第73話 宴会、宴会、また宴会

 無事シンバル馬を手に入れたコウ達は、次に馬具の店へと向かう。他でも売っている所はあるが、買った馬がひときわ大きい馬だったので、ここで特注品を作った方がよいとカント氏に言われたためだ。


 馬具の店も木造建築の建物だった。ただ、その大きさはその辺のテントより小さい。中をのぞくと、幾つかの馬具が並べてあり、奥には工房らしきものが見える。基本的に受注生産の店のようだ。


「おお、お前さん方はグリフォンを倒してくれた冒険者じゃないかね。ここに来たということはシンバル馬を買ったのかね」


 店主は気さくな感じのするドワーフだった。こう言っては失礼だが、あまり職人という感じはしない。気難しい態度ではなく笑顔で自分たちを迎えてくれる。


「はい、表に馬がいます。1頭に2人乗れるような鞍が欲しいんです。2人ほど鎧が特殊な者がいるので、座椅子のような恰好が良いのですが」


 こちらの希望を言うと、早速店主は表に出て馬を見る。


「ほう、これはまた立派な馬じゃな。しかしわしの記憶によると、この馬は気性が荒く、誰も乗りこなせるものがいないと聞いていたがな」


 馬具の専門店だけあってカント氏とも交流があったのだろう。店長はコウにそう話す。


「気性が荒いというより、プライドが高かったのでしょうね。自分より弱いものに従うのが嫌だったのだと思いますよ」


「ということは、お前さん方は強いと認められたと……。考えてみればグリフォンを倒したんじゃから当然じゃな」


 店主は納得すると店に入り、黒板のようなものを取り出すと、コウに馬具に関して色々質問し、それに応じてイラストを描いていく。描きあがったイラストは鞍と言うより、背もたれの付いた2人乗りのエアバイクの胴体部分ようなものだった。

 作るのに1週間ほどかかるらしい。金額は2金貨だった。クレジットに換算すると普通にエアバイクが買える値段だが、相場が分からないし、もう気にならないほどのお金を稼いでる。ぼったくる人物のようにも思えなかったので、そのまま言い値を払った。


 日が沈む前から、集会場に呼ばれる。宴会の用意が整ったようだ。長老会議の時と同じように、円形にクッションが置かれ、その前にごちそうが並べられてる。違いと言えば前回族長がいた場所に自分たちの席が用意されていることだろうか。

 自分たちが席に着くと、族長が立ち上がって挨拶をする。


「もう皆のものも知っていると思うが、ここにいる冒険者“幸運の羽”によってグリフォンは倒された。もはや、毎日怯えて暮らすこともなく、この町を移動する心配もない。商人たちもじき戻ってこよう。今宵は思う存分祝おうではないか!」


「「「おお!」」」



 族長の言葉に勢い良く杯が掲げられる。それから後は無礼講だった。


「お前さん方はグリフォンの他にどんなモンスターを倒したんじゃ?」


「うーん。驚かれたのはワイバーンとレッドオーガとリッチロードですかね」


 冒険者が少ないせいか、その手の情報に飢えているらしく、自分には冒険の様子を聞いてくるものが多い。


「よくあなたは、その細い腕であのような巨大な盾を持てますね」


「ふふふっ、女性の秘密を暴こうとする男性は古来ろくな目には遭わないと相場が決まっておりますのよ」


「その美しい黒髪はまるで、夜空のようだ。冒険者はやめてここで暮らす気はないだろうか?」


「いえ、ありません」


「女だてらに、あの巨大な剣を使うのに惚れちまったぜ。馬を育てるのには力がいるんだ。俺の妻になってくれねえか」


「酔ってるからって、いきなりプロポーズかよ!と言うかそっちの事、あたい全然知らねえし」


 マリー、ユキ、サラはそれぞれ大勢の男性に言い寄られていた。たまに給仕をしている女性に引っ張られていく男性を見ると、既婚者か恋人がいるものもいたのではないだろうか。この世界では一夫多妻制とは言え、目の前で他の女性を口説かれたら面白くないに違いない。

 それと感覚的だが、都会より女性が強いような気がした。これは肉体的な意味ではなく地位的なものを含めてである。集会所の端っこではあるが、奥さんと思われる女性から拳骨を落とされて、涙目になっている男性がいる。誰も気にしてないので、そんなに珍しい光景ではないのだろう。


 ただ、自分に寄ってくるのは年寄りばかりで、女性は給仕の時以外は寄ってこなかった。そのあたりは、逆に都会の女性の方が積極的かもしれない。そうコウは考えていたが、何の事は無い、町の男たちによって妙齢の独身女性たちは、宴会から外されていただけである。


「おおー!」


 と、どよめきが起こる。見るといつの間にか円の中央にマリーが立っており、その前に1人の男が倒れていた。

 不味い、変に絡まれて喧嘩でもしたか、とコウは思ったが、そんな様子でもなかった。周りの男達がマリーをほめたたえている。


「ようし、次は俺が行こうじゃないか、嬢ちゃんもう無理なら別の日にしてもいいんだぜ」


「ふふっ、まだまだ大丈夫ですわ。お相手して差し上げますわ」


 そうマリーが言うと、2人に大きな樽ジョッキが渡される。


「始め!」


 合図とともに2人がジョッキに口をつけ飲み始める。マリーが先に飲み終わり、ジョッキの中が空であることを皆に見せている。男の方もその後に飲み終わったが、空のジョッキを皆に見せてる途中で足が絡まり、そのまま倒れてしまった。


「おおー!これで3人抜きだ、何もんだあの嬢ちゃん」


 どうやら酒の飲み比べをしていたらしい。しかしマリーよ、お前はどこまで行く気だ。いや別に良いんだけどね。


 マリーがいつの間にか、酒の飲み比べのチャンピオンになっているのも予想外だったが、娯楽が少なく収入が多いせいか、馬具ができるまでの間、1週間も宴会が続くとは、完全にコウの予想外の事だった。

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