第71話 グリフォン討伐
冒険者ギルドで受けられる依頼は基本的に同ランクか、一つ下のランクまでである。これは不用意に冒険者が身の丈に合わない依頼を受けて死ぬことを防ぐための手段であり、またギルドが仲介役を果たすことで、貴族たちから無茶な依頼を冒険者にさせないという理由もある。
極端な話、殺したいものがいるとして、無茶な依頼を押し付ければほぼ確実に死んでしまうし、運よく生き残ったとしても依頼達成は難しく、法外な違約金をとられかねない。わざわざ暗殺者を雇わなくても、合法的に潰すことができる。
実際冒険者ギルドができる前は、たまにそういう事があったらしい。ただ何事にも例外はあるもので、緊急時や依頼者と冒険者の双方が納得してというものなど、幾つかの方法で規定外の依頼を受けることはできる。
ただ、緊急時を除いては、何か圧力がかかっていないか冒険者ギルドが調査をすることになる。冒険者に直接圧力をかけて、無茶な依頼を受けさせるということを防ぐためだ。もし後で、そのような不正行為がばれた場合には、冒険者ギルドはその存在意義をかけて報復をする。実際それでつぶされた貴族は幾人もいるらしい。ちゃんとギルドとして機能しているようで、結構な事だった。
明け方近くまで飲んでいたため、昼過ぎにソクスの冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドはソクスの町では珍しい、2階建ての木造建築物だ。中もそんなに広いわけではなく、酒場は併設しておらず、受付と交換所が一緒になったカウンターと、待合せに使うと思われるテーブルが2つあるだけだった。
冒険者と思われるような者は今はいない。コウは1人だけいる受付嬢のもとへ向かった。
「この町の族長、若しくは長老達からグリフォンの討伐依頼が来てると思うんだが……」
そうコウは受付嬢に尋ねる。受付嬢はどういう人物が来るのかまでは聞かされていなかったのだろう、驚いた様子を見せる。
「はい、確かに指名依頼で来ています。大変失礼ですが、冒険者カードを確認させてもらっても良いですか?」
コウは受付嬢に冒険者カードを差し出す。受付嬢は丁寧に受け取ると、暫く確認した後、また丁寧に返してくれる。
「確かに“幸運の羽”のパーティーであることを確認しました。この依頼はBランクです。念のためお聞きしますが、何か無理やり依頼を受けさせられる事があった、という事はありませんか?」
ギルドとしても後で独自に調べるのだろうが、本人確認も一応するのだろう。
「いや、何もない。成り行きでそうなっただけだよ」
コウは軽く答える。実際そうなのだから仕方がない。
「成り行きで、Bランクの依頼を引き受けるのですか……」
受付嬢が唖然とした表情をしている。そういう顔をされても、本当に成り行きなのだから仕方がない。勿論成り行きとは言え、グリフォンの戦力と自分たちの戦力は比較済みである。流石に勝ち目の薄い勝負はしたくない。
「ご納得されているのなら、大丈夫です。勿論ギルドで依頼の強制などがなかったか、独自に調査は致しますが。
グリフォンはこの町の南の森に棲んでいると思われます。討伐方法は“幸運の羽”の皆様に一任されています。一応1週間に一度程度この町周辺、と言ってもかなりの範囲がありますが、に現れて馬や、人を襲っています。
正直討伐依頼が成功しなかった場合、ソクスの町ごと移動も検討されていましたので、“幸運の羽”の皆様方には、なんとか頑張っていただきたいです。勿論生き残ることが最優先ですけれど」
元々遊牧民だったためか、ソクスの住人は土地に対する執着が薄いようだ。しかし、ソクスの町ができてからもうだいぶ経っており、この土地に愛着を持っているものも多い。
それに移動するとしても、この町がそっくりそのまま入れる土地があるとは限らない。場合によってはバラバラになったり、新しい領主のもとに付かなければならなかったりする場合もあるだろう。この土地に住み続ける事が出来ればそれに越した事は無いはずである。
次の日の朝、ソクスの町を出て、南の森へと向かう。魔の森や、その周辺の森ほどではないが、この森も結構な広さがある。普通の冒険者がやみくもに探したところで、グリフォンを見つけることは困難だろう。
