第25話 転職活動(クエストテスト3-1)

 次の日、朝同じように2回鐘が鳴ってから宿を出る。ここから冒険者ギルドまでの店の料理はあらかた買ったので、今日はまっすぐにギルドへ向かう。

 ギルドに着いて、レアナに尋ねると今日もテストを受けられるそうだ。コウは少し疑問になったので聞いてみる。


「Cランクの依頼というのは毎日あるものなのか?」


「そうですね。Cランクというのはそこそこ危険なクエストですから、普通は毎日あるようなものではないんですけど、この街はちょっと特殊なんですよ」


 王都から馬車で1日、頑張れば歩いても1日という距離にあり、元々宿場街として栄えていたこと。王都は入出管理が厳しいが、ここはそうでもないこと。直轄地で関税は王都で取られるため、ここでは関税は取られないこと。南西の直ぐ近くにはパズールア湖という湖が広がっており、そのせいで南への街道と東西の街道がここで合流している事。魔の森と呼ばれる高ランクモンスターの生息地が近く、素材採集や討伐の依頼が多いこと。そのため冒険者の数自体が多いこと。周辺にCランク以上のパーティーが多数常駐するような大きな街がないこと。常駐冒険者が多いため、王都の冒険者ギルドを筆頭に幾つかの街とクエストを共有していること。王都が近いため高ランクの護衛依頼が多いこと。

 細かいことはまだいろいろあるが、大体以上のような理由で依頼数自体が多いことを教えてくれる。それに、冒険者ギルドの本部は形式上は王都だが、実質的にはここジクスのギルドがこの国の本部らしい。


「では、今日の依頼の説明をさせていただきますね。ちなみに今までの2回の依頼の評価は2つともSですよ。凄いですね。この調子だと今回の依頼を完了したら正式にCランク冒険者になれそうですね」


 そう言ってレアナは依頼の説明をするため、酒場のテーブルへと向かう。


「今回は街道沿いに西へ1日ほど歩いたところにある村の近くで、ゴブリンが複数目撃されたので、その討伐ですね。もし巣があれば探索と殲滅、巣の中に生きている人間がいた場合その救出も含まれます。報酬は5銀貨、討伐したゴブリン1匹につき50銅貨ですね。ただ討伐証明部位か、魔石が必要です。討伐証明部位は首の骨ですね。

 一応説明しますと、ゴブリン自体はFランクモンスターですが、繁殖力が強く、成長も早いうえ、オスは人型であれば大抵の種族と交配して繁殖できるため、一旦増え始めるとかなり厄介なモンスターです。さらにある程度増えると、群れを率いるEランクモンスターのゴブリンジェネラル。さらに100匹以上になるとDランクモンスターのゴブリンロードが現れます。今回は村に近く発見されたばかりなので、そこまで大きな集団というわけではないのかもしれませんが、一応目撃数が4、5体いた、ということなので、すでに巣がある可能性を考慮して、依頼のランクがCとなっております。

 気分が悪くなるのであまり話したくはありませんが、オスは同じ種族のメスより、人間の若い女性を狙う傾向があり、さらに死んでしまった女性を食べてしまうという習性があります……」


 レアナが嫌悪感を隠さずに説明する。

 昨日と同じぐらいの時間に“嵐の中の輝き”がギルドにやってきて、受付嬢から説明を受ける。予想通り今回の補助パーティも“嵐の中の輝き”のようだ。


「よう。最後かもしれねえが、今日からまたよろしく頼むぜ」


「こちらこそ」


 そうザッツとコウは挨拶をかわし、早速出発をする。


 あいにくと今日は夕方から小雨が降ってくる。今回行く村は、昨日の村よりも大きく30軒ほどの家があるみたいなので、どこかの家に泊めてもらうことができるだろう。

 日暮れ近くに目的の村につく。ゴブリンを退治しに来たことを告げると歓迎され、夕食をごちそうになることができた。麦がゆと干し肉、野菜スープという素朴なものだったが、それはそれでおいしい。というか軍用レーションなど、この麦がゆより不味い。

 つくづく思うが、軍需産業の食料部門は軍人に恨みでもあるのだろうか。それとも兵站部門に問題があるのだろうか。もし元の世界に帰る事が出来たら、絶対に問い詰めてやると決心する。

