第80話 ブラックドラゴン討伐後

 ネーリーがドラゴン退治の後、少しぼんやりしていて、何か魔法にかかったのかと思ったが特に何事もなかったようだ。分け前は魔導書、スクロール、杖などはネーリーにその他のマジックアイテムは自分たち。お金の分け前は半々にしようとしたが、ネーリーの希望で人数割りとなった。というわけで5分の4は“幸運の羽”のものである。光物が好きなためか、錫貨や銅貨はなく銀貨、金貨、後は銀塊、金塊、宝石などがあった。白金貨もなかったが、ざっと数えただけで合計2000金貨分はあるだろう。20白金貨つまり20億クレジットだ。ダンジョンで手に入れたお金と合わせると優に100億クレジット以上はある。もはや金銭感覚が狂いまくりである。こればかりは注射で治るものでもない。


「さてと、めぼしいものは他になさそうですし、外に出ましょう」


 そうコウがネーリーに話しかける。


「そうね。そうしましょう」


 どことなく、虚ろな感じでネーリーは答える。


 帰りは、草を刈る手間が少なかった分少し楽だった。少しの間、ネーリーの様子がおかしかったが、2、3日経つと今までと変わらなくなった。


「ちょっと聞いて良いかしら、サラさんが持っているのはオリハルコンの剣なの?」


 旅の終わりに差し掛かろうという頃、野営でソファーでくつろいでいる時、そうネーリーが聞いてくる。


「勿論、何か差しさわりがあるようなら答えなくてもいいわよ」


「いえ、別に差しさわりがあるものではないですよ。ネーリーさんの言う通りオリハルコンの剣です。まあ、魔法はかかってませんが」


 一応軽量化の魔法がかかっているという設定の剣は別にある。魔法がかかっているといってもバレそうな気がしたので、コウは正直に答えた。ちなみに鑑定の眼鏡で自分たちの武器を見ると?マークがたくさん並ぶだけで機能しない。


「そうなると、ドラゴンの首を切り落とせたのは、サラさんの腕前かしら?」


「うーん。両方だと思いますよ。まあ、他の戦士の方の戦いをあまり見たことがないんでよく知りませんが」


 物体の持つエネルギーが質量と速度の二乗に比例することは、この世界でも確認している。普通に戦士が使う剣の1万倍の重さに加えて100倍の速度で振るわれる剣のダメージは、単純に言って1億倍。常人に計り知れるようなダメージではない。ただあくまでそれに耐える武器があってこそである。


「そう。その剣だけでもひと財産ね」


 ネーリーは他にも何か聞きたそうだったが、結局は話はそれで終わり、2人とも眠りについた。

 次の日のお昼にはフモウルに着く。早速ギルドへといき、スペースの関係で交換所の奥にある倉庫のようなところでブラックドラゴンを出す。ここの交換所の係は老人ではなく筋骨隆々とまではいかないが、それなりに体格のいい壮年の男性だ。


「こりゃまた、綺麗な死体だなあ。血は出てないみたいだが、血抜でもしたのか」


 死体を見て、交換所の男は感心して言う。


「いえ、ちょっと透明な薄い膜みたいなものを切り口に貼ってるんですよ。剝がしたら流れ出ますよ」


「そんなものがあるのか。まあいい。剥がすのはちょっと待ってくれ、血の一滴でも貴重だからな」


 その後は男性に従い、樽の上に傷口を置き、倉庫にある大型モンスター用のつり上げ装置を使って血抜きをしていく。


「これは、全部換金するのかい?」


「いえ、心臓、魔石、眼球、肝臓、肉は売らないですね。その他は売りますけど」


「他のはともかく肉全部ってことはないだろう、幾らかギルドにおろしてくれよ。ドラゴンを退治した噂はすぐに広まるだろうし、その時肉が無いんじゃ、ギルドとして格好がつかねえ」


 ドラゴンの肉というのは、この世界の住人にとっても特別な物らしい。金額より肉の取り分をどうするかで交渉をすることになり、結局自分たちが3分の1、残りをギルドに売るということで決着がついた。その代わり解体費用はただである。まあ、大した金額ではないが。ネーリーさんも肉は貰うことになったが、20㎏だけなため、誤差の範囲だった。

 解体は丸1日かかるらしい。フモウルを出発するのは明後日になりそうだ。


「これで、臨時だったけどパーティー解散ね。正直このランクの依頼でこんなに楽だったのは初めてだったわ。そちらが良ければ、次があったらまたパーティを組んでほしいわ」


「そう言ってもらえると、こちらとしても嬉しいですね。私達も歓迎しますよ」


「じゃあ、またね」


 そう言って、ネーリーとはギルドで別れた。うちあげをするのかな、と思っていたが、帰るまでに散々飲み食いしたんで、特に改めてする必要もないと思ったのかもしれない。

 自分たちも宿の1階で食事をすることにする。正直余り食欲をそそられる店がなかったというのもある。ユキではないが魚料理が恋しい。亜空間ボックスの中にある程度は魚料理も入れていたので、旅の途中に食べてないわけではないが、それとこれとはまた別なのだ。


「ネーリーさんはどうしますか?監視したままにしますか、それとも監視対象から外しますか?」


 寝る前にユキが聞いてくる。サラとマリーには伝えていなかったため、観察していた事に少し驚いたようだ。


「監視対象から外しておこう。敵対関係になる確率は低い。ならば余計な詮索はしない方が良い」


「了解しました」


 ユキがそう言って頷く。


「なんで、監視してたんだ?」


 サラが聞いてくる。


「まあ、念のためかな。受けたい依頼があるときに、丁度うってつけの人物が現れるなんて都合が良すぎると思ってね」


「ふーん。で結果は」


「まず間違いなく、どっかの国から自分達の調査依頼を受けてるな。そうでなければ自分の命がかかっているのに、ドラゴン戦であんな稚拙な作戦に意見を言わない訳がない」


 自分達のようにサラが一撃で仕留めてくれるのを間違いないと思っているならともかく、そこまで信用されるほど親密になったわけではない。それなのに一切自分の意見を述べないのはおかしいと思われた。


「それって、放っておいて良いのですの?」


 今度はマリーが聞いてくる。


「別に敵対するわけじゃないからね。寧ろ敵対することを止めてくれるかもしれないな。一応自分たちに好意は感じてくれてたみたいだから、あんまりプライベートを覗き見ることはしたくない」


 まあ、自分達に危険が及ばない範囲においてはだが、とコウは心の中で付け加えた。


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