第136話 大陸一周への出発とロック鳥料理

 熱狂的なパレードの次の日、コウ達は興奮冷めやらぬジクスの街を出た。一応冒険者ギルドの知り合いや、詰め所のジェイクなどには挨拶をしていった。今回の旅が大陸一周だと言うとみんな唖然としていたが。


「リンド王国まではどの道を行くんだい?」


 サラがそう尋ねてくる。


「特に希望がないなら、前回帰りに使った道かな。他の道は無い事もないが、整備されてないし、結局は遠回りになるだけで、前回の道に戻ってくるものが殆どだ。まあ、整備されてないという事はモンスターも多いんだろうが、これというモンスターはもう倒したからな。それに前の道でも途中からは整備されてない道になるし、運が良ければまたロック鳥が出るかもしれない」


「サラはともかくとして、流石にゴブリンやコボルトはもう戦い飽きましたわね。それよりも忘れられたお酒を早く探し始める方が有益だと思いますわ」


 マリーが賛同の声を上げる。他の者も特に反対は無いようだった。

 季節はもう春先であたたかな日差しが気持ちいい。10日ほど進みモムール山脈の近くまでくると、南に位置するためかもう田植えが始まっていた。


「この辺ではもう田植えが始まっているのか、ヴィレッツァ王国の北部は今年はどうなってるのかな?」


「御覧になりますか」


 後ろからユキがそう聞いてくる。


「そうだな。特にモンスターも近くにいないようだし。ざっと見せてくれ」


 コウがそう言うとローレア河周辺と思われる地域の様子が網膜に映し出される。前回の陰惨な雰囲気と違って活気に満ちていた。堤防を直す者、田畑を耕す者、家を修理する者、皆一生懸命働いている。強制といった雰囲気でもなく、自分から進んで働いているようだ。その働いている者たちに物を売る商人たちの往来も活発なようだった。


「戦争って終わったばっかだよな。こんなにも違うものなのか?」


 映像を見てサラが不思議そうにつぶやく。


「下の者にとっては食えるかどうかが問題だからな。あれだけ商人が来てるってことは、農民を賦役という形で使わず、食料だけじゃなく労働として賃金も与えたんだろうね」


「ふーん。それだけでもこんなに違うものなんだ」


「まあ、とりあえず食うに困らなくなって、働けば金も入るんだ。そりゃあ、やる気も出るだろうさ」


 コウはサラにそう答える。


「でも、これって完全にリューミナ王国の持ち出しだよな。戦争して損したんじゃないか」


「そりゃそうだ。ある程度の文明レベル以上だったら戦争は基本赤字だな。略奪するだけならともかく、統治するとなると持ち出しは避けられない。まあ長期的に考えたら話は別の場合もあるが、それでも結局は赤字の場合が多いかな」


「それならなんで戦争するんだ?」


 コウの答えにサラは不思議そうに聞く。


「さあね。自分にも分からんよ。今回の場合はリューミナ王国の王様が大陸に覇権を唱えたいんだろうさ。今の王様の代で叶うかどうかは知らないけどね。自分だったらあれだけ儲ける才能があるんだったら、そのまま他国と貿易したほうが良いと思うんだけどねぇ。

 まあ、一つ言えることは人類は星間国家になってさえ、戦争を防ぐ手段を発見できないでいるって事だけだな。この星の人間が自分たちと同じ道を歩むかどうかは知らないがね」


 コウは別に軍人だからと言って、戦争が好きな訳ではない。無論若い頃は祖国の平和の為と思っていた頃もある。だがそんな綺麗ごとだけでは済まないという事をいやと言う程体験した。今では立派な平和主義者だと自分では思っている。


「まあ、その手の話は結論がでないのでそれぐらいで良いのではないですか。それよりも今日はそろそろ野営の準備をする時間ですよ。今日はいよいよロック鳥を食べる日ですからね」


 心なしか弾んだ声でユキが会話に入ってくる。そう今日はロック鳥の料理を食べる日だ。人の往来が多いところだと、邪魔が入る可能性があるため、街道から外れてから食べることにしたのだ。材料はまだあるが、いかんせんショガンのマンパワーの問題もあって、料理の量は限られている。まあ限られていると言っても、1ヶ月食べ続けたとしても無くなる量ではないぐらいにはある。だが、いつも狩れるとは限らないものなので、大事に食べたかった。


 野営の準備自体はいつも通り簡単だ。マジックテントを取り出し、広げるだけである。いつもはベッドと真ん中にソファーを取り出すのだが、今日はベッドを置く代わりにいつもより広いテーブルを出す。

 そしてその上に大皿に乗ったのロック鳥の料理が並べられていく。チーズ焼き、ワイン蒸し、スープ、タレ焼き、塩焼き、それぞれが並べられていく。普通の鳥料理と違い元が大きいため、どの料理にどの部位が使われているか、形からではわからない。

 どれもできたてを亜空間に入れたのでホカホカである。先ずは美味しそうな匂いをこれでもかと主張しているチーズ焼きから食べる。たっぷりとチーズソースを肉につけて口の中に放り込む。鶏肉なのでチーズの味が勝っていると思いきや、濃厚な肉の味がする。鶏肉なのにまるで霜降り肉みたいに内部に肉汁と脂肪分が詰まっているのだ。それでいながら決して油っぽくはない。食べてしまうと寧ろさっぱりしたものを食べた気分になる。


「これは、どう表現すればいいだろうか。確かにドラゴンの肉を食っていなかったら、これ程うまい肉を食ったことは無いと言うだろうな」


 コウは思わずそう呟く。


「この塩焼き、多分皮だと思うんですけど。普通皮と言ったらパリッとした食感ですよね。それがこんなにしっとりとした食感なんて。いえ、確かに表面はパリッとしてるんですけど、何だか2種類の肉を絶妙に混ぜたみたいです」


 食事中にしゃべることの少ないユキが、誰にもわかる驚きの表情で食べ物を解説している。もしここに元の世界のユキを知っている人間がいたら、自分が別のAIに切り替えたと思うだろう。


「うめー。なんだこれ。うめー」


 サラはもはやまともな言葉になっていない。


「あああああ!これに合うお酒を買っていませんの。かと言って水ではあんまりですし、果実水は折角の味を壊してしまう気がしますし」


 マリーがワイン蒸しを食べた後に、首をフルフルと振っている。


 コウはフッと笑い、自分の亜空間ボックスから数本の酒を出す。


「ショガンに見立ててもらった20年物のライスワインの古酒だ。ライスワインは長く経つと酢になるからな。この年月寝かせておくのは相当な技術らしい。ジクス中探してもこの5本しかなかった。だが、料理にあうのはお墨付きだぞ」


「いつの間にそんなものを買ってたんですか」


 ユキが尋ねる。基本的に4人は一緒に行動している。


「餅は餅屋だ。ショガンのつてを頼って、買ってもらっていたのだよ。戦いとは戦い始めた時には8割がた勝敗は決まっている。ロック鳥の料理ばかりに気を取られ、飲み物に気が回らなかった君たちの敗北だな。敗北をかみしめて有難く飲むがいい」


 ふふんと胸を張るコウは、歴戦の司令官にはとても見えず、外見通りの、いや外見より若いまるで子供のようだと他の3人は思ったのであった。





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