第144話 聖剣の納品

前書き

 なんか神聖な儀式のようなものを期待してる方ごめんなさい。納品です。


 昼前に冒険者ギルドに行ったにもかかわらず、結局全部の鑑定が終わり、ギルドマスターが結論を出したのはもう10回の鐘が鳴った後であった。外では既に日が暮れてる時間である。

 結果としてはギルドの有り金全部を出しても良いということになった。ただ、運転資金として残さなければならないお金があるので、5白金貨を即金で、10白金貨を分割でという話になった。この規模で所有金額が15白金貨ということは、思ったより冒険者ギルドはお金持ちらしい。とりあえず5白金貨は貰ったが、残りは孤児院か教会に寄付金として納めてもらうことにした。正直もう10白金貨なんてどうでも良いのだが、冒険者ギルド自らが商品を安く買いたたくなどあってはならないことだそうだ。

 1樽が元の世界の物より大きいため、普通の店で売ってる瓶に換算すると、1樽で500本分の量になる。地図情報料を無視すると、1本あたり30銀貨の買い取りである。買取価格で30万クレジットのお酒など元の世界では話に聞いたことしかない。自分には一生縁が無い物と思っていたが、世の中、何が起こるか分からないものだ。


 その日はギルド紹介の宿に泊まり、次の日の朝に王宮へと向かう。王宮の入り口には前回と同じように門番が立ってる。ただ今回はフィーゴの案内が無いので直接、面会をお願いしなければならない。


「国王陛下にお会いしたいのですが。重要な案件なのでなるべく内密にお願いしたいのですが。出来ますか」


 コウが門番に尋ねる。前回は国王にいたく感謝されたものの、所詮は一介の冒険者だ。そう言ったところで簡単には会えると思っていないが、尋ねない事には始まらない。


「“幸運の羽”の皆さまですね。自分としては、どうぞお通りくださいと言いたいところですが。流石に誰かの親書か、陛下が会われるにふさわしい重大な要件と確認できる物がないと直ぐには無理です」


 どうやら自分たちを知っている人物らしいが、やはりその程度では無条件には入れないようだ。まあ、普通に考えてそうだろうなとは思う。だが、リンド王国に国王との面会予約が取れるようなお偉いさんの知り合いはいない。強いて言えば冒険者ギルドのギルドマスターだろうが、どちらかと言うと酒場の店長のようなギルドマスターに、そこまでの権威があるのか、はなはだ疑問だ。どうしたものかと考える。


「これを見せたら入らせてくれるって、前に言われたんだけど、無理かな」


 サラが、真ん中に大きなルビーがはめ込まれ、金属部分には緻密な細工がされたペンダントを突然取り出す。


「あら、それならわたくしも持ってますわよ」


 そう言ってマリーも同じものを取り出す。


「それは、王家の友誼の証……。それもお二人も持っておられるとは。大変失礼いたしました。その証は王家にとって何をおいても優先されるべき、国家の枠を超えた友情の証として贈られる物です。それをお持ちならば問題はありません。伝令を送りますので少々お待ちください」


 門番は直ぐに伝令を走らせる。


「いつの間にそんな大層な物を貰ったんだ?」


 前回ここに来た時は4人共、同時に行動していた。こんな大層な物を貰うような時間などなかったはずだ。


「晩餐会の時、普通にくれたけど……」


 そこまで大層なものだと思ってなかったようで、貰った2人は恐縮しているようだ。


「いや、何も貰ったことを責めるつもりはないから、そんなにかしこまらなくていい。いつ貰ったか不思議だっただけだからな。しかし、そんなものを宴会の席で渡すもんなのかね。ドワーフの文化は分からないところがあるなあ」


 サラとマリーが貰ったものは、勲章とかそういうレベルの物じゃない。本来なら勝手にそんなものを貰うのは、例え知らなかったとしても処罰ものだ。元の世界だったら軍が騒がなかったとしてもマスコミが騒いでいたに違いない。


