第83話 新しい武器
前書き
盗賊は実験台です。この世界は悪人に人権はありません。残酷なシーンが苦手な方すみません。
ドラゴンステーキを初めて食べた次の日、シンバル馬に揺られながら、半分以上寝とぼけてジクスへと進む。つくづくこの馬を買ってよかったと思う。ゆっくりとした揺れが、まるでリクライニングチェアに座っているような感じで、気持ちがいい。普通の馬ならこうはいかないだろう。
季節は夏から秋へと変わっている。空は澄み渡り、東の地平線にはドラゴンが居た山陰、西の地平線にはグリフォンが居た森が広がる。気温もちょうどよいのが更に眠気を誘う。そもそもの問題として、起きておこうという気がなかった。
そんな気持ちの良い旅はアラートと共に活性剤と中和剤が注入され終わりを告げる。
「盗賊のようですね。個体数23、6時方向に8、12時方向に15、距離共に約1,000m、戦闘力微小」
「一応人間だからな、万が一違っていたら不味いから、接敵しよう」
コウは良い気分を壊され、不機嫌になったが、さすがにそれを理由に盗賊と決め付けて殺してしまうほど気は荒くない。まあ、盗賊が現れた、とかいうテロップが頭に流れたら良いなあ、とは思ったが。
馬の速度を緩め、いつでも戦闘態勢に入れる準備をする。暫く進むと、馬に乗った一団が岩陰から現れた。
「ほほう。全部置いてけば逃がしてやろうと思っていたが、予想外だったな。おい、下手な抵抗はするな。大人しくしておけば悪いようにはしねえよ」
テンプレートのような脅し文句を言う頭目と思しき男だが、普通なら馬に乗って見下ろして言うセリフを、見上げて言うのだから今一締まらない。
そうこうしてるうちに後ろからつけてきた仲間も合流する。
「へっ、多少でかい馬に乗ってようがこの数の差はどうしようもないだろう。まあ、お前達の器量だ。奴隷でも扱いは最上級だろうよ。俺たちは金を手に入れる。お前たちは良い暮らしを手に入れる。誰も損しない良い事尽くめだろう」
コウ達が無反応なのに業を煮やしたのか、仲間が合流したことで気が大ききくなったのかさらに脅しをかけてくる。
(例の道具を実験するにはちょうど良いか。ユキ、サラ、マリー、フォローを頼む)
コウは、少し前から考えていた道具を今回試してみることにした。基本的に人間に似た身体構造のものしか使えないと思われるため、盗賊の彼らは実験台にはもってこいだ。
盗賊がわめいている間にコウの指先から何本もの目に見えない細い糸のようなものが伸びる。それが1人の盗賊の首に入っていく。
「ん?なんだ?」
首筋にチクリとした痛みを感じた盗賊は腕を回しその部分を確認しようとしたが、腕が動かない。それどころか、いつの間にか首から下の感覚がなくなっている。男の腕は男の意思とは関係なしに剣を抜き、仲間に切りかかろうとしていた。
「よけてくれ!」
男が必死に叫んだおかげで、仲間はなんとか男の剣を避けることができた。
「突然何しやがる!」
仲間の怒声が響き渡る。
「俺も何が何だか分からねえんだ。身体が勝手に動くんだ」
そう言って、他の仲間に切りかかる。最初はぎこちなかった動きがだんだんと洗練されていく。最初はよけていた仲間たちが、よけきれず傷を負うものが出てくる。
「ちっ、こいつらが何かやりやがったな。しかたねえ。奴は殺せ」
そう頭目が言い放つ。
「止めろ!止めてくれ!」
口とは裏腹に、男は一介の盗賊とは思えない剣捌きで、多数を相手にしていた、しかも体の傷など気にする様子もない。
「首を切り落とせ!」
頭目の命令に、盗賊たちは男の首に攻撃を集中させる。3人の盗賊を倒した後、乱心した男の首は切り落とされた。
盗賊たちがほっとする間もなく、首を切り落とされた男が1人の盗賊の首をはねる。
「どうなってやがる!ええい、何でもいい切り刻め」
さらに2人の盗賊を倒した後、乱心した男は心臓を刺され、動かなくなった。
「貴様らいったい何をした!」
頭目が叫ぶが、その胸から剣が飛び出る。後ろにいた男が剣で突き刺していた。
「俺じゃねえ!身体が勝手に動くんだ!」
それから同士討ちが始まった。最後に一人だけ残った男がコウ達に懇願する。
「頼む。何でもする。だから助けてくれ!お願いだ!」
それには答えず、コウは後ろにいるユキに向かって問う。
「こいつは今までに何人殺してる?」
ユキも指先からコウと同じく細い目に見えない太さの糸を男の頭へと伸ばしていた。
「覚えているだけで3人以上ですね。強姦も拷問もしてます。半年以上前の記憶があやふやなので、記憶に無い分を含めるともっとありそうですね」
そうユキが答え終わった瞬間、男の首がポトリと落ちた。
コウ達が指先から出していたのは、強化義体用の神経繊維を改良したものだ。基本的に攻撃に使うものではないが、他人の身体が乗っ取れるか試してみたが、うまくいった。攻撃にも使える。ただ、首をはねられても大丈夫だが、流石に心臓を刺されたら動かすのは無理だった。考え次第で使い勝手は広そうだった。
首だけを箱に詰め、身体は焼き払う。盗賊のアジトには合計20金貨ほどの硬貨があった。今のコウ達にとってははした金だが、別の盗賊の資金源になっても困るので頂いていく。
こうして“闇夜の狼”壊滅以来勢力を大きくしていた盗賊団も壊滅したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます