第52話 馬を買いたい

 次の日の朝早く王都を出発しジクスへ向かう。なんだかんだでこの星でいう約2週間をかけてしまった。まあ、楽しめたし、収穫もあったので満足のいく過ごし方だった。

 コウ達の横をパカパカ、ガラガラと馬の軽快な足音と車輪の回る音を響かせ、商人の荷馬車がゆっくりと通り過ぎていく。馬で引いているといっても、引いているのが荷馬車なので人が歩くよりちょっと速いという程度だ。

 それを見ながらコウが言う。


「そうだ、今度は馬を買おう」


「藪から棒に、突然何を言い出すんですか」


 ユキが怪訝そうにコウの顔を見る。


「いや、やっぱり長旅をするのに馬はいるかなと思って」


「なぜですか?」


 そうユキは聞く。この身体は疲労するということがない。速く走ろうと思えば馬よりも速く、ずっと走り続ける事が出来る。それにいざとなれば目的地まで一瞬で転送することもできる。荷物は基本的に亜空間ボックスの中なので、荷物が多くて困ることはない。必要性が感じられなかった。


「ん? 気分の問題。それにいくら疲れないといっても、馬の背中に乗って旅したほうが楽に思える」


「気分の問題じゃ仕方ないんじゃね」


 サラが賛成の声を挙げる。


「しかし、わたくしやユキはそのままでは乗れませんわね」


 確かに、冒険に出るときの格好ではマリーは言うに及ばず、ユキでさえもそのまま乗るのは厳しいだろう。そのまま乗ろうにも、横座りしようにも金属部分が邪魔になってしまう。一瞬で着替えられるマジックアイテムがあったら、即購入していたのだが、収納魔法が珍しいように、別の空間にものを収める魔法自体が難しいらしい。

 それでも収納ボックスや収納バッグという、見かけよりはるかに多くのものを収納できるマジックアイテムはあるらしいが、金で買えるようなものではないようだ。そんな世界で、直ぐに着替える事が出来る手首のリングのことが知られたら、大騒ぎになること間違いなしだ。


「そうだ、ユキとマリーは闘技場で走ってるような戦車に乗ればいいんじゃねえかな」


 サラが良いことを思いついたという風に言う。


「いや、それものすごく目立つから。それに、平地を行くだけならともかく、走破性が低すぎる」


 コウがすぐに反論する。


「じゃあ、後は立ちながら乗るとか」


 他人事なのでサラは適当なことを言う。


「そんな見世物じゃないんですから、わたくしはいやですわ」


 まあ、マリーの気持ちもわからないでもない。立ち乗り自体は難なくできるだろうが、戦車以上に目立ちそうだ。


「座椅子に座った状態でしたら可能かもしれません。足を伸ばして座れるように多少鎧の形状を変更する必要がありますが」


 ユキがしばらくして言う。


「北方の方に、大型の馬の産地があります。シンバル馬という馬で、普通の馬が大体500㎏前後なのに対して1500㎏から最大では3000㎏になるものもいるそうです。足が太く最高スピードは他の馬に劣りますが、体が大きい分通常の歩く速度は他の馬よりも早いようです。また力が強く、持久力にも優れています。戦馬としての需要が高いようですね。

 またがって速度を生かして槍で突撃するというより、背中に特殊な鞍を付け弓兵を数人乗せて、弓兵を機動的に運用するか、その力を生かして大量の補給物資を運ぶのに使われているようです。

 古代の戦象?のような感じでしょうか。それよりはさすがに小さいですが」


「よしそれだな。次は北方に行くような依頼を受けよう」


「いえ、直ぐに買いに行ってもお金が足りません。シンバル馬は最低でも1白金貨、高いものになると3白金貨を超えるものもいるようです。子馬でしたら話は別ですが……。インゴットを合成すれば良いのですが、それは嫌なのでしょう?」


 思ったより高かった。王都では闘技大会で大儲けしたが、普通に考えて白金貨レベルが稼げる依頼がごろごろ転がっているとは思えない。かといってここでインゴットを作ってしまうと色々歯止めが利かなくなる気がする。


「もう一回王都に行って、賭けでかせげばいいんじゃないかな」


 サラが軽く言う。


「それは不可能です。コウは100%勝つとわかっているからこそ、賭けに出たのです。私がはじき出す確率100%ですら|賭け(・・)なのですよ。ギャンブルなどしたらお金が無くなります」


 うーん。自分の運がないことは自覚しているが、それはちょっと言いすぎじゃないかなとコウは思う。


「それは、現状が証明しています。複数の敵艦が同時にワープを失敗し、同地点にワープアウトし、それがたまたま超新星爆発を起こす寸前の赤色巨星で、たまたま回転軸がこちらの艦隊に向くように爆発するなんて、100%ありえない事といってよいでしょう。しかしそれを起こすのがコウなのです」


 ユキの力説に、コウは何か言い返そうと思ったが、言い返せなかった。流石に起こしたなんて言いすぎだと思うが・・・。


「ま、まあ、それで生きてるんだから、ある意味凄いってことで……」


 サラがかばってくれる。サラお前意外と良い奴だな。ピーキーな性格とか思ってごめんよ。


「まあ、金を稼ぐ手段は依頼だけじゃないし……。何か他のことを考えよう」


「例えば?」


 サラもユキの迫力に押されたのか、こちらを向いて尋ねてくる。


「ダンジョン攻略はどうだろう。確かジクスの周りにも幾つかあったはずだ。うまくお宝が入れば問題解決だし、お宝がなくても情報が手に入る」


 コウの提案にみんなが納得し、ジクスの冒険者ギルドで情報を聞き適当なダンジョンを決めるという事で次の方針が決定した。



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