第84話 一段落

前書き

 ちょっと一段落です。まあ、もう次の依頼が来てますが・・・。



 多少トラブルがあったにもかかわらず、フモウルからジクスまで6日間でつく事が出来た。通常の馬でもこの倍はかかるだろう。これもタフなシンバル馬のおかげである。強化はしているもののそれはいざという時のためで、基本的には元の能力の範囲内で乗っているので、移動や物を運ぶという点において基礎能力が高いのである。


 久しぶりのジクスはなんだか懐かしい気がした。帰って早々冒険者ギルドへ向かう。盗賊の賞金を貰うためだ。幾ら亜空間の中とは言え、生首をいつまでも持っておくのは気持ちが悪かった。


「わあ、お帰りなさい。随分と色々なところでご活躍されたみたいですね。ジクスのギルドとしても鼻が高いです」


 扉を開けると、直ぐにレアナが元気に声を掛けてくる。コウは軽く手を挙げ交換所へと向かう。


「ギルドでも依頼を出している賞金首かどうか確認してもらいたいんですが」


「じゃあ、奥まで持ってきてくれんかのう。カウンターで出すようなもんじゃないじゃろう」


 交換所の老人の言うとおりだったので、交換所の奥まで行って例の生首の入った箱を出す。


「ふむ、“血塗られた鴉”の一団のようじゃな。“闇夜の狼”をお前さん方が潰した後、勢力を伸ばした盗賊団じゃ。まあ、勢いづいていられたのは短い期間じゃったのう。ギルドで常時討伐依頼として受け付けていた案件じゃから、報奨金は直ぐに出るぞ。酒場の方でちょっと待っておいてくれんかのう」


 そう言って、男は首を箱から次々に取り出す。もう慣れているようで、忌避感というのはないようだ。


 酒場の方へ向かうと、レアナが後を追ってくる。


「コウさんちょっと良いですか。コウさん達に指名依頼があるそうです。明日の朝で良いので、ギルドに来てもらえませんか」


「別にそれは構わないが、それはどんな依頼なんだ?」


「私もそれは分かりません。ギルドマスター直々にお話ししたいそうです」


「うーん。分かった。では明日また来ることにしよう」


「コウさん達には戻ってきたばかりで申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 そう言って、レアナはコウ達に頭を下げる。ちゃんと連れてくるように言われているのだろう。雇われ人の辛い所である。その辛さはよく分かるので、コウは快く引き受ける。


 エールを1杯飲んだところで、査定が終わった合図が交換所に出たので、直ぐに向かう。

 報奨金は5金貨と20銀貨、ギルドの取り分も合わせて1人頭20万クレジットちょっとだろうか。元の世界では信じられない命の安さである。ただ、人型のモンスターと考えればそんなものかと思わなくもない。寧ろ高いかもしれない。


 コウ達は“夜空の月亭”へと向かう。下手な冒険者に聞かれたら激怒されそうだが、部屋は借りっぱなしにしていた。3ヶ月分を前払いしている。それでも金貨10枚にもならない。まあ、元の世界では絶対にやらなかったことだろうが……。

 宿に着くとセラスが少しビックリした顔をした後、嬉しそうに挨拶をする。


「お帰りなさいませ。皆様のご活躍はお聞きしてました。いつお帰りになっても大丈夫なように、部屋はちゃんと毎日掃除してますので、ご安心してお休みください」


 流石は超が付かないまでも、一流と言える宿である。コウは満足して部屋へと向かう。

 

「明日の指名依頼ってなんだと思う?」


 部屋に着くや否や、サラが皆に聞いてくる。


「そうですね。ギルドマスター直々という事ですから、難易度はある程度高いものでしょう。また、自分たちの戦力と噂から推測すると、高ランクのモンスターの討伐が可能性が高いと思われます」


「あら、先に言われてしまいましたわ。同じですとつまりませんし、わたくしは高難易度の素材採集としますわ」


 ユキとマリーが答える。


「サラはどう思いますの?」


「いや、分かんねえから聞いたんだけど、何か違うこと言わなきゃいけない流れだな。うーん、偉い人の護衛?」


 サラが言った瞬間、皆がそれは無い、という顔をする。


「しょうがねえだろう!ありそうなのは先に言われたんだから、コウはどうなのさ?」


「そうだな。何かの運搬かな」


「運搬?それこそ指名依頼にするようなもんか?」


 コウの答えにサラが反論する。


「ヤバい物だったらね。自分達は収納魔法持ちって事になってるから。後、ダミーを運ばせてカモフラージュって可能性もあるかな」


 コウがそう説明すると、皆、何となく納得したような顔になる。


「丁度4つ案が出てきたことだし、何か賭けるか?」


 そうサラが言うが、賛同者は誰もいなかった。


「ノリが悪いなあ。うちのパーティー。こういう時は大体賭けをするもんだって、みんな言ってたぜ」


「どこできいたんですのそんなこと。第一賭けるものなんて無いでしょう?」


「王室専用のブドウ畑産のワイン」


「それじゃあ、わたくしが損するだけではありませんの!」


 サラとマリーがいつものごとく言い合いを始める。


「まあまあ、明日になればわかることだし、その辺にしておきなさい」


 そうコウは言うと、ふかふかのベッドに潜り込み、我関せずとばかりに眠ったのであった。

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