第153話 助けた女性の身の上話

 コウ達が、今後の方針を悩んでいると、丁度、夕食時に倒れていた女性が目を覚ます。おそらく気絶する直前まで追いかけられていたためだろう、気が付くや否や、ばっと起き上がる。しかし、気絶する間の状況と今の状況が余りにも違うため、上半身を起こしたところで、戸惑いながら周りを見回している。


「ここはいったい……。はっ、衛兵たちはどうなったのでしょう」


 少し怯えながら女性が聞いてくる。


「ここは、自分たちのマジックテントの中ですよ。衛兵たちは殺しました。自分たちは“幸運の羽”という冒険者のパーティーです。これでもAランクのパーティーですよ。信じられないのでしたら、冒険者カードを見ていただいても構いませんが」


 なるべく女性が落ち着くように、コウは優しく説明する。


「殺した……。ああっ、私はなんてことを……。申し訳ありません、いくら朦朧としていたとはいえ、とんでもないことをあなた方に頼んでしまいました。私を罪人としてルカーナ王国へ引き渡してください。確実とは言えませんが、Aランクのパーティーの方々なら罪に問われることはないと思います」


「え、なんでそんな無駄な事をしようとするんですか?あなたは、逃げていたのではないのですか?罪人として戻る覚悟があるのなら、最初から逃げなければよかったのでは?」


 女性の行動がコウにはよく理解できなかったため、問い詰めるような言い方になってしまう。コウの言葉に女性は俯く。


「コウって、軍人としてや上官としては良いかもしれないけど、女の扱いはてんで駄目なんだな」


「ですわね」


 サラとマリー二人から駄目出しをされる。いったい何が悪いと言うのか?


「落ち着いてくださいな。ここにはあなたを害しようとする者はいませんわ。まずは身の上を教えていただけませんこと」


 そうやって、マリーはニッコリとほほ笑み、女性を見つめる。


「そうそう、安心しな。あたい達はルカーナ王国じゃあ知らないけど、リューミナ王国じゃあ、ちょっとした有名人なんだぜ。まあ、まずはあたい達を信じて、焦らずに事情を話すことから始めようぜ。暫く追ってくる奴が現れないことは確認済みだしさ」


 サラもそう言って、ニッコリとではなくニカッ、という感じで、笑って女性を見る。何だか頼もしい男という感じがする。


「そうですね。先ずは皆様に説明をいたしませんと。混乱していたとは言え、無様な姿をお見せいたしました」


 元々が気丈な女性なのだろう。サラとマリーの言葉を聞くと、すぐにベッドから立ち上がり、ソファーのところまでやってくる。ソファーはテーブルの回りに4つ並べているが、ベッドとしても使えるような大きさのものなので、二人で座っても余裕の広さがある。

 コウは、とりあえず気を許したと思われるサラの横に座るように促す。女性はソファーに座ると事情を話し始めた。


「私は東方諸国の中の一国、ベシセア王国の第3王女で、リメイア・セタ・ベシセアと申します。王国と言っても私の国は小さくルカーナ王国の属国にすぎません。今回はルカーナ王国の国王陛下の即位1周年に呼ばれて来ました。ただ、私の国は、他の国やルカーナ王国の貴族が集まる大々的な行事に招かれることは無く、単独での祝辞を述べるだけです。

 私は国王陛下の目に留まり、側室となるべく、父と共にルカーナ王国の王都ラローナへと赴きました。私の国のような小国の三女ともなれば、良くて伯爵以下の正室で、それ以外ですと側室としてしか嫁ぎ先がありませんから……。

 そしてルカーナ王国国王ジェロール陛下の目には留まったのですが、ジェロール陛下が求めたのは側室としてでも、愛人としてでもなく、一夜の夜伽の相手でした。

 怒った私の父に、私は急いで国に帰るように申しつけられました。しかし、途中でルカーナ王国の追手に追いつかれ、あわやと言うところであなた方に出会ったのです。

 あの時私は必死で、あなた方のご迷惑など何も考えていませんでした。このような事に巻き込んでしまい申し訳なく思っています」


 事情を話し終えると、また女性は俯く。リメイア王女は軽くカールのかかった栗色の髪に藍色の瞳を持つ線の細い女性だ。こちらの世界の美的感覚に大分慣れてきた自分から見たら、かなりの美少女のように感じる。それも男性の庇護欲を誘うような美しさだ。

