第81話 ネーリーの報告
前書き
ネーリーの報告です。それと何と言ってもAランク冒険者は伊達ではありません。勘が鋭いです。
リューミナ王国の国王の前で、跪いている女性がいる。ネーリーだった。場所は公式の広い謁見の間ではなく、私的に使われる小さな謁見室だ。それでも、国王は床より一段高い場所に国王にふさわしい豪華な椅子に座り、横には宰相であるバナトスもいる。だが、他には衛兵すらいなかった。Aランクとは言え一介の、しかも初対面の冒険者に対して、破格の信用をおいていると言えるだろう。
扉の外には衛兵がいるとはいえ、目の前の冒険者がその気になれば、自分たちの命を取ることなどたやすいことだろう。バナトスは緊張で冷たい汗をかいていた。
「面を上げよ。報告が聞きたい」
そう重々しく国王であるレファレストが声を掛けると、ネーリーは顔を上げる。
「強さに関しては噂に違わぬ、いえ、噂以上のものでした。決して彼らと敵対してはならないと感じました」
「ほう。それは例えばこの国を敵に回すことになったとしてもか?」
「おそれながら、その通りでございます」
迷うことなく即答するネーリーに、宰相が詰め寄ろうとするのを国王が止める。
「理由を聞かせてもらえるかな?」
「私は勝てない敵には、逃げることにしております。そして逃げることに関しては自信がございます。一度逃げたら捕まらない自信も。ですが彼らに関しては逃げ切れる気がいたしません。いつもなにがしかの視線を感じておりました。それは、別れるまで続きました。単なる勘ですが、どこに逃げても捕まえられる、そんな感じを受けました。そして戦いになれば、私は彼らの足元にも及びません」
「Aランクの冒険者をもってしてもそうか」
レファレストは顎に手を当て、考え込む。
「彼らは何か目的のようなものはあったかね?」
「いえ、勝手気ままに旅する、旅人という感じでした。それはモンスターの徘徊する森の中に入っても同じでした。まあ、彼らの強さをもってすれば、恐れなどないのかもしれません。世間知らずとも取れますが、おそらくちがうかと。もっともこれも勘になりますが」
「勘か……」
レファレストの言葉に、恐縮したようにネーリーは俯く。正直、どれも確たる証拠はない。だが勘がそう告げているのだ。そしてたとえ他の誰もが信用しなくても、その勘が正しいということをネーリーは確信していた。
「では見方を変えよう。彼らはどういったものに興味を持っていたかね?」
「食べ物ですね」
これには、淀みなく答える事が出来た。正直、時々その執着心にちょっと引いたぐらいだ。
「は?」
宰相であるバナトスが間の抜けた声を上げる。慌てて取り繕い、ネーリーに質問する。
「ふむ、具体的に食べ物とはどのような物かな。例えば高ランクモンスターの肉とか、その地方の珍味とかかね?」
「何と言いますか、手あたり次第という感じです。少々私が引くこともありました。道に生えてるキノコすら、食べたことがないものは興味の対象になってました。基準は美味しいかどうか、食べたことがあるか無いか、だけだったと思います。
ドラゴンの討伐もお金が目当てというより、肉が目当てのような感じでした。ギルドにどれぐらい販売するかで、一番執着していましたから。ただ、ギルドと揉めてまで、という感じではありませんでした。後はお酒にも興味があると思います。仲間の一人はかなりの酒豪でした」
「思ったより享楽的なパーティーのようだな。褒美でもって取り込むことは可能と思うか?」
再び国王が尋ねる。
「非常に難しいと思います。ただ、基本的に悪意は感じられませんでした。正当な依頼ならば引き受けると思います。しかし、国の枠組みの中に入るのは嫌そうでした」
「それだけの力を持っていながら、自ら立身出世をするような野望はないと?」
「リーダーのコウは私の見立てでは、自分を弁えた男でした。言い方を変えると、年齢にはそぐわない落ち着きを持っていました。野望に関しては、これも勘になりますが、無いのではなく、すでにやり遂げたという感じでしょうか。寝る前に出来るだけ話をしたのですが、時々何十歳も上の老人と話しているような気分になったことがあります。
後、パーティーの状況ですが、一見、男女の仲良しグループですが、その実、リーダーのコウが絶対的な命令権を持っているようでした。と言っても主人と奴隷のような関係ではなく、謂わば王と騎士のような関係に近いものと感じられました。
それとこれは余談かもしれせんが、女性にはあまり興味が無いようです」
レファレストの問いにネーリーはそう答える。
「娼館を利用したことがないとは聞いていた。だがそれは仲間に桁外れに美しい娘たちがいるからと思っていたが、そうではないと?」
「はい、仲間の女性達は噂に違わず、正直思わず嫉妬するほど美しい女性達でした。普通の、いえ、どんな男でも、幾晩も一緒に寝ていたら、抱かずにはいられない。そう感じるほど魅力的でした。
ただコウは全くと言っていいほど、彼女らを女性として見ていませんでした。正直私がいなくなったとして、宿で抱いているとは思えません。逆に彼女たちも、コウを男性として見ていませんでした」
「なんとも、不思議な者たちですな」
ネーリーの報告を聞き、バナトスが国王に話しかける。
「だが、興味の対象は知る事が出来た。味方に出来ずとも、敵対せぬようすることはできよう。それに他国が味方に出来ぬことも分かった。これだけでも収穫は大きい。
ネーリーよ。ご苦労だった。褒美は約束通り支払う故、下がるがよい」
「ありがたき幸せ」
そう言ってネーリーは一礼し、部屋を出ていく。
「まあ、一度様子見で指名依頼を出してみるか」
ネーリーが出ていったあとレファレストはそう呟いた。
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