 夜は村長の家と、その次に大きな家に泊まることができた。


 次の日は昨日と打って変わって快晴である。雨の後のせいか空気が澄んでいる。瑞々しい草の香りが漂っている。

 村の目撃者に話を聞くと村の5㎞程北にある森の端で4、5匹のゴブリンを見たそうだ。幸いなことにまだ村に被害はないとのこと。


「はぐれゴブリンかな。巣が大きくなると、5匹前後で新しい巣を作りに徘徊するんだ。まあ、もしかしたら近くにもういないかも知れないな。そうなったら追跡が面倒だが。ま、お前さんたちの腕を期待してるぜ」


 そう言ってザッツはコウの肩をたたく。なんだかんだで世話になったパーティである。あまり時間をかけずに、依頼を終わらせることにしよう、とコウは思った。


 今回は趣味より、任務完了時間優先にする。というか、どこにいるか判らない目標を探すのは面倒くさいし、それにずっと付き合う“嵐の中の輝き”に悪い気がする。これが目標がドラゴンとかいうのだったら、探索も楽しみの一つになるのだろうが、ゴブリンのデータを見る限り、それを探す旅は冒険譚にはなりそうにない。さっさと殲滅して帰りたい。

 そう言えば気になる事として、ゴブリンが人間の女性と繁殖できるというのがあった。遺伝的に近い魔族との繁殖は出来ないのにどうしてだろう。そう思いユキのこっそり思考通信で尋ねる。


(サンプルを直接採取し、生体観測を行なっていませんので確実とは言えませんが、所謂、捕食寄生に近いものだと思われます。つまり他生物の卵子に寄生して成長し、最後にはゴブリンとして生まれるという感じでしょうか。ただ、地球の捕食寄生と違い宿主を食い殺さないようですね。その代わり多産をするように進化したと思われます)


 ……やっぱりさっさと殲滅して帰るに限る。


 村から出ると、早速、探知範囲を森の中まで広げる。すると情報と違い100匹を超えるゴブリンが森から少し入った丘にある洞窟にいる。生命反応が強い個体も複数いる。洞窟はまだ新しく、掘削して広げている途中のようだ。そして人間の女性の反応も3体あった。


 コウ達は悩む。殲滅するのは簡単である。コウが持っている弓の最大射程は30㎞に及ぶ。小型核融合式の鏃を使用すれば半径10㎞は更地にすることができ、炸薬式の鏃でも丘ごと吹き飛ばすことは可能である。幸いにして夜行性なのか標的は、すべて洞窟の入り口付近か洞窟内にいる。威力はそういう弓だとごまかすにしても、女性が3人居るのが問題だった。

 もちろん跡形もなく吹き飛ばすのだから、初めからいなかった事にすれば、バレはしないだろう。後は良心の問題である。これが作戦上必要な犠牲なら、コウはためらいなく犠牲にすることができる。ただ、面倒くさいからと言って犠牲にするのはためらわれた。


 探知した画像を頭の中で3D画像に変換し、考える。戦力的に洞窟内に潜入し、戦っても被害はないと思われるが、洞窟が狭すぎ、下手に戦うと崩れる恐れがあった。しかも、コウ達のメイン武器はどれも大型で、振り回す空間がほとんどないため、戦闘自体にフラストレーションがたまりそうだ。また何らかの侵入者用トラップがある可能性も否定できない。

ナノマシンや外部独立ユニットで殺すと、死に方がどう見ても不自然なため、どんな方法で殺したか解析されないとも限らない。“嵐の中の輝き”がいなければ自分たちが殺したとはバレないし、そのうち腐るので何とかなるだろうが……今回は多少無茶な方法でも、自分たちが戦っている姿は見せる必要がある。

 しばらくして考えをまとめると思考通信で各員に伝える。


(本作戦は女性の救出を優先するとする。まず配置を洞窟の入り口にマリー、女性のとらわれている最も近い場所にユキとサラ、丘の上に私という配置にする。

 第1段階で丘の外から、女性のところまで穴を掘削し、女性を救出する。第1段階の行動は隠密を旨とする。

 第2段階で洞窟内にプラズマ拡散手榴弾を投入、恐らく敵の大部分はこれで消滅すると思われる。

 第3段階、マリーと私による残敵掃討。これにユキとサラは参加する必要はない。救出した女性の保護を優先すること。

 作戦開始は私が丘の上に待機してから10秒後、何か不測の事態が起きたときは思考通信で連絡する。以上質問は)


 ユキ達は無言で了解の意思を伝える。


(では作戦開始)


 コウ達は森に向かって歩き始めた。ちなみに加速剤を使用し作戦会議をしていたので、索敵から作戦会議終了まで、実時間で1秒もかかっていない。“嵐の中の輝き”の面々には、コウ達が森の方を見て歩き始めるのに、一瞬立ち止まったように見えただけだった。

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