コウ達は森から少し離れた所で、待ち伏せをすることにする。範囲は広いといっても、上空に上がる以上、森から飛び上がった時点で目視ができるはずである。
はたして、2日目の朝、森の方からグリフォンが飛んでくるのが見える。と言っても普通の冒険者では、いくらグリフォンが大きいといっても、見ることのできない距離だ。
(距離、23,400m、高度170m、飛行速度100㎞/h 戦闘力0.00015~0.0002。飛行方向は11時方向で、こちらから離れていくようです)
ユキがいつものように報告してくる。この距離からでも自分のコンパウンドボウを使えば倒せるが、死体を取りに行くのが面倒だし、かといってむやみに転送装置も使いたくなかったので、先ずおびき寄せることにする。
久しぶりの自分の出番だ。コウは慎重に狙いを定め、間違っても殺してしまわないよう、なおかつ自分たちには気付くよう、微妙な力加減で矢を放つ。
見事に矢は前脚の付け根に当たり、突き刺さる。流石は鷲の上半身を持つモンスター、20㎞以上離れているのに、自分たちを見つけたようで、こちらに方向転換してくる。
(戦闘力の低下、微小により評価に変更なし。飛行速度200㎞/hに上昇)
(怒っているようだな)
突き刺さった矢をものともせず、グリフォンはこの世界の感覚では急速に接近してくる。
コウはもう一度矢をつがえる。今度の鏃は柔らかい金属で出来たホローポイント型だ。基本的にはジャイアントスパイダー戦で使ったものと同じだが、モンスターのランクを考えて少し硬めに調整している。
グリフォンは森の中では無敵ともいえる存在だった。敵は同族のみ。縄張り争いで負け、森の外まで狩りをしに行かねばならなくなったが、そこには森の中より簡単に狩れる美味い動物がいた。
今日も動物を狩り、腹を満たそうとした矢先に攻撃を受けた。見渡すと森から少し外れた所に、自分を攻撃したと思われる動物がいる。中々に美味な動物だが、小さいため1体では1日分の食事にしかならないのが欠点だった。だが今回は4体いる。小賢しいことに、自分の前脚に突き刺さった武器を持っている者がいる。まずはあいつから殺してやろう。そうしてグリフォンはコウに狙いを定める。グリフォンの意識はそこで途絶えた。
グリフォンが一度首をもたげ、急降下する瞬間を狙って、コウは矢を放った。狙いは違わず、グリフォンの首の付け根に当たり、胴体から引きちぎるように、首を切断する。
グリフォンは頭と胴が分かれ、きりもみ状に落ちていく。落下地点にユキとサラが急行し、ジャンプして、頭と胴体をそっと抱えて着地する。そのまま落下したら、肉が飛び散ってしまうためだ。グリフォンの肉が美味しいかどうかは分からないが、今のところ人型以外は基本的に美味しいため、どうしても期待してしまう。
「今回の討伐は、なかなかこの世界の戦いに近いんじゃないかな」
コウは作戦がうまくいって機嫌がよかった。
「そうですね。武器の射程や威力を別にすればそう言えないこともありません」
「それは仕方がない。自分はスリルを求めてるわけではないからね」
そうコウは言って肩をすくめる。
「えっ、そうなのか?」
サラがそう聞いてくる。
「前にも言ったと思うが、自分が好きなのは味方の援護と、敵の攻撃範囲外からの一方的な攻撃だからね。ロマンは好きだが、スリルは安全が確保されていない限り好きじゃない」
「安全が確保されているスリルってなんだよ?」
サラが不思議そうに尋ねる。
「うーん。テーマパークとかのアトラクション?」
コウはしばらく悩んで答える。ホラーは好きじゃないし、それぐらいしか思い浮かばなかった。
「まあ、この惑星でアバターを使って冒険者をやること自体、テーマパークのアトラクションと言えなくもないですけどね」
「じゃあ、尚更戦闘は自分の趣味で良いんじゃないかな」
ユキの突っ込みにコウはそう答える。実際今は冒険者生活を楽しんではいるが、リスクが許容範囲を超えたら直ぐに逃げ出すつもりである。
「コウらしいですね」
ユキはそう言って、納得したようだったが、サラとマリーはよく分かっていないようだった。まあ、そのうち分かるようになるだろう。そう思いグリフォンの死体を亜空間へと収納した後、コウ達はソクスの町へと戻っていった。
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