさ。一見頼りないように思えるけど、いざという時は結構頼りになるんだぜ。それからマリー。あたいとおんなじ前衛で、防御に関しては天下一品さ。最後はユキ。中衛でこのパーティーの纏め役ってところかな」
「私の名前はアムネアよ。ここの店の店長をやってるの。今日はたまたま表に出て見たんだけど、あなた達のようなお客に会うことができてラッキーだったわ」
そう言ってアムネアはサラによりかかる。上目づかいでサラを見る顔は、ほんのり上気しており、大抵の男なら一発で虜になるほどの魅力がある。
「あたい達の事知っていたのかい?」
「ええ、だって有名だもの。この辺りの料理を買いあさってるんでしょう。お客様の間で話題になってたもの。それに聞いた通りの顔。見間違えようがないわ」
「えっ、そうなのかい。でも、ぼったくられちゃ敵わないなあ。特に料理を頼んだわけでもないし……」
そう言って、サラはちょっと困ったような顔をする。
「こちらで、勝手に頼んだんだもの。最初の料理はサービスよ。あなた達に是非食べてもらいたかったの。お酒は有料だけど。ここにあるものが嫌なら、別の物を持ってくるわ」
「うーん。食事は良いけど、お酒はマリーどうする?」
「そうねえ。私アクアビットの高級酒を飲んでみたいんですの。ありますかしら?」
「勿論あるわ。一番高級なものだと1本50銀貨よ」
基本的にアクアビットはこの地方では安い酒の部類に入るが、それでも高いものは高かった。
「では、これで、5本頼む。あなたの分まで入れて1人1本だ。釣りはチップとして取っておいてくれ」
コウはそう言って金貨3枚を懐から出す。アムネアはちょっと驚いた顔をするが、直ぐに他の女性を呼んでお酒を取りに行かせる。
「あなた達ってすごいのね。3金貨を無造作に取り出すなんて、お貴族様でもめったにいないわ」
「貴族様を接待したことがあるんだ?」
「そう何度もというわけじゃないけど……。私の店はこの街でも一番だから」
「それはすごいですわ。街で一番のお店を持っているなんて尊敬しますわ」
「えっ、あなたみたいなお姫様みたいな人に言われると、照れちゃうわ」
段々と、アムネアが持ち上げる方から持ち上げられる方になっていく……。更にお酒が運ばれてくると、最初はちびちび飲んでいたアムネアだが、二人の飲むペースに惑わされたのか、段々と飲むペースが速くなっていく。
何を思ったのか知らないが、アムネア1人に対して、こちらは3人である。しかもどう見ても、会話術からしてAI達の方が洗練されている。圧倒的戦力差だ。ユキは形勢が明らかになってきたので、わざわざ戦線に投入しないでも良さそうだ。
「おねーさん、その若さでお店を持つようになれるなんて、すごいなあ。あたい女性らしさっていうの、そういうのが無くてさあ。見るからにがさつそうだろう。おねーさんみたいになる秘訣を教えてほしいなあ」
「秘訣というほどのものじゃないわ。ちょっとしたパトロンがいるのよ」
「そのパトロンさんて素敵な方なんですの? 羨ましいですわ」
「あーもう、そんな目で見てくるなんて、可愛いわ。あなたに特別に教えてあげる。私、この店の他に別の仕事もしているのよ。詳しくは言えないけど、この店を持てたのはその仕事関係なの」
「わー、出来る女姓なんですのね」
段々と酔いが回ってきたせいもあるのであろう、口が軽くなっている。
「圧倒的じゃないか我が軍は」
コウはもうこちらの声が聞こえなくなったであろう、3人を横目に、ユキに向かって呟く。
「そもそも軍事行動ではありませんが……」
「なに、言ってみたかっただけだ」
そう言ってコウは、ちびちびとアクアビットを飲む。最高級のものだけあって、苦みが少なくすっと飲める。雑味が無いので、料理と一緒に飲む分には申し分がない。といっても40度以上あるお酒なので、あくまでちびちびとしか飲まなかったが。
教団本部で円卓を囲み会議が行われている。席は既に三つの空きがある。テーブルの上には一枚の手紙が置かれている。
「自分探しの旅に出ます。探さないでください。だ、そうだ」
「アムネアさんも口ほどにもありませんでしたね。もう殺してしまいましょう。私がやりますよ。どうせアムネアさんもデモインも殺すんでしょう。ついでですよ」
若い声の人物は軽くそう答える。
「ふむ。そうそう上手くいくとは思えんが」
老人がしわがれた声で答える。
「正面から戦わなければいいだけです。人間である以上どこかで隙がありますよ。眠っている時に襲えば、また食事に毒を混ぜることができれば、どんな強者だろうとたやすく死んでしまうものです。朗報をお待ちください」
そう言って性別不詳の者は席を立ち出ていった。眠らず、毒も効かない者が居るとは、この世界の住人の想像の範囲外であった。
後書き
なにぶん転職したてでバタバタしていて気付くのが遅れたのですが、この作品が応募していた、ドラゴンノベルズ新世代ファンタジー小説の中間結果に残りました。読んで頂いてる皆様、応援してくださってる皆様本当に有難うございます。近況ノートにも書きましたが、そこまで読まない方も多いと思いますのでこの場でもお礼を言わせていただきたいと思います。重ね重ね有難うございました。
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