第53話 そうだダンジョンに行こう

 この世界で2週間ぶりにジクスの冒険者ギルドへと向かった。今日は依頼は受けず情報収集に寄るだけのつもりなので、武装なしの平服で出かける。朝はのんびり過ごしたので、ギルドに着いた時にはもうお昼に近かった。

 ギルドの扉を開けると、レアナが元気よく声をかけてきた。


「コウさん、お帰りになったんですね! 本日はどのような用件でしょうか?」


「今日はこの辺りのダンジョンについて諸々教えていただきたいと思ってね。まあ、初めのうちあまり深く潜るのは難しそうでも、何かお金が稼げるような依頼があったらチャレンジしてみようかなと」


 コウがそう告げると、レアナは少し驚いたような表情をした。


「えっと、王都方面から聞こえてきた噂話では、コウさんたちは王都でかなり稼いだそうですけど……」


「ま、まあ、それはそうなんだけど……ただ、いつまでも徒歩は不便なので、馬を買いたいと思ってまして。それに、うちのパーティーには普通の馬じゃ乗れないメンバーも居ますから、できればシンバル馬を買いたいと思ってるんだよ。しかし、聞いたところでは手持ちのお金じゃまだ全然足りなさそうなのでね」


 なんとなくバツが悪そうにコウは答える。


「なるほど、それでダンジョン攻略ですか。確かにうまくいけば一攫千金が狙えますからね。ただその分危険も大きくなるんですけど。あ、丁度お昼の休憩時間ですし、私で良ければご説明しますよ」


「ああ、それは助かる。是非お願いしたい。勿論、昼食代はこちらで持つよ」


 コウのその言葉にレアナは心の中でガッツポーズをとる。一方、コウの方は何か背中に寒気を感じていた。酒場の方にたむろす男たちが向けてくる視線のトゲトゲしさが、何やら5倍くらい増量したような……。魔法や魔力を込めた眼力などは検出されなかったのだが……


 ギルド内になぜか不穏な空気が漂ってきたので、そそくさと近くのレストランへと場所を移した。そこで軽食を食べながら、話をしてみる。


「コウさんたちは、ダンジョンについてどのくらい知ってますか?」


「うーん。どのくらいと云われると説明しにくいんだが、一般的なことは知ってると思う。ただ、自分たちの生い立ちは特殊だから、知識には抜けもあるだろう。だから、初心者と思って話してくれるとありがたい」


「なるほど、分かりました」


 愛想よく応えると、レアナはコウに説明を始めた。


「先ずダンジョンというのは大きく3つに分類されます。先ずは遺跡。古代の遺跡に限らず、滅んでしまった国の都市や城の跡がこれに当たりますね。戦争で滅んだところは何も残ってないところが多いですが、稀に後からそこに来たモンスターや根城にした盗賊がお宝を貯めこんでいる場合もあるので、その手の噂があれば行く価値はあるでしょう。場所も判明してますし、元々人が住んでいたから、比較的行き易いのも利点ですね。場所によっては盗賊などの根城にならないよう定期巡回の依頼を出している所もあります。

 古代の遺跡というのは当たり外れが大きいですね。とんでもないお宝が見つかることもあれば、何にもなかったりすることも多いです。すでに何度も探索されたところは、先ほど述べた滅んだ都市と同じような感じですが、大密林や砂漠など極限地帯にあると言われる伝説の遺跡、又は未発見の遺跡には凄いお宝が眠ってる場合があります。

 次は自然にできた洞窟などですね。これも住処にしているモンスターによってかなり当たりはずれがあります。中にはモンスターもいない金鉱脈の洞窟を見つけた冒険者もいます。逆にドラゴンの住処になっていて、全滅したり、命からがら逃げてきたという話も聞きますね。

 最後は魔法的なダンジョンです。未だに仕組みは解明されてませんが、ある日突然ダンジョンの入り口ができるんです。その内部は様々ですが、たいていは石造りの通路や部屋があり、通常では考えられない密度でモンスターがいます。そして少しずつ成長していきます。最下層にはダンジョンのボスがいるのですが、それを倒せばダンジョンの成長は終わります。でも、いつの間にかモンスターもダンジョンのボスも復活するんですよ。まあ、一回倒してしまえばそれ以上強くなることはないんですけど。

 倒さないと、ダンジョンはどんどん深く複雑になり、ボスも強くなります。それだけなら良いんですが、何らかの原因でダンジョンからモンスターがあふれ出すことがあり、その時に強いボス、たいていはドラゴンですが、そういうボスがいると国が滅ぼされたりします。ちなみに今の魔の森と呼ばれる所は、昔そうやって滅ぼされた王国だそうです。なので、ある程度までは放っておかれますが、手に負えなくなる前にボスの討伐隊が組まれることが多いです。色々と謎の多い魔法的なダンジョンですが、宝箱やモンスターが自然にわいてくるため、冒険者の人気が高いです。階層により敵の強さが変わるというのも大きいですね。自分の強さに合わせた階層で戦えますから。

 ざっとこんなところでしょうか。どうです? 参考になりましたか」


 レアナが丁寧に説明する。知っていることの方が多かったが、知らない部分もあった。特にドラゴンが勝手に発生するなど初耳だ。


「ありがとう。十分に勉強になったよ」


「いえいえ、とんでもない、コウさんたちは期待のパーティーですからね。お役に立てれば何よりですよ」


 そう言って、レアナはコウにとっておきの笑顔で微笑んだ。


「参考までに、レアナのお勧めのダンジョンはどれなんだい」


「そうですね、やはりここから約1日の距離にある、魔法的なダンジョンですかね。もう10年前に“暁の星”のパーティーによってクリアされたんですけど、その深さは100階層。この近くでは断トツに深いです。それに、すべて石造りの通路や部屋というのも良いようです。

低階層ではそうでもないですが、地下10階より深くなるとかなりのお宝が期待できます。

その分、敵も強くはなりますけど。

 ダンジョンボスはリッチロードですね。並のドラゴンより強いです。そのせいかどうかは分かりませんが、アンデッド系のモンスターの出現率が高いです。僧侶や魔法使いが居ないコウさんたちのパーティーにはちょっときついかもしれませんね。

 ちなみにクリアした“暁の星”のリーダーが今のジクスのギルドマスターのオーロラさんなんですよ」


 レアナはちょっと自慢げに言う。


(どうしますか? ある程度周囲をナノマシンに探索させ、最も効率の良いダンジョンに行くことも可能ですが)


 ユキが思考通信で尋ねてきた。


(いやあ、それは却下だ。それだと、ナノマシンが調査し終えたダンジョンの確認作業になってしまう)


(承知しました)


 確かにお金が目的だが、そこまでやるならいっそ、白金のインゴットでも合成した方が早い。目的は達成するべきだが、目的を果たす過程も大事なのだ。何でも機械に丸投げは好みではない。

 そういうことで、“幸運の羽”の次の目的はレアナのお勧めのダンジョンに行くこととなった。勿論目指すは最下層攻略である。

 今日はこの後アンデッドに効果のある聖水やポーションなどを買いに行こうと思いつつ、コウはギルドの建物の前までレアナを送っていって、そこで別れた。

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