第70話 ソクスの町
ソクスの町は、街というより大きなテントの集合体だった。一応木造建築や物見櫓もあるが、圧倒的に多いのはテントである。テントと言っても普通のテントではなく、小さいものでも直径10mはあり、布も厚く少々の雨風ではびくともしないようなものだ。高さも普通の大人の背丈を優に超える高さがある。狭いのは入り口ぐらいだろうか。
街は一応木の柵で囲われているが、余り頑丈そうではない。せいぜい野犬を防ぐ程度の役にしかたたないのではないだろうか。
フーガンが、コウ達に少し待ってもらうように頼み、街のテントの中でもひときわ大きなテントの中に入っていく。暫くすると話が付いたのだろう、フーガンがテントから姿を現し、ほぼ町の中央にある木造建築の建物まで案内される。どうやら集会場のような感じだった。もっとも、床張りの板の上にクッションが並べてあるだだっ広い部屋の他は厨房や倉庫ぐらいしかない建物だったが。自分が代表として中に入り、他は外で待機とする。
料理をすると言われたので、1体のヒポグリフの死体を料理の担当者らしき人物に渡す。渡した後はクッションに座っているように頼まれたので、座って待った。クッションと言っても薄いので、余り弾力性はなかったが、そういうものだろうと割り切る。他に並べてあるのも同じなので、別に粗雑に扱われているわけではない。
30分も経たないうちに、ソクスのお偉いさんと思われる人々が姿を現し、各々クッションに座っていく。幾つかクッションを追加し、全員が円になる形でクッションに座った。その中にはリーダー格の男もいる。
その中の独りの老人が口を開く。
「皆の者。忙しい中良く集まってくれた。中には事態が理解できない者も居よう。結論から言えば、火急の案件であったヒポグリフの集団の討伐は終了した。ここから先はフーガンに説明してもらおう」
老人がそう言い終わると、先ほどから案内をしてくれていた男がクッションから立ち上がる。
「まず、長老会議により、ヒポグリフ3体の討伐はこのソクスにいる冒険者、及び戦士をもってしても討伐は困難で、被害が出すぎるため、今日この町を出立し、イコルで冒険者を募る、ということになったのは記憶に新しいと思います」
「そうじゃ、それがなぜ戻ってきて、わしらをもう一度集めるんじゃ」
先ほど話したのと別の老人が口を出す。
「先ほど長老がおっしゃったように、結論から言えばヒポグリフは実は5体いて、5体ともここにいる冒険者のコウ達のパーティー“幸運の羽”によって討伐されました。そのうち1体はすでに料理中です」
「そんな馬鹿な。騙されておるのではないのか」
「信じられん。まだ成人して間もないような若者ではないか」
そんな言葉があちこちで交わされる。
「いえ、私も、隊の皆も、ヒポグリフの死体を見ました。彼は収納持ちですので死体を全部持っていたのです」
「他のところで倒したものまで、見せたのじゃないのか」
「いえ、死体を見せる前に我々は殆ど情報らしい情報を彼らに話していません。それに彼らには我々をだます動機もありません」
「ここまで来たんじゃ、より良い馬を買うために恩を売ろうとしたんじゃないのか」
ああ言えばこう言うという風に中々、長老たちは納得しない。
「一応モンサナー商会の会頭さんから、カントさん宛に紹介状は貰ってきてますよ」
コウがそう言うと、長老たちが一斉にコウをみる。
「見せてもらってもかまわないかな」
長老たちを代表してだろう、そう族長がコウに話しかける。コウは紹介状を族長に手渡した。族長は封蠟と名前の筆跡を見て
「間違いないな。この者たちは、わしらが思っているより、よほど大人物らしい」
そう断言する。
「するともしかしたら……」
「うむ」
話の流れが、コウを胡散臭げに見る様子から、期待をかける様子へと変わっていくのが分かる。これはあれだ、定時で帰ろうとしたら、追加の仕事を押し付けられるパターンだ。いや違う今は公僕じゃなかった。嫌なら断ろう。
「散々疑って気を悪くされたろうが、実は頼みたいことがある」
族長がそうコウに話しかける。コウはやっぱりね、と思った。
「実は、しばらく前にこの付近をグリフォンが縄張りとしたらしい。もうすでに死者が5人、馬の被害が15頭出ておる。この町の冒険者ではグリフォンの討伐ができるものはおらん。頼む。その腕を見込んで討伐を引き受けてはくれまいか」
族長がそう言って頭を下げる。まあ、ここで引き受けないのは正直気まずい。しかもカントさんが帰ってくるまで、この町に滞在しなければならないのである。
「えーと。一応自分たちの目的はカントさんから馬を買うことなので、行き違いにならないよう、もし討伐で町を離れている最中にカントさんがこの町によったら、引き留めておいてください。それと、直接ではなく冒険者ギルドを通じての指名依頼でお願いします。料金は相場でお願いします」
「おお! 勿論だとも、感謝しますぞ」
長老たちの顔が明るくなる。
「そう言えば、ヒポグリフの料理を頼んであるのでしたな。今日は堪能してくだされ。秘蔵の酒も出しますぞ」
「ふむ、それではわしは秘蔵のたれを出しますかのう」
「おおあれで食う肉は、絶品じゃからのう」
元来が宴会好きなんだろうか、直ぐに宴会の雰囲気が作られていく。せめて着替えさせてくれと、宿として使われているテントに案内してもらった後、集会場で明け方近くまで宴会をすることになってしまった。
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