第135話 凱旋パレード

 あちこちで金に物を言わせ、食べ物や飲み物を買い占めたり、又は材料を渡して料理を頼んだりしている内に、戦勝パレードの日がやってきた。ジクスの街は朝から大騒ぎである。

 大通りは軍隊が王都へ抜けていくために、屋台は出せないが、それ以外の道に所せましと色んな屋台が出ている。ジクスの宿はここ数日満杯らしい。特に大通り沿いの宿は人気で、大通り沿いに家を構えてる人の中には、部屋貸しをしてるものもいるようだ。

 自分たちはずっと部屋を借りているので、あくせくする必要がない。大通り沿いで、宿の一番上という絶好のロケーションで見ることができる。


 屋台で、食べ物を買い、ベランダで酒を飲みながら、パレードが始まるのを待つ。色々な屋台の食べ物は買ったが、いくら金があると言っても、一つの店で大量には買ってない。流石にそこまでやったら顰蹙物だと思ったためだ。


「こうして他人の戦勝パレードをゆっくり見るなんて、約300年ぶりですかね」


 ユキが感慨深げに話しかけてくる。


「そうだな、基本的には当事者になるか、準備に追われるか、警備をするかだったからな。こうやって酒を飲みながら見るのは実に久し振りだよ。ましてや、地上で見下ろすなんてことは初めてじゃないかな」


「少なくとも、私がお仕えし始めてからはありませんね。若い頃に他の方と行かれたのでしたら話は別ですが」


「若いころ行ったのは、テーマパークのパレードだけだな。それもホテルから見下ろすなんてできなかったな。見下ろせるホテルが高すぎて、若い頃の軍人の安月給じゃ泊まる事なんてできなかった」


 しばらく考えて、コウはそう答える。まあ、正確に言えば泊まれないことはなかっただろうが、一晩で自分の月給と同じ金額が消えていくのは自分にはもったいなくてできない事だった。


 のんびりと無駄話をしながら待っていると、遠くからラッパや太鼓の音が聞こえてくる。どうやら主役の到着らしい。


 軍隊の列が門を抜けてくる。最初に音楽隊、次にシンバル馬に乗った身分の高い者、つまり王子や将軍たち、そして騎兵、歩兵、といった順番だ。巨大なシンバル馬専用の馬車も数台ではあるがパレードに参加している。残りはパズールア湖経由で船で運ばれたらしい。

 通りに面した家の窓から花びら、時には花束や花冠などがパレードをしている行列に向かて投げ入れられる。量が多い為、パレードが中段辺りまで進むと道路が花で埋まっているようだった。熱狂的に手を振っている人も多い。特に子供たちなど、大騒ぎをしている。完全に憧れの英雄たちを見ている眼だった。そんな目を向けられる方の兵士も笑顔で手を振っている。


 風に乗って花びらが、コウ達のもとに飛んでくる。


「すげー、これ本物の花だぜ。いくらかかってるんだ?」


 飛んできた花びらを捕まえたサラが驚いて言う。


「いや、別にそこまで金をかけたわけじゃないだろう。もしかしたら、その辺に生えてた花かもな」


「そういやそうだった。パレードはホログラムの紙吹雪のデータ以外見たことないんで、思わず混乱しちまった」


 サラがバツが悪そうに頭をかく。自分だって、ホログラムの紙吹雪以外なんて見たことはない。本物の花をこれだけ撒くなど、いくらかかるか分からないぐらい膨大な予算がかかるだろう。もし、この惑星に降りた当初だったら、今の光景を見たら卒倒していたかもしれない。


「しかし凄い熱気ですわね。何だか暢気に眺めている私たちの方が浮いてるみたいですわ」


 確かに目につく限り、ベランダでのんびりと飲み食いしながら眺めてるものはいない。


「それはそうだが、別に自分の国が勝ったわけじゃなしなぁ。所詮は他人事だし。まあ、ヴィレッツァ王国にはいい感情は持ってないから、リューミナ王国が勝ったのは嬉しいがね。それでも、大騒ぎをする気にはなれないなあ」


 賑やかで、花びらが舞い散るのも中々良い風景だが、眺める分はともかく、コウはこの熱狂の中に自分が加わろうとは思わなかった。



「フェロー殿下、ここでも大歓迎ですな」


 にこやかな笑顔を振りまきながら手を振っている王子にエネストが囁く。勿論エネスト第1海将も周りに笑顔を振りまき、手を振っている。


「まあ、表面上は大勝利だからね」


「おや、殿下は違うとお考えで」


 にこやかな顔を崩さずにエネストはフェローに尋ねる。


「うーん、いや大勝利には違いないかな。ただ、父上の計画は狂ってしまったらしい。基本的に父上は計画通りに物事が行くのを好む人だからね。計画がより早まったとしても、素直には喜ばないかもね」


 ここで言う計画とはフラメイア大陸の統一である。フェローは勿論の事、エネストも周りにいる者達もそれは十分承知していた。


「確かにそういった感じを受けることはありますが、今回のような大勝利は、流石に喜ばれるのではありませんか?」


「それは任されてしまったこれからの私の働き次第だね。ヴィレッツァ王国の約3分の2、これを掌握するまでは他国には手を出せないだろう。北部だけだったら、我が国の1割程度の人口だった。それくらいなら掌握もしやすい。だが2割以上となるとなかなか大変だよ。国土も予想以上にボロボロだったしね。掌握が遅れれば結果的に計画が遅れることになってしまう」


 ため息をつきたい状況だったが、相変わらず笑顔のままフェローは答える。


「しかし、幸いにして宰相は協力的です。何とかなるのでは」


「あの宰相が協力的?どうやらエネスト殿は政治には向かないかもしれないね。まあ、それは軍人だから当たり前か、軍事方面では私はエネスト殿の足元にも及ばないのだから。あの宰相はミュロス王の最後の嫌がらせだよ。征服した土地の掌握を故意に遅らせている。だが、資料も統治機構もない以上、私は彼を使うしかない。

 露骨に邪魔するのなら排除できるが、利用したほうがまし、という程度にはこちらに協力している。その辺りのさじ加減はさすが一国の宰相を長年務めてきただけはある。後は宰相の予想以上にこちらの掌握の速度を早く出来るかどうかと言うところかな。補給物資もだが、ある程度官僚機構も送ってもらわないと駄目かも知れないね。

 父上に必要なものはすべて送ると、言って任された以上頑張らないとね」


「申し訳ありません。まさか、あの宰相がそのような考えで動いているとは思いませんでした」


「本当は、協力的な北部の貴族を使って、ヴィレッツァ王国北部の地盤固めをするだけのはずだったのになあ。忙しくしてくれた彼らには文句の一つも言いたいね。まあ、実は国難を防いでくれてたらしいから、そんなことは言えないんだけどさ。目の前であそこまで優雅にされていると、どうしてもそう思っちゃうね」


 そう言うとフェローは視線を少し上に向ける。そこには周りの熱狂と違い、のんびりと飲み食いしながらパレードを見ているコウ達の姿があった。


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