 だが、一晩の相手として見るには魅力が欠ける、と言うか所謂、色気が少ないように感じる。要するに清楚な美しさなのだ。この女性に一晩の相手をさせようとはジェロール国王は変わっているんだろうか?それとも自分の美的感覚がまだおかしいのだろうか?


「それで王女殿下はどうしたいんですか?自分たちを信用して正直に話してもらえませんか?ああ、衛兵の件は王女殿下が気に病む必要はありませんよ。我々が襲われたので返り討ちにしただけですし、目撃者もいませんから」


 コウはそう王女に言う。付け加えるなら死体もない。文字通り塵一つ残さず消えている。それを言ったらまた怯えそうなので言わないが。


「私は急いで帰りましたが、次の日の昼には父もラローナを出るはずだったのです。ですが、ルカーナ王国の衛兵が追ってきました。私にも二人、衛兵が護衛のために付いていたのですが、私を逃がすためにルカーナ王国の衛兵たちと戦いました。おそらく生きてはいないでしょう。父は一晩すぎれば、夜伽のことなど忘れるだろうと言っていましたが、衛兵が追ってきた以上そうなったとは思えません。父や一緒にラローナに行った城の皆が心配です。

 このような騒動に巻き込んだ上に、勝手なお願いなのですが、父や皆がどうなっているのか調べてはいただけませんでしょうか。そして可能なら助けていただきたいのです。勿論、お礼はちゃんと致します。一度で払えないのでしたら、数回に分けてでも必ず払います」


 うーん、とコウは考える。実は情報が少なかったため、良い考えが浮かばず、限定的に制限を解除し、ラローナからここまでの区間の情報をナノマシンからすでに得ている。自分の趣味にこだわって、不愉快な面倒ごとに巻き込まれるのは、本末転倒と考えたからだ。城の中まではナノマシンをまだ入れてなかったため、城の情報が仕入れられなかったが、多くの情報は手に入れた。その中に女性の父親の死んだ情報もある。

 女性に伝えるべきか悩んだが、ここで嘘を言って国に返したとしても、問題を先延ばしにするだけと判断を下す。


「王女殿下の父上、まあ国王陛下ですが、この方で間違いありませんか」


 万が一ということがあってはいけないため、ホログラムでメヴィド王の姿を見せる。ナノマシンは便利なのだが、誤情報が無いわけではないため、重要な事では確認が必要だ。


「はい、間違いありません。どうして父の姿をご存じなのでしょう?」


 この世界には幻影の魔法があるので、ホログラムを出しても驚かれはしないが、田舎の国の王を、ここまで鮮明に幻影として出せるというのに驚いたようだ。幻影は頭に思い描いた姿をホログラムのように映し出すだけなので、よく知っていなければ、この様に詳細には映し出せない。


「まあ、一応Aランクの冒険者ですから、色々と調査手段はあると思ってください」


 そう言われると、リメイアはそれ以上聞くのをやめる。自分の国にいる冒険者はBランクのものが3人だけでAランクはいない。きっと想像もつかない何かの方法があるのだろうと納得する。


「それで、国王陛下ですが、残念ながら、殺されています。ご一行も同じく皆殺しですね。巻き添えを食った一般人もいるようです。見せしめに、首は城門に並べられ、身体は城壁から吊り下げられています。もう腐敗し始めていますね」


 それを聞いたリメイアは軽く息をのみ、そのまま気絶してしまった。



後書き

 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、この作品はドラゴンノベルズ新ファンタジーコンテストに参加しています。今月末までが読者選考期間です。出来れば応援よろしくお願いいたします。

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