第132話 レファレスト王との会見

 次の日時間になるとオーロラが呼びに来る。煌びやかな所謂パーティドレスに身を包んでいる。それはオーロラだけではなく自分たちもだ。王宮から送られてきた、タキシードとパーティドレスを元に、少々仕立て直しをしたものを着用している。服装を考えないで良いことは楽だった。

 宿の前には昨日の馬車が待機しており、そのまま乗り込むと、馬車は王宮へと進み始める。宿は王宮のすぐそばなので歩いても大して時間はかからないのだが、そういう問題でもないみたいだ。

 しかし謁見が夕刻とは珍しい。こういうものは普通昼間やるものではないだろうか。分からないことは聞いてみるに限る。そのために同席をお願いしたのだし。


「オーロラさん、謁見が夕刻に行われるというのは普通なんですかね?」


「うーん。特に珍しくはないけど、功績から言うと珍しいかしら。と言っても国難を救う、なんて事が滅多にあるわけじゃないから、何とも言えないけれど。

 功績が大きい人の謁見は昼間に行われて、夜はそれを称えるパーティーというのが多いと言えば多いけど、それは功績を立てた人が貴族の場合だしね。冒険者の場合逆にそれを話題にしてパーティーの目玉にする事が多いけど、そんな小さな功績じゃないし……。

 ごめんなさいね。私も判断がつかないわ」


 オーロラは真剣に考えたが、結局は分からないという答えを出す。強いて言えば一応あまり派手にしないでほしいという、コウ達の要望を受け入れた結果ではないだろうか、とオーロラは思う。


「着いてからのお楽しみという奴ですかね。あまり格式張ったものではないと良いですけどね」


 コウは元の世界の叙勲の式典を思い出す。豪華な会場で行われた式典は、お偉いさんが長々と祝辞を言い続ける退屈なものが多かった。格式か何だか知らないが政財界のお偉いさんが祝辞を述べ終わるまで、軍人は直立不動で待っておかなければならない。それは将校である自分も同じだった。政治ショーの意味合いが強い式典はとにかく面倒くさい。そうでないことを祈ろう。


「こう言っては何だけど、国王陛下に謁見して、褒美を受けるというのに、あなた達誰も緊張しないのね。慣れてるのかしら?」


 オーロラが不思議そうにしている。言われてみればこういう時は、緊張するのが普通だろうか。しかし、今更最初に叙勲した、若い頃の感情を思い起こせと言われても無理である。もう慣れ切ってしまっているので仕方がない。


「そういうわけではないですけど、命がけの戦いに赴くわけじゃないでしょう。それに比べたら落ち着いていられますよ」


 まあ、そういう問題ではないだろうとは思いつつも、良い言い訳が思いつかなかったため、コウはそう説明する。


「まあ、いいわ。それくらい今更の事だし。それよりも着いたわよ」


 元々距離があまりないこともあって、直ぐに王宮に着く。門番に呼び止められもしなかった。

 馬車が止まった所には、王宮の入り口まで赤い絨毯が敷かれており、召使や、使用人と思われる人々が両脇に立っている。映画やゲームでしか見たことの無い風景だ。

 馬車の扉が開けられ、使用人の中でも身分の高いと思われる初老の男性が現れる。


「ようこそおいで下さいました。会場まで皆様のご案内を仰せつかっています。どうぞこちらへ」


 そう言って、赤い絨毯の上を歩き始める。コウ達は言われるがまま、その後ろをついていった。

 男性はどんどんと王宮の奥まで進んでいく。謁見の間やパーティー会場というのは城の手前の方にあるものではないだろうか、とこの手の事には乏しい知識でコウは思うが、聞くほどの事でもないのでそのまま黙って、男性についていく。

 男性が止まったのは、城の相当奥の方に来てからだった。


「こちらでございます」


 そう言って、男性は扉を開け頭を下げる。中に入るとそこは予想していたような、広々としたパーティ会場ではなく、おそらく私的な晩餐会などに使用されるような所だった。それでも広いのには変わりはないのだが、テーブルは長テーブルが一つだけで、人も王族と思われる数人と後は召使たちがいるだけで、貴族と思われる人々はいない。テーブルの上にはシャンデリアの光に照らされ、きらきら輝いている料理が、所狭しと並べられているが、椅子は少なく自分たちの後に入ってくる人もいないようだ。

 コウ達が入ってくると国王夫妻と思われる2人と、その子供と思われる男女が立ち上がる。


「ようこそ、招聘に応じてくれて感謝している。本来ならば大々的に功績を称えるべきところだが、貴君たちはそのような事は興味がないと聞いたので、このような形にさせてもらった。不満があるようなら後日再度招く故、今宵はこれで許してほしい」


「いえ、不満など。このような席を設けていただいたこと、感謝に堪えません」


 コウはそう言って、頭を下げ、後ろの女性たちは綺麗なカーテシーをする。とても冒険者とは思えないその所作に、その場にいたものは驚く。ここにいる使用人は一流中の一流である。なので、挨拶の所作だけでその者がどの程度の教育を受けている者か、大体の推測が出来る。その使用人たちから見て、コウ達の所作の美しさ、特にパーティメンバーの女性の所作の美しさは大貴族と比べても引けを取らないものであった。

 それもそのはず、理想的な所作をインストールしているのだから、わざと崩さない限り、理想的な所作にしかなりようがなかった。


「ほう。美しい所作だな。子供たちに教えてもらいたいぐらいだ。どこで教わったのか聞きたいが、余計な詮索は野暮だな。これ以降は堅苦しいことは無しにしよう。貴君らも乾杯の後は好きに食事をするがいい」


 そう言って、王族が腰を下ろす。自分たちの前の椅子が使用人たちによって手前に引かれる。座ると直ぐに、グラスにワインが注がれる。


「では、“幸運の羽”の王国への貢献を感謝して。乾杯」


「「「乾杯!」」」


 国王は乾杯をすますと、率先して食事をとり始める。自分が食べなければ他の者が食べられないとの配慮からだろう。配慮に感謝しつつ、コウ達は目の前の料理に挑み始める。料理は高レベルなモンスターの肉こそなかったが、味付けや調理は流石としか言いようがなかった。

 ちゃんと礼儀作法をインストールしておいて良かった。サラなどは初期状態だったら、肉に貪りついていただろう。それが、カトラリーを使い上品に食べている。いささか食べる速度が上品とは言い難いが……。あまり速いと、普段から碌なものを食ってないように思われるので止めてほしい。


(サラ、料理はたっぷりあるから、もう少しゆっくり食べてくれないかね)


(速かったかな?これでもゆっくり食べてたつもりなんだけど。美味いんで早く次のを食べたくなるんだよな)


 まあ、気持ちは分からなくはないが、体面というものを気にしてほしい。

 暫く、他愛もない話をしながら食事をしていくと、国王が本題を切り出す。


「さて、ある程度腹の具合も収まってきたころだろう。褒美の話をしたいのだが良いかね?」


 コウとしてはこれが今回一番のミッションだった。

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