第159話 ベシセア王国の動き

「想像以上にグダグダだな。寧ろよく今まで国が保っていたものだ」


 テーブルに映し出された会議の様子のホログラムを見終わると、コウは呆れて呟く。結界が張られていると、ナノマシンは異物とみなされ入れないが、人の体内に潜り込めば入り込むことが出来る。城や領主の館の情報を得る、若しくは声を伝える程度のナノマシンは一人の肺の中に入る分で十分である。

 今まではヴィレッツァ王国に警告を出した時以来、控えてきたが、今回は直接情報収集をする方が、事が面倒くさくなると推測されたため、同じようにして潜り込ませている。

 レッドータ大公の館で発言をしたのは、コウに命令されたナノマシンだった。


「しっかし、初めてリアルタイムで見たけど、ひでー王様だな。あんなんでもコウは直接手出しはしないんだ」


「いや、ちょっと考え中だ。正直、駆除しても良いような気がしてきた。まあ、でも流石に個人的に気に入らないから、という理由で直接手を出すのはためらわれるからな。戦争が起きるまでは、手を出さないでおいてやるさ」


 サラの言う事にコウはそう答える。それにこの情報を渡せばベシセア王国は蹂躙されるどころか、勝つ可能性が高くなる。他の国がどう出るかにもよるが、いくら属国とはいえ、この条件下でルカーナ王国に付くとは考えにくい。付くとしたらルカーナ王国の国王と並ぶぐらいの愚王だろう。


「さて、とりあえず情報をここの王子、じゃなくてもう王様か、に持っていって、どうするかを見よう」


 そうコウは言うと、城の使用人に、国王との謁見を申し込む。使用人は直ぐに返事を持ってきた。今から会議室で会うそうだ。丁度重臣たちと会議を開くところだったらしい。謁見の間で恭しく傅かせて報告をさせるわけではないと言うだけで、あのルカーナ王国の国王を見た後だと、素晴らしい善王のように思えてくる。

 コウ達が会議室に行くと既に国王と将軍及び宰相と思われる人物がいる。合計で3人なのでこちらの方が多い。コウ達が座ると、国王が話し始める。


「皆、急な集まりに応じていただき感謝する。先ずは私、パチルウェンが父の跡を継ぎ国王になった事を宣言する。本来なら戴冠式をせねばなるまいが、緊急事態だ。そしてルカーナ王国との戦争について話し合いたい」


「メヴィド国王陛下が殺されたというのは本当の事でしょうか。その、Aランクの冒険者の方々を疑うと言う訳ではないのですが、早馬で行かせた情報員の帰りを待っても良いのでは……」


 宰相と思われる男がそう口に出す。


「ザカタン殿。言い分はもっともだが、早馬でも往復2週間近くかかる。今回2週間もの時間は貴重だ。取り越し苦労で済めば、後で私が責任を負うだけで済む。仮に王位簒奪の罪で死刑になろうとも、弟がいる。何も心配はない」


「陛下、ともかく冒険者の方々が新しい情報を持っておられるとの事。先ずはそれを聞いて判断いたしましょう」


 今度は将軍らしき人物がそう言う。


「そうだな。コウ殿、頼りきりで申し訳ありませんが、手に入れた情報をここで教えていただいてもよろしいですか。もし私のみと言われるのであれば、先に私室で私が聞きましょう」


「いえ、自分はここで構いませんよ」


 コウは国王にそう答えるとさっき手に入れた情報をこの場で包み隠さず話す。


「何と非道な」


「信じられん。これがルカーナ王国の国王の言葉とは……」


「メヴィド国王陛下はこんな奴に殺されたというのか」


 悔しさ、疑問、無念、怒り、様々な感情のこもった声で3人が呟く。


「だが、雑兵さえ倒しさえすれば、我が国が生き残る可能性は高い。シウゴ将軍、各国に伝令を走らせてほしい。この情報の後、ルカーナ王国からこの国とノイラ王国殲滅の伝令が来れば、きっと情報を信じ味方になってくれるだろう。後は民の避難と戦の準備を進めてくれ」


「はっ」


 シウゴ将軍と言われた男は、そう言って一礼する。


「ザカタン宰相。民の避難の護衛をする冒険者を集めてくれ。避難計画の策定も頼む」


「はっ」


 こちらも、短く答え一礼する。


「コウ殿、情報ありがとうございました。これで希望が持てます。どのようなお礼をすればよいか。渡せるようなものは余りありませんが、コウ殿はどのような報酬をお望みですか?」


「気が早いのではないでしょうか?まだ戦端は開かれていませんよ」


 国王に対してコウがそう答える。


「ですが、正直この戦、勝てるとは限りません。先に渡せるものは渡しておきたいと思います。それにコウ殿達は旅に出られるのでしょう。元々ここに来るのは予定になかったことでしょうし」


「まあ、予定外ではありますが、暫くここに滞在する予定です。ですが、直接戦闘には参加しません。ただ、無辜の民が殺されるような事があれば、出来るだけの事はしましょう」


 コウの言葉に国王は椅子から立ち上がり、深く頭を下げる。


「妹の事といい。このご恩は一生忘れません。私がこの戦で死のうとも、子供たちに伝えておきます。この戦で負ければこの国は滅ぶでしょう。ですが、子々孫々まで、あなた方の子孫に尽くし、恩をお返しすることを誓いましょう」


「いえ、そんな大げさな」


 国王の余りの感謝のしように、コウはちょっと引いてしまう。大体、子々孫々まで恩返しなんかされても、正直言って迷惑である。これは取りあえず適当な褒美を考えとかないと駄目だな、と考えるコウであった。

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