第79話 ブラックドラゴン討伐

 分かれ道から、北へ3日進むと事前の情報通り廃坑があった。ドラゴンが住処にしているというだけあって、坑道はかなりの大きさだ。時間的に今日入るのは厳しいので、少し離れた所で野営をする。

 野営中にユキに3Dマップの作成を指示し、転送してもらう。


(ドラゴンの住処まで、あまり複雑ではないな)


 坑道なので、枝分かれした細い道はたくさんあるが、ドラゴンの住処までの道は一本道といってよかった。広い坑道の奥に、集積場か何かの跡だと思われる広い空間があり、そこにドラゴンが住み着いていた。入り口からそこまで約100mである。そこから細い坑道が幾つも続いていた。ただ、ドラゴンがいるためか、小さなネズミのようなモンスターやスライムのような知性のないモンスターはいるが、これといったモンスターもいないし、ドラゴンが居る部屋以外に、お宝らしきものもないようだった。


(作戦はどうしますか?)


 ユキが聞いてくる。ネーリーがいる以上、通常の戦闘行動は行わない方が良いと思われたので事前にある程度打ち合わせをしておくことにする。


(敵の戦闘能力は)


(場所は3Dマップを送付したため省略。個体数は1、個体名ブラックドラゴン、戦闘力0.02~0.025)


 ユキはいつもの通り敵の戦闘能力を推測する。


(ダンジョンの最下層ボスの、リッチロードよりは弱いってことか。ネーリーがもし、音を消す魔法を持っていたら、それを使ってもらって寝込みを襲う。持ってなくても、忍び寄ってサラの大剣で一気に首を落としてもらおう。一応オリハルコンコーティングの大剣を使ってくれ)


(了解)


(私は今回も出番なしですの?)


 マリーが少々不満そうに通信してくる。


(まあ、出番はないだろうが、カモフラージュとしてネーリーや自分の防御役として待機していてくれ。万が一という事もある)


(了解ですわ)


 一応方針が決まったので、そのままコウは眠りについた。


 次の日、いよいよ坑道の中に入る。先頭はサラ、次にマリー、次に自分とネーリーで、最後がユキだ。ネーリーに音を消す魔法があるかどうか聞いたところ、あるし、使えるということだったので使ってもらう。どうやら肉体を変化させるのでなければ、魔法は自分たちにもかかるようだ。暗闇でも見るようにする事が出来る魔法があるとの事だったが、自分たちには効果がなかった。元々自分たちには最初から必要がなく、必要だったのはネーリーだけだったのでこれは問題ない。

 ただ、ドラゴンの近くまでくると、音を消す魔法は、いらなかったんじゃないかというぐらい、ドラゴンの寝息が洞窟内に反響していた。耳元で話さないと、普通の声の大きさでは聞こえないぐらいである。

 作戦開始の指示をサラに出し、自分たちは岩陰とマリーの後ろに隠れる。

 ドラゴンは空を飛ぶ生物とは思えないぐらい巨大で、尻尾も合わせれば全長20mはあると思われた。首も太く直径2m近くある太さだ。ほぼサラの大剣の刃渡りと同じである。サラの大剣はサラの長身をもってしても、かなり斜めに装着しなければいけないほどの長さ、そして広い幅、分厚い刃を持っている。大剣というより剣の形をした金属の塊ともいうべきものだ。その上に技術の粋を集めた切れ味が付加されている。

 サラは慎重に近づき、首の一番細い部分に狙いを定めると、一気に剣を振り下ろした。まるで熱したナイフでバターを切るように、スッパリと切れる。ドラゴンは血もお金になるので、直ぐにコーティング処理をして出血を防ぐ。再生する様子はなかった。

 今まで鳴り響いていたドラゴンの寝息がピタリとやんで、静寂と暗闇が洞窟を支配する。


「え、何をしたの?」


 何か呪文を準備していたらしいネーリーがそう尋ねてくる。


「不意打ちで、首を切り落としたんですよ。いわゆる、寝首を掻くというやつですね」


「いや、まあ、それは見れば分かるけど、ええー!」


 大人の女性という感じだったネーリーが何か混乱している。静かになった廃坑にネーリーの声が響く。


「とりあえず落ち着いてくださいよ。作戦は最初話してたでしょう」


「確かに聞いてはいたわよ。不意打ちをしてドラゴンに先制ダメージを与える。その後、私たちが攻撃を畳みかけるって……」


 ネーリーは最初に作戦を聞いたとき、正直ブラックドラゴンに対して、なんていい加減な作戦なんだと思った。一撃を与えた後のサラの退路や、追い打ちをかけるといっても、誰がどこを攻撃するとか、陣形をどうするとかの話し合いも何もない。

 さらに、実際ドラゴンを前にしても、今一緊張感が感じられない。先輩として注意すべきかとも思ったが、国王からの秘密の任務の件もあり、いざという時のために防御魔法をホールドして、待機していた。

 実際はサラがまるで、トカゲか何かの首を落とすように、スッパリと首を落として終わりである。他の3人もそうなるのが当たり前、という感じをしている。

 ブラックドラゴンはドラゴンの中では弱い部類に入るとはいえ、ドラゴンはドラゴンである。たとえ急所を不意打ちで攻撃したとして、その強靭な鱗と魔法的な防御でダメージが与えられるかどうかも分からないものである。

 元々、サラが首を落とすのは当たり前の事だった?それなら稚拙な作戦や、緊張感のなさも説明がつく。しかしそれは尋常ではないダメージを与えることが出来る、と言っているようなものだ。ドラゴンの首を一撃で切り落とすダメージ?どんな威力なのよ。そう考えていると。


「ネーリーさん、ネーリーさん!」


 コウからそう言って肩をゆすられて、自分が考えに没頭していたことに気付く。


「ドラゴンの分け前は、前に話した通りですけど、どこから集めたのか巣の中も結構なお宝の山ですよ。分け前を決めましょうか」


 ネーリーが見渡すと、ランタンが灯され、いつも間にかドラゴンの死体は片付けられていた。例の収納魔法の中に入れたのだろう。

 ランタンの光の中には、文字通り光り輝く宝石や、黄金の塊、マジックアイテムと思われる品などが浮かび上がっている。おそらく以前の巣から運んできたのであろう。古い貨幣が多い。


「私は今回大して役に立ってないから、適当にあなた達が決めていいわよ」


 なんとか落ち着きを取り戻したネーリーはそう答える。


「いえいえ、何事も準備8割ですからね。音を消す魔法を使っていただかなければ奇襲が成功していたかどうかわかりませんし。それを考えれば勲1等はネーリーさんではないでしょうか」


 コウはそう言ってくるが、本当にそう思っているとはネーリーには思えなかった。

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