第194話 教団幹部
「それでは、早速調査をするか。隠された場所でも、エメラルドシティで試した方法で分かるんだろう?」
「恐らく。ただ範囲が広いので、アバターでは時間が掛かります。探査ユニットを飛ばす必要があります」
「それは仕方がないな。予定ではどれぐらいの時間が必要かね?」
「7時間ほどです。明日の朝までには完了します」
コウの質問に次々とユキが答えていく。
「そうか。では、後は晩飯でも食うとしよう。酒もなんか珍しいのがあるんだろう?」
「そうですね。芋を主原料としたお酒がありますよ」
「それは楽しみですわ。それはそれとして、マンモスビーの蜂蜜酒。わたくし達より、犯罪者の方に先に飲ませるなんてあんまりですわ」
マリーがコウに抗議する。コウとしても確かにちょっと悪いとは思っていた。
「確かにあれはすまなかったな。だが、普通の酒ではあの場合上手くはいかなかっただろうし、今から大量に作れる蜂蜜酒と違って、他の酒は貴重だからな」
他の酒は職人によって作られたものである。本来の値段はともかくとして、大量にこれから作ることができるマンモスビーの蜂蜜酒が一番希少価値が低かったのだ。
「そう言われると仕方ありませんわね。では、今晩の食事処はわたくしに決めさせてくださいませ」
マリーに決めさせると、どうしても酒が主体になるのだが、飯がまずいわけでもない。素直にコウは了承した。
コウ達がニルナの街で楽しく過ごしている頃。ポミリワント山脈の地下にある、空間の中の1室に、数人の男女が集まっていた。その部屋には豪華な円卓と、それに見合った椅子があり、そこに人が円卓を囲み座っていた。席は一つだけ空席になっている。座っている者は皆ローブを目深にかぶっており、一見すると男か女か分からないものもいた。
部屋の中が薄暗いせいもあるのだろうが、陰気で重々しい雰囲気が漂っている。
「ニルナの支部が壊滅したそうだ。デモインも捕まってる」
その中の1人がやにわに口を開く。外からは性別が分からないが、声からすると男のようだ。
「どうして正体がバレたの? ニルナの街ではそんなに派手な行動はしてなかったはずよ」
そう返した人物は、ローブの上からでもはっきりと胸が出ていることが分かる女性だった。
「ニルナの街で布教が上手くいかず、更にその原因となる男が執政官になる可能性が高いとなって、焦って妨害工作をしたようだ」
最初に話した男が答える。
「それで捕まるとは、デモインも愚かな奴よ。所詮は庭師の息子は庭師がお似合いだったということか」
そう言ったのは、しわがれた声で年老いた男性だと思われる。ローブから僅かに出ている手も枯れ枝のようだ。
「そうとも言えませんよ。デモインを捕まえたのは“幸運の羽”というAランクパーティーだとか」
そう答えたのは、声だけでは男か女か分からない中性的な若い人物だった。外見から見てもどちらかは分からない。
「“幸運の羽”? ここ最近急に有名になったパーティーか。海賊の大艦隊を一人で沈めたとか、伝説のレッドドラゴンやヴァンパイアロードを倒したなど、どこまで本当か分からん眉唾物の話ばかりを聞くパーティーだな」
そう言ったのは、ローブから丸太のような太い腕を出した男だった。身長も他の者と比べて飛びぬけて高い。他の者が平均的な身長ならば、この男は立ち上がれば2mを軽く超えるだろう。
「話半分としても、Aランクのパーティーですよ。しかも全員がAランクのプラチナランクパーティー。デモイン一人では荷が勝ちすぎたのではないでしょうか」
先ほどの中性的な声の主がそう答える。
「確かにな。この場所もばれると思うか?」
「ひひひ。それはない。我らの神への“誓約”の力は絶対だ。いかなる魔法を使ったとて、我らの秘密を覗くことは叶わぬ。拷問したとしても話す前に死ぬ。それこそ自分の意思でしゃべらない限りはな」
老人が気味の悪い笑い声を上げてそう答える。
「私もそう思いますよ。現にAランクの冒険者であるネーリーが1年以上も自分達の本拠地を探しているようですが、まだ見つけられていませんからね。ここは天然の洞窟を埋めて、完全に外界から隔離した空間。たとえ場所が分かったとしても転移の魔法が無ければ、来ることはできず、その転移の魔法すら、決められた魔法陣同士でなくては発動しないよう制限された空間ですからね。ましてやAランクと言えども、なったばかりの者達に見つけられるはずがありません」
中性的な声の主は自信ありげに老人に賛同する。
「それにしてもどうするの? 私達の支部をつぶしたパーティーをこのままにしておく?」
声に妖艶さをにじませて女性が他の者に問いかける。
「荒事ならまずは俺に任せてもらおうか。部下を連れていくぞ」
「私は構わないわよ。他の皆は?」
妖艶な女性の声に、他の者は頷く。
「では決まりだな」
そう言うと男は立ち上がり部屋から出ていった。
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