第199話 呼び込み
「いったいどういうことなのか説明してもらおうかしら?」
豪華なソファーの上であでやかな女性が半分寝そべりながら、5人の女性に問いかけている。円卓の場でアムネアと呼ばれた女性だった。仕草の一つ一つに色気が宿っている。アムネアの前に立っている女性は、コウ達に声を掛けてきた女性だった。
「も、申し訳ありません。対象の周りにいる女性があまりにも美しくて……。どんなことをやっても絶対敵わないと感じてしまいました……」
「私も同じです。興味を抱かせる方法がまるで頭に浮かびませんでした……」
女性達は口々にそう言う。女性たちがアムネアから命じられたのは、コウをアムネアの息がかかった店に連れ込み、情報を聞き出すことだった。それが情報を聞き出すどころか、連れてくることさえできなかったのである。
「し、しかし、一つ有益な情報が。彼らは食料品、というか料理ですがそれを大量に購入しているそうです。それもあり2週間ほどはこの街に滞在するそうです。店に来た客がその話で盛り上がっていました」
おずおずと一人の女性が話す。
「大量の食糧ね。小耳には挟んだことがあるけど、本当だったということね。なぜそんなことをするのかしら。リューミナ王国からそういう依頼でも受けているのかしらね」
「申し訳ありません。そこまでは分かりません」
「役に立たないこと……」
そう言って、アムネアはソファーの上に起き上がり座り直すと、前にあるテーブルの上に置いてあった酒をグラスに注ぎ飲み始める。グラスを持つ手つき、口に含む仕草、飲んだ時の喉の動き、全てが同じ女性でもハッとするように艶めかしい。
「まあ、いいわ。今回は許してあげる。直接顔も見たいことだし、今夜は私も出るわ。店にいるから近づいてきたら呼んでちょうだい」
そうアムネアが言うと、女性たちはほっとした顔をし、部屋から出ていった。後にはアムネアだけが残される。
「あの子たちは、私の店でも売れっ子なのにね。あそこまで自信を無くさせるなんて……。フフフ。どんな子たちなのかしらね」
アムネアは楽しそうに呟いた。
次の日の早朝、コウ達は朝市に来ていた。ここは珍しく商人や仲買人とかでなく、一般人でも入れると聞いてやってきたのだ。ただ、一般向けの食材と業者向けの食材は分けてある店が多いそうだが、それでも普通に店で買うよりは安い。欠点といえば売るのが小さなものだったら箱単位、大きなものだったら、匹単位で売っていることだろうか。家でパーティーでもしない限り、一般家庭では持て余す量だ。逆に言えばそういった集まりがある家はここで買った方が新鮮で安い。また保存食になる加工品も売っているため、冒険者も立ち寄るらしい。実際、明らかに一般人や冒険者と思われる客の姿もちらほら見受けられる。
「いらっしゃい! 安いよ、安いよ!」
威勢のいい声があちらこちらから聞こえる。ふとユキが足を止める。目の前には丸々と太ったブラが並んでいる。この季節に採れるのは寒ブラといって特に美味しいらしい。
「お客さん。お目が高いね。今朝のはここ最近で一番の物さ。だけど、ブラは切り売りできないんだよ。一匹単位で買ってもらわなきゃならない。後、脂がのってるから新鮮なうちに食べるのは良いんだけど、保存には向かないよ。それよりターモンなんかどうだい? 新鮮なうちに生で食べても良いし、燻製にしても美味いよ」
「いえ、自分達は収納持ちなんで、保存は大丈夫なんですよ。なので、丸々買っても大丈夫です」
「へえ、収納持ちか、会ったのは何年ぶりだろうかね。それなら、店の物は好きなだけ買いな。自慢じゃないが、他の店でこれだけのものは中々揃えられないぜ」
そう言って店長は胸を張る。ユキに目配せをすると頷いてくる。どうやら本当らしい。
「分かりました。では全部お願いします」
「へ?」
威勢の良かった店長が間抜けな返事をする。
「ここにあるもの全部です。なんなら倉庫にあるものも全部ですかね」
店長はこんな注文は受けたことが無かったのか、ぽかんとしている。
「お金はちゃんとありますよ」
そう言って金貨を数枚並べると、店長は急いで奥の倉庫からあるだけ持ってこい、と店員に声を掛けるのであった。
昨日とは違った店で夕食を取り、宿へと帰ろうとしていると、昨日と同じくこちらを観察している視線を感じる。この街は都市と言っても、ジクスほど大きくはないため、夕食を食べる所と、所謂歓楽街が隣接している。わざわざ歓楽街を避けて通るのも面倒くさいと思っていたのだが、毎回このような視線を受けるのなら考えものだ。
そう思って歩いていると、呼び込みの女性の中でもひと際あでやかな女性が声を掛けてくる。
「あのー。少しで良いですから、私の店で飲んでいきませんか? 誠心誠意サービスいたします。お願いします」
この世界の新人のような呼び込みをしているのは、アムネアである。アムネアはコウ達のパーティーを見た瞬間、ハートを撃ち抜かれていた。
(なんてかわいい子たちなのかしら。ああ、あの子たちのすべてを手に入れたい)
まるで、初恋をした乙女のような感情を抱いていた。こんなことは初めてである。教団などどうでも良い、アムネアはそう思った。
「分かりました。そこまで言われるのであればお店に行きましょう」
珍しくコウが店に行くことを了承する。
(珍しいですね。よろしいんですか?)
ユキがそう思考通信で尋ねてくる。
(いくらなんでも、こう立て続けに呼び込みがあるのはおかしい。何が目的か懐に入って見ようと思う。君たちには全力でサポートしてもらいたい)
(((了解)))
AI達の了承の下、コウ達はアムネアの経営する店へと入っていった。
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