第193話 尋問
シェトリナと別れてコウ達は宿へと帰る。コウは部屋に帰るなり、どっかりといつもより乱暴にソファーに腰を降ろす。
「結果的には、悪い方向に行ってはいないとはいえ、忌々しいことだ」
ソファーに座るなりコウはそう呟く。
「こればかりは仕方が無いかと。それでどうされますか?」
「そうだな。邪教と言われていた教団の性質にもよるが、犯罪集団なら殲滅する。無論、現地政府に確認は取るが」
宗教というのは難しい。邪教と呼ばれる宗教が全部悪いことをしていると決まっているわけではない。迫害に対する抵抗という場合もある。信じるだけなら、神だろうと悪魔だろうとスパゲッティーだろうと自由だ。
「一概に犯罪集団とは言えないようですね。終末思想と選民思想をミックスしたような宗教です。簡単に言えば、終末の時に生き残るのは信者だけ。そして世界が滅びた後で、信徒に世界が委ねられ、新たなる作り変えられた世界で、信徒は神の使徒として支配階級となる。
大まかに説明すればこんな感じでしょうか。信者は現状に不満を持つ下層階級の者が殆どですね。ただ一部上流階級にも信者がいるようです。尤も、上流階級に関しては、信者というよりは、教団を利用していると言った方が良いのでしょうか。今度の事みたいに犯罪に手を染めているところもありますから。
特徴と言えば神託の巫女というものが現れて、次々と予言を的中させて、ここ10年で大幅に信徒を増やしていることぐらいでしょうか」
「つまらないな。ただの新興宗教か」
犯罪に関しては、自分たちが関わったのならともかく、基本的にはその国の治安当局がどうにかする問題だろう。殲滅させようとしていた意欲が薄れていく。
「ただ、本部の一部の者達は本当に悪魔、レノイア教の信者からすれば神の使徒を呼び出せるみたいですよ。オーロラさんの召喚はマナを物質化した物でしたが、これは違うかもしれません。少し興味がありませんか?」
「それは確かに。どこから呼び出しているのか気になるな。もし別世界から呼び出しているのなら、元の世界に帰るヒントがあるのかもしれない」
コウはレノイア教に興味が出てくる。
「じゃあ、次はその宗教の本拠地探しをするんだ。当てはあるのか? データベースに残っていた記録では分からなかったんだろう?」
サラがユキに尋ねる。
「そうですね。教団の本部は極一部の幹部と各支部の支部長クラスしか入れないみたいですね。デモインを取り調べしますか?」
「そうだな。どうせ死刑だろうが。ちょっとは役に立ってもらおう」
コウがそう言うとマリーが疑問を言う。
「わざわざ直接行かなくても、ここから記憶を覗けませんの?」
「できますよ。ですが、コウの機嫌が悪いので、デモインには死ぬ前に機嫌を直してもらう役目を果たしてもらうだけです」
「拷問とかするわけじゃないよな?」
サラが少し不安そうに聞いてくる。
「そんなことするか! ちゃんと人道的に聞くだけだ」
「人道的に聞いただけで機嫌が良くなるもんなのか?」
「この手の奴ら限定だがな。後は明日だな」
そう言って、コウは寝室へと去っていった。
次の日警備兵の詰め所に向かう。デモインに聞きたいことがあるというと、捕まえに行った時に手伝ったおかげか、又はドレッド卿の客人というのが知れているせいか、すんなりと会わせてくれることになる。
「皆さんは何をお聞きしたいのですか? 言っておきますがかなり強情ですよ。魔法も効きませんし、尋問にも口を割りません」
「ご心配なく。無理だった場合はあきらめますよ」
警備兵と話しつつ、コウ達は地下室へと案内される。デモインは地下の一番奥に、厳重に閉じ込められていた。大分痛めつけられているようだ。だからといって同情などさらさらする気はないが。
「何をしに来た。おまえらと話すことなど何もないぞ」
そう言ってコウ達をにらむ。
「まあまあ、落ち着いてくれたまえ。とりあえず酒でもどうかね? マンモスビーの蜂蜜で作った蜂蜜酒があるんだよ。1杯ぐらいなら構わないだろう?」
そう言ってコウは蜂蜜酒を亜空間から取り出し、グラスに入れる。牢屋の悪臭を振り払うほどの濃厚なかぐわしい香りが充満する。警戒しているようなので最初の1杯は自分が飲む。すると2杯目はデモインが飲んだ。
「いい味だろう。もう1杯どうかね?」
デモインは酔わない自信があるのか、もう1杯も美味そうに飲んでいく。
「そろそろいいか。君たちの教団の本拠地を知りたいのだがね。行き方に特別な方法があるのならそれもね。教えてくれないかね」
「ああ、本拠地はポミリワント山脈の中にある。直接中には入れない。教団の幹部で資格のあるものだけが、本拠地と対になった転移の魔法陣を使って入ることができるんだ」
いつの間にかぼんやりとした目になったデモインは、コウの質問に対して素直に答える。
「なるほど。いや、礼を言うよ。丁寧に教えてくれてありがとう」
そう言うとコウは踵を返す。警備兵はどんなに尋問しても口を割らなかったデモインがあっさり情報を漏らしたことが不思議でならないようだ。それはそうだろう、この世界には自白剤自体が無いのだから。
「あれは魔法なのですか?」
「そうですね。ただ詳しいことは秘密です」
そうコウが言うと警備兵はそれ以上は聞いてこなかった。コウ達が詰め所を出ようかという時、デモインの叫び声と何かを打ち付けるような音が響いてくる。警備兵は慌ててまた地下へと降りていった。
「いったいどういうことか説明してくれないかな?」
サラが頭に?を浮かべて聞いてくる。
「あの手の奴は、幾ら肉体的に痛めつけても駄目なんだよ。寧ろ神の試練とか言う奴もいるしね。かと言って明らかに自白剤、こちらで言うと魔法になるのかな、を使って情報を得ても反省しない。だが、ちょっとだけ自分に落ち度があると見せかけると、途端に後悔で自我が崩れるんだ。死刑になるまでにまともになってると良いんだけどね」
「それで自白剤を少しずつ使って、酒も飲ませたのか……。趣味悪!」
「失礼な。連邦の法律には何も違反していない、実に人道的な尋問だよ」
サラの質問に答えたコウは、いつの間にか上機嫌になっていた。
後書き
更新ですが、一応水曜日と土曜日の週2日を予定しています。よろしくお願いします。
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