「ごめんなさい。王様と一緒に飲んでいた時、心の友よ!と言って渡してきたから断るのも悪いと思って……」


 なんかドワーフは酒が入ると無茶苦茶だな、と思う。自分も酒は好きだがここまではない。


「陛下がすぐにお会いになられるそうです。どうぞ中へ」


 伝令が帰ってきて、コウ達にそう伝える。王様と言えば国家元首である。そんなに簡単に仕事や都合を空けられるものなのか、と思うが、会ってくれるのなら文句があろうはずがない。コウ達は案内人についていく。謁見の間のようなところに通されるのかと思ったが、通されたのは客室だった。ここで暫く待てということかなと思ったら、王様の方からやってきた。


「久し振りじゃな。心の友よ。今回は内密の話があるということで、このような場所を用意させてもらったが、どうかな?流石に近衛兵の団長と宰相は外せんが……」


 いささかフレンドリーだなとは思うが、ドワーフとはこんな文化なのだろうと思うことにする。


「して内密の話とは」


 王様の問いかけに、エメラルドシティでの聖剣の話をする。聖剣の話までで、酒蔵の話はしない。面倒くさくなる匂いががプンプンしたからだ。


「そうか。聖剣を持ってきてくれたのか。今はエメラルドシティと呼ばれておる所は、父の親友が治めていたところでな。聖剣を守りし一族とは聞かされていたのだが、一族が水没事故で全滅し、水中深く潜る方法がないため、聖剣の行方が分からなくなっていたのだ。父から、もし聖剣が見つかった時には、我が王家が代わりに守るよう言付かっておる。代々その一族に何かあった時は、王家が責任をもって代わりに守ることになっていたそうだ。そなたらは聖剣を抜けたのか?もし抜けたのなら聖剣はそなたたちのものだ。だが、抜けなかったのなら我が一族が来る日のために大切に守っていく故、渡してはもらえぬか。無論、褒美は渡そう」


「聖剣は台座に刺さったままです。台座ごと持ってきました」


 壊れそうで怖かったから触ってない、とも言いにくい雰囲気なのでそう答える。


「そうか、まだその時ではないのであろう。聖剣が台座ごと運ばれてきた時に備えて、安置場所はこの城が作られた時からある。早速で悪いが付いてきてもらえぬか」


 そう言って国王は、部屋を出る。国王が先導し、自分たちが後をついていく、着いた先は地下にある酒蔵だった。そして国王は酒蔵の奥にある壁の一部を押すと、エメラルドシティの時と同じように壁が動き、その向こうに部屋が現れる。そこはエメラルドシティの聖剣安置所のように伽藍洞ではなく、9割がた酒樽で埋まっている。


「何と言うか、わしの代になって聖剣を引き継ぐ事になるとは思わなかったのでな。少しばかり貴重な酒を入れておるが、聖剣を置くスペースはあるはずじゃ」


 言い訳がましく国王が、訳を話してくるが、こんなところに安置されると知ったら、この聖剣を作った人たちは怒るんじゃなかろうか。とりあえず、ちゃんと床には一辺120㎝、高さ600㎝の正四角柱が埋まっている所がある。そこはここを作る時にエメラルドシティの床を参考にしたのだろう。部屋の広さも同じである。


 サラが、聖剣を抜いた時と同じ要領で床の石柱を引っこ抜き、代わりに聖剣付きの台座をはめ込む。少し床が傷つきはしたが、これぐらいは修復してもらうようにしよう。


 聖剣を据え付けて後を見ると、国王以下、宰相も、近衛兵団長もあんぐりと、顎が外れてるんじゃないかというほど、口を開けていた。


補足説明 

 城ははるか前に建てられたもので、エメラルドシティの領主ともども国王も台座の下のタイルが柱のようになっているとは知りませんでした。後王座の後ろに階段を作らなかったのは、単なる作者の都合です。同じネタを2度やるより酒蔵にしていた方が面白いかなあと・・・。


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