第146話 能力値に表せない
前書き
コウの優れた?部分ですが、寡聞にしてこれを数値化した小説やゲームはみませんね。
王都だけではなく、あちこち立ち寄った街で食べ歩き及び料理の買い占めを行う。以前から一度はやってみたかった、棚の商品を端から端まで買うというのもやった。商品は陶器だけだったけれども。武具はダンジョン、その他で手に入れている高品質のものが沢山あるし、そもそも売っているのはドワーフ用なので買う気がおきなかった。
美術品は自分が気に入ったものを買って保管するのならともかく、まとめ買いして死蔵させてしまうのは流石に良心が痛む。それを話すと、良心がまだあったの?とか他の3人に言われたが、失礼な話である。自重は遥か彼方に飛んでいったが、自分は強固な良心を持っている。余りにも強固すぎて、傷つく事は滅多に無いのと、使おうとしてもなかなか溶け出さないだけだ。
しかし、予定外だったのはトンネルの中の風景が代り映えしなさ過ぎて、移動するのに飽きてきたことである。街も決められた空間を最大限利用するためか、最適化されすぎて代わり映えしなかった。当然、環境が同じなので料理や酒も、どの街も同じである。トンネル内は殆ど同じ明るさで、夜と昼の違いもない。
「うーん。思ったより代わり映えしないなあ。地底湖の近くにある街とそれをつなぐトンネル。何だか宇宙ステーションの中をぐるぐる回ってるみたいだ」
「それは仕方がありません。水が無ければドワーフも生活できないでしょうし、その水があるところが限られている以上、そこを最適化していくのは自然の流れでしょう。それにまだ、王都を離れて3日目ですよ。正直、コウがこんなに飽きっぽかったことが驚きです」
コウの呟きにユキがそう返事をしてくる。自分でも知らなかったが意外と飽きっぽかったらしい。
「宇宙空間なんてもっと代わり映えしなかったんじゃないのか?」
サラも自分が飽きたのが不思議なのかそう聞いてくる。
「コウは多趣味ですからね。風呂にも全面に映像スクリーンを設置していましたし、自室以外にもリビングや会議室などにも設置してました。設置してなかったのは第2個室と第2寝室、後はトイレぐらいでしょうか」
コウの代わりにユキが答える。
「スクリーンの設置は分かるけど、その第2個室とか第2寝室とかはなんなんだい?」
「予備の個室と寝室だそうです。珍しく必要最低限しか置いていない部屋です。ただ、普通はそんなものは作らないので、その分パーソナルスペースのリソースを使用していますが」
サラの疑問にユキが答えるが、説明不足だと思う。機能の面しか説明していない。
「人間は時に、最低限のものがあるだけの狭い部屋で、孤独になりたい時もあるんだよ。まあ、すべての人間が、とは言わないが、少なくとも自分はそうだな」
そう、人間には誰にも邪魔されず静かに思考する時が必要な事もあるのだ。
「言いにくいんだけど、ユキからもらったデータを見る限り、他の部屋が広すぎるからじゃないのかなあ。うちの艦長のパーソナルスペースなんて、コウよりだいぶ小さかったけど……。まあ本体の大きさ自体が違うから、一概には比べられないんだろうけど」
「ある程度の大型艦以上は同じですよ。何度も言うようですが、私の本体は無駄に大きい訳ではないのです。客船ではないのですから。まあ、軍規ではパフォーマンスを維持するため、重要度の低い区画を利用してのパーソナルスペースの拡張は認められてますが、目一杯使っているのは私の本体ぐらいでしょうね」
ため息交じりにユキは答える。
「どうせ他の者はホログラムで参加するんだし、広い会議室は必要ないだろう。それに滅多に使わない客室など寝るスペースがあれば十分だ。ましてや政治家の視察や送迎時に使う部屋など、たこ部屋でも良いぐらいだ。彼らは軍人が如何に劣悪な環境で戦ってるか、その身で感じる必要があるからな。
今では考えが変わったが、食堂なんて必要なかっただろう。自分一人の時は映像とは言えスクリーンで綺麗な風景を眺めながらリビングで食べた方が良かったし、政治家やマスコミなんかは会議室で食べさせれば十分だ。
それに人間とは時に、広々としたところでゆったりとした時間を過ごすことも必要なのだよ」
そう、人間には狭い区間に閉じ込められていると圧迫感を覚える事があるのだ。特に宇宙空間では外に逃げ出せないだけその思いは強くなる。
「あの、話を聞いている限り、一時期、最高司令官を務め、一線を退いた後も艦隊司令官を務められていた方の言葉とはとても思えませんわ。私の元艦長も変わり者と評判でしたが、コウは私の予想の範囲外ですわ。勿論、戦略が的確であることは、理解してますけれども」
マリーが戸惑ったように話してくる。
「君たちが理解できないのが、逆に自分には不思議でならないがね。100の能力のものが80%の力を出せる環境より、90の能力のものが100%の力を出せる環境の方が、勝率が高くなるのは当たり前の事じゃないかね?まあ、実際に100%の力を出し続けるのは不可能だろうが、そういう総合的なパフォーマンスを高めるのも君達の仕事の一つだと認識していたが?」
コウの方も不思議そうに尋ねる。元々アンドロイドが多数配置されているブリッジの形式も、副官が人格AIとして、艦長好みの性格と姿で補助をするのも、継続的に人間に高いパフォーマンスを出させるためだ。短時間の効率で言うならアンドロイドなど使わず、指揮も頭に機器を取り付け、脳波でした方が良い。
「まあ、一般論から言うと、常識から外れるというのはそれはそれで、ストレスを感じますからね。それだけの戦果を上げなければなりませんから。軍規も厳密に言えば違反でなくても、穴をつついたり、スレスレのようなことをするのもストレスになります。逆に言えばそれを無視して高いパフォーマンスを発揮できたからこそ、コウはあれだけの戦績を挙げたともいえます」
「益々意味が分からないな。要するに勝てば問題ないのだろう。負けたら降格で済めばよいが、下手したら戦死だ。星系連邦は有難いことに拷問なんて、非人道的な事はしないからな。それなら、たとえわずかでも勝率を上げる方が重要ではないのかね?敵は軍規にお行儀よく従っているかどうかなんて気にしてはくれないぞ」
「私が言ったのは一般論です。ある意味、コウは規格外ですから、最高司令官まで上り詰めたのでしょう。誰もがなれるわけではありません。勿論、コウの真似を誰もが出来るわけではありません。優れたものが自分の能力を基準にして、他の方を貶めるような発言をなさるのはどうかと思います」
ユキがコウに対して諭すように説明する。
「私より優れていた者は沢山いたがな。だが彼らはその能力を生かしきれなかったのだと思う。ちなみに聞くが私が規格外というのはどの能力だ?能力テストで、ずば抜けた成績をとった分野など無かったが」
「神経の図太さですよ。他の追従を許しません」
ユキはコウの疑問に即答する。コウとしてはとても褒められたようには思えなかった。
後書き
私の爺さん曰く、殺しても死ないような図太い神経の奴が、やっぱり戦場でも生き残るそうです。ちなみに爺さんはそのタイプでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます