第134話 反省と自重
「さてと、予定通り次は東に向かおうと思うが、東に向かうと言っても、大きく分けて、北方諸国経由での北回りで行く方法と、ヴィレッツァ王国からリンド王国、ルカーナ王国を通る南回りと、直接行く3通りの経由がある。まあ、厳密に言えば海路を乗り継いでいく方法もあるが、今回は陸路限定にしよう。
それぞれ希望はあるかね?」
王都からジクスに帰り、宿でくつろぎながらコウは他の3人に尋ねる。しばらく前まではリューミナ王国を出られなかったため、直接行くの一択だったが、今はその制限が外れたため、自由に選べる。だが選択肢が増えるということは、悩むことが増えることでもある。
「私としては見識を深めるために、往路と復路を違う道で行きたいですね。強いて言えば北回りでしょうか、北の方が海産物は美味しいと聞きますし」
最初にユキがこう発言する。もう自分の好みをオブラートに包むこともしなくなった。
「往路と復路が違う道なのは賛成するけど、それなら、あたいは真っ直ぐ東へ行って、帰りを北回りにすればいいと思うな。特に意味はないけど東側に早くいきたいからな」
そう提案するのはサラ。先ずは目標地点へというのが性格がよく表れている。
「私は南回りとまでは言いませんけど、リンド王国には行きたいですわ。前回は約束の1週間の滞在も無く、直ぐに離れてしまいましたし。忘れられた酒というのをぜひ探索したいですわ。もう常時依頼が出てても関係ないのでしょう?」
最後の提案はマリー。この提案は確かに魅力的だ。グティマーユ伯爵のところで飲んだ酒は確かに一級品だった。先日貰った王室御用達の酒の中にも入っていなかったので、いわゆる地元でのみ消費される名品という奴だろう。リンド王国でのドワーフのふるまいを見る限り、見つけたものが売るというのは想像し難い。
「今回は、マリーの意見を採用することにしよう。確かに忘れられた酒を見つけるというのは魅力的だ。それにたまにはモンスター以外の探索も新鮮だと思う」
「嬉しいですわ。感謝しますわ」
コウの決断を聞いて、マリーが飛び上がらんばかりに喜ぶ。ユキはちょっと不満そうだ。北に行けなくなったからだろう。
「どうせなら、大陸一周を目指すか。まあ、厳密に言えば南の方は行かないので違うかもしれないが、リンド王国からルカーナ王国に行って、北方諸国経由で戻ればそれに近いだろう。どうだ?」
周りを見回す限り、3人とも賛成のようだ。
「大陸一周か。なんか響きが良いな」
サラが自分の意見が取り入れられてない、と言うかと思ったが、思いのほか大陸一周という言葉につられたようだ。
そうと決まったなら色々準備がある。先ずはロック鳥とドラゴンを筆頭とした高レベルのモンスターの料理をショガンに頼まなければなるまい。
お昼を過ぎた辺りに1階におりてセラスに厨房へ案内してもらう。
「またモンスターの調理か?今度はどんなのだ」
ショガンは期待に目を輝かせている。
「ロック鳥に、ドラゴン、ワイバーン、コカトリス、マンティコア、ロックワームですかね」
「……。もう何を言われても驚かないつもりだったんだが……。分かった。だがすまないが、少し多めに材料を渡してもらってもかまわないか。扱ったことがないモンスターもいるんで肉質を確かめたい」
いつの間にかショガンの目の輝きが失われている。解せぬ。
「それは構いませんよ。厨房の方の分も出しますよ。作ってもらうだけではなんですから。後セラスさんを含めて、この宿に勤めている人にある程度いきわたる量をお渡ししますので、作ってもらえませんか」
宿の従業員など、全部合わせても50人もいないだろう。1人1㎏と考えても50㎏にもならない。
「良いんですか。私まで」
今度はセラスが目を輝かす。
「まあ、次の旅は長くなりそうだからね。宿はいつものように借りたままにするけど」
「今度はどちらに行かれるんですか?」
目を輝かせたままセラスが聞いてくる。
「うーん。簡単に言うと大陸一周」
「はあ……」
どうも、先ほどから常識と外れた言動を取ってるらしい。まあ、考えてみたら徒歩では数年がかりになるような旅など、この世界でなくとも珍しいので仕方ないかもしれない。自分たちを基準に考える方がおかしいのだろう。
「戦勝パレードを見たら出発するつもりだから、それまでにできるだけ作ってください」
そうショガンにお願いして、次の場所“緋色の湖畔亭”へと向かう。流石にまだ日が高いこともあり、店にはほとんど人がいなかった。
「よう。今度はどんな用だ」
店に入ると、気付いたロブが声を掛けてくる。
「魔の森で大量に魚を捕まえましたからね。こちらで料理していただけないかと思いまして」
「ショガンには頼まなかったのか?」
ロブはそう言って首をかしげる。
「いえ、ショガンさんには別の物を頼んでるんですよ。それに次の旅は長旅なんで、出来るだけ多くの料理を仕入れておきたいんです」
「わかった。じゃあ、倉庫の方で、物を取りだしてくれ」
そう言うとロブは倉庫の方に向かっていく。倉庫に着くとコウ達はそれぞれに収納していた魚を取り出す。その量は100匹や200匹という量ではない。ブナやコヌイの他に高級魚のマヤメやマユなども含まれている。
途中で、ロブが止めに入る。
「ちょっと待ってくれ、量が多すぎる。いつまでに料理しなきゃいけないかは知らないが、これじゃあ、この料理にかかりきりになって店が開けられねぇ」
「では休業補償で1日10銀貨でどうでしょう?」
この店は庶民的な店だ、売上はともかく純利益が1日10銀貨はないだろう。
「悪いが、俺だけの問題じゃないんだ、この料理にかかりきりになるという事は、仕入れ先が困ることになる。例えば酒屋とかな。正直有難い申し出だが、断らせてもらうよ。まあ、出来るだけというなら合間を見てしてもいい」
ロブの言う事に自分の考えの足りなさをコウは反省する。
「では、今まで通り仕入れてください。仕入れたものはすべてこちらで買い取ります。それで如何でしょうか?期間は戦勝パレードの前日までぐらいですかね。それを見たら出発する予定なんで」
「本気か?いくらうちが庶民的な店と言っても、自慢じゃないが結構流行っている。すべての仕入れの分まで考えると30金貨を超えるぞ」
ロブは驚いたようだ。
「ええ構いませんよ。とりあえず、きりが良いところで50金貨渡しますね」
そう言って、唖然としていたロブに金貨を50枚渡す。反省はしたが、自重はしないコウであった。
後書き
反省はした、しかし自重するとは言っていない。
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