第26話 (転職活動クエストテスト3-2)テストは完了だけど・・・

 コウ達は標的が丘から離れないか、注意しながら丘へと向かっていく。森に入って2㎞ほど進むと丘につく。丘は森の木の高さに隠れるぐらいの高さしかなく、大きさも直径500mぐらいのほぼ円形のものだ。

 ユキ達が予定の配置に着いたのを確認し、コウは丘の上まで登っていく。ちなみにゴテゴテした鎧を着たマリーだが、遮音フィールドを展開し、標的に気付かれることなく、入り口付近に隠れている。

 コウが丘の頂上まで登ったピッタリ10秒後、ユキとサラは超指向性爆薬を、最後に薄壁一枚残る量で爆発させ、計算通り残った薄い土壁に突っ込んで破壊する。女性が捕らわれている洞窟内の小部屋へと出る。見張りらしきゴブリン2体の首を手刀で千切り飛ばす。

 女性は生きてはいるものの、見るも無残な姿で、泥にまみれ、涎どころか糞尿も垂れ流しの状態だった。正気かどうかも怪しい。

 躊躇うことなくサラが2人、ユキが1人を抱え、プラズマ拡散手榴弾を洞窟のなるべく中心に行くように放り投げる。ユキとサラが洞窟から脱出した1秒後、目がくらむ閃光と共に数万℃にも達するプラズマが洞窟内を荒れ狂いすべてを蒸発させてゆく。

 コウはプラズマの閃光と共に矢を放ち入り口付近にいた2体のゴブリンを射殺す。辺りを索敵するが、残敵の反応はない。

 コウとマリーはユキ達の所へと向かう。助けた女性は、1人がヘラヘラと涎を流しながら笑っており、残りの2人はブツブツと意味の無い言葉を喋っていた。残念ながら正気の可能性は低い。

 正気に戻す事は可能だが、出来ればこれ以上は、この世界の魔法かポーションに頼りたかった。

 “嵐の中の輝き”の面々が近付いてくる。


「何をしたのか判らねえんだが、教えてくれないか?」


 パーティの代表といった感じで尋ねてくる。恐らくみんなが聞きたいのだろう。


「洞窟を見つけたのですが、女性の声が聞こえたような気がしまして、念のため調べると丘の端、入り口からは奥になるのですが、そこから発せられているのが判りました。後は爆薬というツシドで使われている兵器で穴をあけ、女性を助け、マジックアイテムの炸裂弾で中のゴブリンの集団を殺しました。確認はしてませんけど、多分全滅したと思います」


「まあ、出口でこれじゃあな。中にいた奴は全滅だろうよ。お宝も全滅だろうけど」


 そう言って、まだ冷え切っておらず半分溶けた状態の石を見ながらザッツが言う。他の面々も口を出すべきかどうか、はたまたどうすべきか、悩んでいるようだ。しばらく気まずい雰囲気の沈黙が流れる。


 何度か口を開いては閉じることを繰り返し、決心をつけるためか、一度深呼吸をした後ザッツはコウ達に向かって言う。


「まあ、正直お前たちの言うことを全部信じられるわけじゃねえ。本当に女が悲鳴を上げてたとして、どうやって外からその位置が分かるのか、俺には分からん。爆薬やマジックアイテムについても分からんが、目の前で使われた以上そういうものがあるんだろう」


 いったん言葉を区切って、自分にそして仲間に言い聞かせるように言う。


「こんな広範囲に威力があるマジックアイテムがあるんだ。多分毒の煙を発生させる、なんてものぐらい持ってるはずだ。俺も聞いたことがあるぐらいだからな。それを入り口で使って奥に煙を送り込めば、俺たちに怪しまれずに楽にゴブリン達を倒せたはずだ。

 だが怪しまれる危険を冒しても、女たちを助けた……俺はコウ達“幸運の羽”はCランクにふさわしい信用にたるパーティだと思う」


 そう言うと、“嵐の中の輝き”の他の面々をみる。どの顔も微妙に納得できないが仕方がないという、なんとも煮え切れない顔をしている。


「異論があるやつはいるか」


 ザッツが自分のパーティメンバーに向かって尋ねる。しばらくした後、


「聞きたいことがあるのは事実ですが、冒険者同士、過去を詮索するのはご法度なのでやめときますよ。出来れば死ぬ前に冥土の土産に聞きたいものですが。Cランクパーティになるというのは私も賛成ですよ」


 とハルガンが答える。その答えが皆の総意みたいで、他には誰も声を上げない。


「じゃあ、テスト合格だ。この洞窟の中は調べるのは嫌だから、念のため、他の冒険者に依頼して2、3日おきに、周辺を2週間ほど見てもらおう。ああ、金は俺たちが出すから心配すんな。俺が確認するのが嫌なだけだからな。ただ、魔石や討伐証明部位の金はもらえないからそこは勘弁してくれ」


 子供の背丈くらいのゴブリンが、かがんで移動するような洞窟である。ザッツではたとえ腹ばいになっても肩がつかえて入れないだろう。報酬に関しては元々本来ならもらえない報酬なので問題ない。むしろ、申し訳ない気持ちの方が湧き上がる。


「それにしても、女3人連れの集団か、何匹いたかは分からねえが、ちっと、気になるな」


 ザッツは話題を変えて、疑問に思っていることを口に出す。


「どういう意味です?」


「前に説明した通り、ゴブリンどもは巣の中に数が多くなると、4、5匹の群れで新しい巣を作りに徘徊する。その時に巣にいる女やメスを連れていくことはない。それに、依頼があった村から被害の報告もない。女が3人もつかまっていたといや、100匹のゴブリンロードが率いる群れでもおかしくはない。だが、その割には巣が貧相だ。しかも大きな群れがこんな村の近くに出来ていて、今まで気づかないわけがない。数が多くなりゃそれだけ行動範囲も広がるからな」


 ザッツが冷静に状況を分析して話す。筋道が立っており、やはり戦いだけの男ではない。パーティーリーダーを務めている理由がよくわかる。


「群れが丸ごと最近移動してきたって考えが一番しっくりくるが、理由が分からねえな。ハルガンはどう思う」


「普通なら、冒険者が巣を全滅し損ねて逃した、という線が一番あるパターンなのですが、そんな話は近隣では聞いてませんね。失敗を黙っている、という可能性もありますが、バレた時のリスクを考えるとその可能性も低いですね。無いと言い切れないところが悲しいところですが……」


「逃したというレベルの数じゃない」


 辺りを調べていたミストがぼそりと言う。


「どれぐらいの数がいたと思う」


「少なくとも50以上、ゴブリンジェネラルが2体以上」


「そんなにか」


 ザックが少し驚いた声で言う。それだけの規模が逃げ出したとあれば、元の群れは100匹以上、Dランクだと7,8パーティ、Cランクでも2パーティー以上が必要な戦力である。そんな規模の依頼はザッツは聞いたことがなかった。


「依頼は完了だが、このまま立ち去るには、どうも引っかかることが多すぎる。ちと辺りを調査しようと思うんだが、わりぃが、お前さん達も手伝ってくれないか」


 コウは問題ないと頷く。こういう時の人間の勘というものは馬鹿にできない。それは、いやと言うほど戦場で味わった経験によるものだった。


 幸いなことに、というべきか、調査を開始する前に、原因が向こうからやってきた。



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