第145話 全部だ!
「心の友よ。聖剣の件、心より礼を言う。妃に怒られたが、あの時にペンダントを渡したのは間違いじゃなかったと、今回の事で確信できた。いや、勿論、疑ってた訳ではないぞ。わしの見る目が正しかったと証明できて嬉しいだけじゃ。
それにしても、そなたらの功績に何をもって報いようか?聖剣が戻ってくるなど、功績が大きすぎて勲章などでは釣り合わぬ。爵位を与えようと思うがどうか」
なんか似たような質問をつい最近もされたなあ、とコウは思う。それにしてもお妃様の方はまともだったらしい。普通あんな大層なアイテムを、どこの馬の骨ともわからない冒険者に渡してたら怒るのが当たり前だ。
しかし困った。リンド王国に来た最大の目的である忘れられた酒は十分な量を手に入れた。当然、爵位や勲章なんか貰う気はない。国王に直接、謁見できるような特別なアイテムは既に貰ってる。レファレスト王に望んだような、褒美となるものが思いつかない。
(うーむ。何にも思いつかないぞ。誰でも良いから何か思いつかないかね?)
コウは3人に意見を求める。
(もう何も貰わないのでもよいのではないですか)
そうユキが通信してくる。自分もそう思うが、これが元で報酬をもらい損ねる冒険者が出たりして、変な恨みを買いたくない。それに、労働に対する正当な報酬を与えるのは、上に立つ者の義務だとも思う。
(そうは言っても、あたいたち、そもそも報酬をもらうという概念が薄いからなあ。勿論、意味は理解してるけど。コウが思いつかないものを考えろなんて、なかなか酷な質問だぜ)
確かにサラの言う事は分かる。
(それはそうだが、マリーは何かないのか?)
3人の中ではもっとも欲望に関する設定値が高い、と思われるマリーに期待する。
(そんなこと言われましても……。わたくし欲しがったのはお酒関係だけですわよ。それに関してはもう、貰ってもしょうがないですし……。下手したら冒険者ギルドに自分たちが売った分が、返ってくるだけかもしれませんわ)
それもそうだった。大体AIに欲しいものを尋ねる時点で間違っている事は分かっているのだが……。ふと、思いついた事を言ってみることにする。
「私たちが困った時、援軍を出していただく、ということを約束していただくことは可能ですか」
「そなたらに援軍か?あの巨大なロックワームを倒したそなたらが困ることなど想像できぬが……。それに、そなたらが相手にできぬものを我らが相手にできるとも思えぬ」
国王は残念そうに答える。
「いえ、数が重要になることもあるのです。若しくは国王陛下自らと言わずとも、リンド王国の兵が一緒に戦うという事が意味を持つ場合もあるのです」
「ふむそういう事なら約束しよう。救援を呼ぶためのマジックアイテムがある。本来は事故や強力なモンスターが出現したときなどに使われるものだが、最上位の物は使用場所だけではなく、使用者も分かるし、少しだけなら伝言も送ることが出来る。どのぐらいの兵を送るかまでは約束できぬが、そなたらの行いに恥じぬ兵力を送る事を約束しよう」
今迄そんなことを要求されたことはないのであろう。怪訝そうな顔をしながらも承諾してくれる。
「それで十分でございます」
コウは一礼する。
国王が命じると、宰相が救援のマジックアイテムを取りに行き、コウ達に渡す。アイテムは白い15㎝ほどの棒だった。
「使い方は、使いたい時に折るだけじゃ。20秒ほど黄色く光り、その間は言葉を伝えることが出来る。城の中には救援の信号を受け取る係がおるので、どんな時間でも気にすることはない。元々事故や、モンスターの襲撃は時間に関係ないからのう」
なかなか便利なマジックアイテムだ。外から救援が呼びにくい環境だからこそ、こういう物が発達したのだろう。
「やり残したことはないよな?まあ、後で思い出したらまた来ても良いけど」
一応3人に聞いてみる。
「食料品は仕入れていないのではないでしょうか?前回は配給制でしたから、そのまま帰りましたので」
そう言えばそうだった。リンド王国では王宮で散々飲み食いしたせいで忘れていたが、街の食べ歩きはしていない。
「良い所に気が付いたな。流石はユキと言ったところか」
思い立ったら吉日とばかり、王宮を出ると美味しそうな匂いのする店を探しはじめる。王宮から余り離れていない所で、直ぐに美味しそうな匂いのする店があった。流石はドワーフ、食い物にも目がないらしい。
店に入るとフモウルと同じく、先ずは飲み物を聞かれる。丁度4種類のエールがあったので、それぞれ違うものを頼む。飲み物が運ばれてくると次は料理だ。こういう時に行ってみたかったセリフを言ってみる。
「全部だ!」
「え?あの、この店はドワーフ族が利用するお店ですので、人間の皆様には少し量が多いと思いますけど……」
少女のようなウェイトレスが、親切にも忠告してくれる。
「心配ない。自分達は収納魔法持ちだ、食べ残しは収納する。勿論その時は皿代も含めて払う。だから全種類を注文する」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
ウェイトレスが厨房へ注文を知らせに行く。暫くすると次々に料理が運ばれてくる。名物のサンドワームの料理、名前は知らないが地底湖に住んでいると思われる珍しい魚料理。ロックワームは下処理が面倒なせいか、それとも数が少ないせいか、値段の割には量が少なかったが、それもちゃんとメニューにあったので出てくる。どれも満足のいくものだ。少しずつ食べて残りは収納していく。
王宮近くなので高級料理店なのか、それともドワーフの舌が肥えているのか料理はすべて美味しかった。
「では、今日の仕入れ分全部貰おう」
「え?」
ウェイトレスは今度は、驚いたのか固まっている。
「おいおい、人間の兄ちゃん達。他の客もいるのにそれはないだろう」
客の1人が文句を言い始める。確かにその通りだ、反省しよう。
「失礼をした。ではこれで、他の店で飲んでくれないか」
そう言ってコウは1人につき1銀貨ずつ払っていく。文句を言った客も、不満そうにしていた客もとたんに笑顔になる。
客が全部出ていくと、店長と思われるドワーフがやってくる。
「うちはこれでも王都でも高級な店なんですがね。今日の分の材料全部となると20金貨は払ってもらう必要があるのですが、お客様に払えるんですかね」
そう言ったドワーフの手に20金貨を握らせる。店長と思われるそのドワーフも笑顔になって、厨房へ急いで料理を作るように指示を出し始める。
「コウって、祭りの時にあたい達に店ごと買うなとか言ってなかったっけ。非常識とか言って……」
「んん?聞こえないなあ」
祭の時は買い占めたら他の人が楽しめなくなるが、今回の場合はここで買わなかったら、後で自分達が食える量が少なくなるのである。状況が違うのだ。
「コウは軍人が一番向いていたようですね。商売などで下手に小金を手にすると、身を持ち崩すタイプですね」
ユキがぼそりと呟く。コウは自分でもそう思わなくもないが、残念な事に、既に自重は遥か彼方に飛び去っており、手の届く範囲にはなかった。
後書き
全部だなんてそんな!元ネタが古くて済みません。懐かしがっていただければと思います。
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