第154話 相互理解の難しさ

「コウって本当に女の扱いは駄目なんだな。なにもわざわざ、見せしめにされてるところまで、言う事は無かったんじゃないか。大体、人を騙すのは得意なのに、なんでこういう時だけ真っ正直なのさ」


「今まで尊敬していただけにがっかりですわ。せめてそういう事は、言う前に覚悟して聞くようにおっしゃるべきですわ」


 またもや二人に駄目出しをされる。なぜだ。


「私は、そういうコウの、ある意味愚直なところが好きですよ」


 ユキが慰めてくれるが、まあ、君は自分好みに作ったAIだからね。こういう場合の人物評価としては参考にならない。


「おかしいなあ。見せしめの刑罰なんて、昔は娯楽だった、と以前刑罰の歴史の本で見たんだが、この世界は違うんだろうか?それとも時代が違ったんだろうか?それとも学説が違っていたのだろうか?どの道、為政者の娘なら慣れてるものだとばかり思ったのだが……」


「サンプルが少ないので何とも言えませんが、推察するに時と場合によるのではないでしょうか。後、処刑されたのが、親しい人物だったかどうかでも変わると思います。お望みなら現在の分までのナノマシンで収集した情報をダウンロードしますが、いかがいたしますか」


「いや、必要ない。現実に聞いただけで気絶した女性が目の前にいるんだ。自分が間違っていたのだろう」


 見せしめの処刑などやるつもりはないし、目の前に倒れた女性がいる以上、そういったデータをユキにダウンロードさせるのは、何となく止めておいた方が良いと思ったためだ。いくら本体にはデータが残ってると言っても、それはそれ、これはこれである。


「まあ、でも方針を決めるための情報は大体出そろった。リメイア王女の案内で、ベシセア王国に行くとしよう。王都は正直食事をゆっくり楽しむ雰囲気ではないし、ベシセア王国の方が楽しめそうだ。風光明媚なところみたいだからな」


「この国の王様に仕返しはしないんだ?それに、リメイア王女は自分達に護衛を依頼してくると思うんだけど……」


 サラがコウの決定に疑問を言う。


「優先順位の問題だな。いくら私でもリメイア王女を国に無事に帰らせることの方が重要な事は分かる。それに、この地方はリューミナ王国やヴィレッツァ王国と比べても、貨幣経済が発達していない。自分たちの護衛の相場は、払えないことはないだろうが、結構な負担になるだろう。正直それよりは恩を売った方が有益だ」


 自分たちを雇う相場は1日1人1金貨である。ベシセア王国まで約5日、つまりこの惑星での1週間の距離から計算して、合計金貨20枚。今の自分たちにとっては端金に等しい。それよりも小国の第3王女と言っても、王家に恩を売れる方がよほど有益だ。


「こういうところは、流石ですわね。なぜ女性に対して不器用なんですの?」


 マリーが不思議そうに尋ねてくる。


「そんなの知った事か!それよりも、なぜわざわざこんな危険を冒してまで性行為を嫌がったか、本人に聞くのは止めた方がよさそうだな。まあ、そういう文化なんだろう」


「そうですわね。そうしたほうがよさそうに思えますわ」


 マリーもちょっと自信が無いようだった。権力をかさにした、性行為の強要という犯罪が稀にあるのは知っているし、帝国では、いまだに少なくないのも知っている。帝国が野蛮と言われる理由の一つだ。

 だが、そういった場合、女性、男性に関わらず、その場は大人しく相手の言われるがままに、されるがままにするのが普通だ。その方が生き残る可能性は高いし、生き残りさえすれば、合意だったか非合意だったかは、その時の状況と感情の記録を提出すれば良いし、精神治療、肉体治療により、被害者は何の影響も残らない。被害者が望むなら記憶さえも残らない。社会的に何か損害を被ることもない。そして、当然ながら加害者には重い刑罰が与えられる。

 そのせいというわけではないのだろうが、今は人類が同じ人類相手に、若しくはそれを仕事としているもの以外に、性行為を行うこと自体が著しく減少し、人工授精無しでは、種として存続不可能になっている。寧ろ、如何に自分が魅力的かを示す、売名行為に使われる場合が多くなったため、問題視されているぐらいだ。

 なので、コウはまだ人工授精も確立していない社会なのだから、そういう文化なのだろうと想像は出来ても、今一、女性の行動を理解できないでいた。それは人格AI達も同じである。文明格差による相互理解の欠如の、最たるものの一つであろう。


 女性をまたベッドに寝かせようか、と思っていると、意外に早く女性は目を覚ます。


「申し訳ございません。またもお見苦しいところをお見せいたしました。皆様方を信頼してお願いがあります。どうか私をベシセア王国まで……!?」


 そこまで言ったところで、マリーがそっとリメイア王女の口をふさぐ。


「その前に王女殿下、自分達はルカーナ王国の王都に向かおうと思っていましたが、現時点では危険と判断し、ベシセア王国に行こうと決めたところです。なんでも風光明媚なところだとか。もし王女殿下が差し支えなければ案内していただけませんか」


 コウの言葉にリメイア王女は一瞬驚いた顔をするが、すぐに理解を示す。


「勿論です。私でよければ、是非ご一緒させてください」


 そう言って深く頭を下げる。小国の姫ゆえか、少なくとも傲慢とは程遠い性格のようだ。


「では、食事でも取ることにしましょう。自分たちは収納持ちでして。美味しい料理を沢山持ってきてるんですよ。お酒もあります」


 そう言ってコウはとっておきのドラゴンステーキと王室御用達のワインを取り出す。ドラゴンステーキは、食べればそれ以外のことなど考えられなくなる美味しさである。きっと王女も元気になるだろう。

 だが、匂いだけですぐにでもむしゃぶりつきたくなる、ドラゴンステーキを前にしても王女はあまり興味を示していなかった。


「折角の料理ですが、申し訳ありません。今はおなかが減っていないもので……。ワインだけ頂きます」


 そう言って、ワインだけ飲むが、余り美味しく感じていないようだった。


「んじゃ、姫様の分はあたいが貰うぜ!」


 サラがそう言って、王女の皿を取り、ドラゴンステーキを自分の分上に重ね、がつがつと食べ始めた。おいおいそれは失礼だろう、と注意しようとしたが、王女はそれを見て怒るどころか、くすくすと笑っている。


「元気なお方ですのね」


「おうよ。冒険者は身体が基本だからな。いついかなる時でも食えるよう訓練されてるんだ」


 軍人を冒険者に言い換えたらその通りなのだが、それよりもなぜサラの行動で笑顔になるのだろう。


「やっぱり、女性の扱いに関してははコウは駄目駄目ですわね」


 またもやマリーに駄目出しを入れられたコウは、ドラゴンステーキとワインですべてを忘れ、至福の時を過ごすことにしたのであった。

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