第155話 ベシセア王国への道中

前書き

 百合じゃないですよ。念のため。



 ベシセア王国は今まで通ってきた道を戻り、リンド王国の国境沿いに北へ上ったところにある国だ。東方諸国と呼ばれる同盟関係で結ばれている、小国家群の一つだ。東方諸国はエルフの王国1カ国を除いて、すべてルカーナ王国の属国になっている。11カ国あるが人口は全部で300万も無いぐらいなので、ベシセア王国が東方諸国の中で極端に小さいというわけではない。元々は20カ国、1,000万を超える人口規模だったのだが、50年前の大戦とその後のリューミナ王国の侵攻によりすっかり大陸では影響力をなくしてしまった。

 今や人口60万のエルフの国が東方諸国の中では最大の国家だ。エルフの人口がこの大陸で70万ぐらいなので、エルフの殆どがこの王国にいることになる。ベシセア王国はこのエルフの国とも国境を接していた。


 移動速度の関係から、王女の乗ってきた馬は、途中で農家に譲り、王女はサラに半分抱かれるような恰好で黒竜号に乗っている。


「あの、もう長時間サラ様の足の上に乗ってますが、足が痛くなったりしてませんか?」


「平気平気、王女様の重さなんてあたいの指2、3本ぐらいの重ささ。無いのと同じだぜ」


「まあ、サラ様ったら、ご冗談を。サラ様、王女様なんて呼ばずにリメイアと呼んでくださいませ。私は小国の第3王女にすぎません。Aランクの冒険者の皆様に王女様なんて呼ばれるのは、かえって恥ずかしいです」


 別にサラは冗談を言っているわけではなく、本当のことを言っているだけなのだが、なんだろう、あそこの付近に漂う甘い雰囲気は。


「ベシセア王国はどんなところなんだい?」


 甘い雰囲気のまま、サラはリメイア王女に尋ねる。一通りの情報はデーターで持っているが、情報源は多いに越したことはない。


「そうですね。良くも悪くも田舎の小国です。盆地になっていて、周りは低い山で囲まれています。湧水が豊富で、水もきれいです。そのため、食べ物もおいしいんですよ。北にはエルフの国があります。時々私の国にも訪れてくれます。よその国はそういうことは殆どないらしいですね。

 普通の国の感覚で都市というのは王都ぐらいしかありません。それでも人口1万ぐらいの都市ですが……。後は村や町が点在しています。冒険者ギルドは王都を含めて3カ所しかありません。そもそもベシセア王国は、王都から徒歩でも3日もあれば、どこにでも着けるぐらいの、小さな国ですから。

 小国故に大戦には少数の兵士しか参加しませんでしたし、それ故に情勢が悪化してからの撤退もうまくいき、大戦の影響というのは殆どありません。また、鉱物資源も何もありませんから、他国から侵略を受けたこともありません。そのせいか他国からのんびりとしていると言われているようです。

 ただ、資源はないかもしれませんが、景色はどこよりも美しいと思っています。私は美しいベシセア王国を誇りに思っています。

 ですが、今回の私の行動でルカーナ王国がどうでるか……。ルカーナ王国がその気になれば、私の国など一飲みにされるでしょう……」


「まあ、まだ起こっていない未来を考えてもしょうがないさ。それより家族の事を教えてくれないかな?」


「家族は皆仲が良いと思います。姉は二人とも嫁いでますが、どちらとも近隣の東方諸国の王家ですので、年に1回ぐらいは帰ってきます。兄も二人とも仲が良いです。年が少し離れているせいか、よくある後継者問題で争っている様子もありません。

 父が亡くなり、一番上の兄が王位を継ぐことになるでしょうが、特に混乱は起きないでしょう。もうしばらく前から、父は半分隠居みたいにしていて、政務の大部分を一番上の兄に任せていましたから。

 私は父が年を取って生まれた末っ子なので、皆にかわいがってもらえました。城の皆にも……」


 サラが次々とリメイア王女から情報を引き出していく。


「ユキ。マリーならともかく、サラがなんであんなに情報収集が上手いんだ。戦艦のAIだろう?」


 リメイア王女に聞かれないよう小声でユキに聞く。


「いえ、別に情報取集をしている訳ではなく、ただの世間話をしているだけでは?これを情報収集と捉えるコウの考えが間違っていると思われます。家族や故郷の話を聞くのは、初歩の会話術です。情報収集の手段ではありません。結果的にそうなる場合もあるという程度ですね。基本的な会話術ですから、艦種に限らず、どの人格AIも基本プログラムとして持っていますよ」


 なんと、自分では高度な会話術だと思ったサラの会話が、ただの基本プログラムだったとは……。


「それでは、会話術に関しては私はサラに劣るということか」


「優劣が付けられるようなものではないと思いますが、強いて言えば交渉に関してはコウに軍配が上がります。しかし、人の気持ちを解きほぐすことに関しましては、サラの方に軍配が上がります。ですが、それはある意味当然なのです。私達は艦長をリラックスさせて、仕事のパフォーマンスを上げるために、生み出されたものなのですから」


 言われてみれば、そうだが、なんとなく納得がいかない。サラとマリー両方に駄目出しをされたからだろうか。これがいわゆる嫉妬という奴だろうか。


「……。へえ、そんな料理があるんだ。それは食べたことないなあ」


「そうですね。他の国では泥臭いと言われるウナマスですが、水がきれいなせいか、私達の国で取れるものは泥臭くありません。他国では泥臭さを消すためにタレ焼きが普通のようですが、私達の国では基本は塩焼きで食べることが多いです。もしかしたら同じ名前ですが、姿がそっくりなだけで、ちょっと種類が違うのかもしれません」


 相変わらず会話は続いている。いつの間にか、リメイア王女が時々俯く事もなくなり、楽しそうに話している。


「その低温発酵のライスワインも美味しそうですわね」


「そうですね。私達の国でとれるお米は美味しいと評判ですし、洞窟の奥で作られる低温発酵のお酒は独特の味わいで、私達の国の特産品の一つになってます。ドワーフの方だけではなく、エルフの方にも評判が良いんですよ。ただ量があまり作れないので、地域限定品って感じです。以前他の国に行った時に、ビックリするような値段で売られていたのを見たことがあります。大通りに面した大きな酒場だったんですが、ショーケースに入れられてまるで宝石か何かのような感じで展示されていました」


 会話にマリーも加わり楽しそうだ。認めよう。私ではこの短期間に王女をここまで元気にすることはできなかった。


「まあ、適材適所という奴かな。なんにせよ。元気になったようで良かった」


「私はそうして適所に適材を配置できるところが、コウの強みだと思います」


 ユキがそう答える。


「人間は万能ではないからな。まあ、そこが面白い所でもある」


「そうですね。コウにお仕えしてると特にそう思います」


 これは誉められているのだろうか?分からないときは誉められたことにしておこう。その方が気分が良い。美女3人が笑いながら、馬に揺られているのを見ながらコウはそう思った。

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