第24話 実はピンチだった

 何とか門が閉まる前に街につくことができる。冒険者ギルドの受付と交換所もギリギリ開いていたので、依頼の終了報告と素材の換金を行う。素材は全部で10銀貨だった。ザッツにそのまま渡したらまた断られたので、昨日と同じく半々にする。


 今日は宿のレストランでコヌイ料理が食べられるはずである。宿でセラスが迎えてくれる。


「日が暮れてしまったので、クエストに出発してお戻りになられないかと思ってました」


 そういった後、小声で話しかけてくる。


「実はもう少しで、せっかく作った料理を無駄にする気かって、料理長が爆発しそうだったんですよ。もし、料理を頼んで、街に帰れそうにない依頼だった場合、依頼を受けた段階で、キャンセルの連絡をいただけると助かります」


 確かにその通りだ。コウは気が回らなかったことを反省する。時間をかけた料理というものを食べる習慣がなかったため、また、料理を保存できないという考えがなかったため、コウも他の3人も誰も気づかなかった事であった。


 部屋に入って着替えると、すぐに1階のレストランへと向かう。レストランはほぼ満席だったが、テーブル同士が離れており、余り満席という感じはしない。自分たちのテーブルには、時間を伝えていなかったにもかかわらず“予約席”のプレートが置いてある。


 席に座るとウェイターが飲み物を何にするか聞いてくる。迷惑をかけそうになったことだし、ここはちょっと奮発しておこうと、一番高いスパークリングワインを頼む。まあ、一番高いと言っても5銀貨なのだが、クレジットに換算すると5万クレジットで結構な額である。だんだん金銭感覚がマヒしているようだ。


 スパークリングワインと一緒にコヌイが1匹ずつ大皿に盛られて運ばれてくる。こうしてテーブルに置かれると結構でかい。内臓が抜き取られており、そこに香草や野菜が詰まっている。中まで火が通るようにじっくり焼かれたのだろう、中に入っている野菜もホクホクである。さらに別の野菜で作ったとろみのあるスープが全体にかかっている。


(これを台無しにされたら、そりゃ怒るわな)


 コウはちゃんと次から注意するよう心に刻み込む。

 ウェイターが4人のグラスにスパークリングワインを注いでいく。このような食事をとったのはいったい何年ぶりだろうか。食事に関する限り、この惑星での生活の方が文明的な生活を送っているような気がする。

 取り分けた身を口に運ぶ。上品な白身の魚の甘さと、香草の香り、スープの塩加減が絶妙だ。うまいなあ、と感動していたら、他の3人が早くも2回目を取り分けている。


「一応言っておくが、早い者勝ちじゃなく、ちゃんと4等分するように」


 コウが釘をさすと、3人が3人とも不満そうだ。ユキお前もかよ!というかこういう時に人間臭さはいらない。サー、イエッ、サー、だけ言えばいいんだよ。食い物の恨みは恐ろしいとよく言ったものである。今まで実感したことがなかったが、たった今、実感することができた。だが、これだけでは不満が出そうである。量的には十分なのであるが……。これなら4匹頼むべきだった、と後悔しながらメニューを出す。ここはメニュー板に大きく書かれているわけではなく、テーブル毎にメニューの書かれている木札が掛けてあった。


「ほら、とりあえず何か他に食べたいものがあるなら、頼んでいいから」


 なんで自分がAIのご機嫌取りをやってるんだろう、と思わなくもなかったが、こういうことは考えたら負けである。


「じゃあ、あたいは子羊のソテーを1つ」


 早速サラが注文をする。


「私はシャルケのバター焼きを」


「わたくしはシャルケの卵のパスタでお願いしますわ」


「私はこのジャンボタニスのワイン蒸しにしようかな」


 ウェイターを呼んでそれぞれ1品ずつ追加する。そのころにはお酒もなくなっていたので白ワインのこれもまた5銀貨するものを1本頼む。

 自分の食べる分は確保して、改めて周りを見ると、着飾った人が多い。自分たちのような格好のものもいるのだが少数派だ。ここはドレスコードこそないが、暗黙の了解でそれなりの服を着てくるところのようだった。時間が出来たら2、3着ぐらいはちゃんと仕立てたものを作ることにしよう。

 そう考えながら、最後のコヌイの1切れを口に入れたころに、ジャンボタニスのワイン蒸しが出てくる。料理の出てくるタイミングもちゃんと考えられているのだろうか。サービス料とかどうなっているのだろう。まあ、金はいくらでも作れるとは言え、小市民の自分はなんとなく心配になってくる。

 ジャンボタニスは淡水にすむ巻貝だ。ちゃんと飼育しないと寄生虫とかがいるらしい。もちろんここで出されるものに、そんなものは入っていない。コリコリとした歯ごたえがあり、噛めば噛むほど甘みが出るような貝だった。


 今晩の料理は今までで最高の15銀貨と30銅貨である。そのうち10銀貨は酒代であるが……。サービス料などは取られなかった。もしかしてはるか昔にあったというチップ制という奴だろうか、と心配になってデータを調べてみたが、そんな習慣はないようだった。一安心である。


 食事を始めた時間も遅く、また比較的ゆっくり食べていたため、部屋に帰った頃には就寝時間になっていた。

 直ぐに寝るのもなんだと思い、グラスを取って、リビングのソファーに座る。亜空間から店で買っておいた蜂蜜酒と何かの種をローストした物を出す。

 特に声を掛けたわけではないが、他の3人もソファーに座る。蜂蜜酒をそれぞれのグラスに満たす。


「なんだかんだで、テストも後一回というところまできたな」


「今まで何事も無いのが不気味です」


 いやまあ、自分もそう思うけど、今言わなくても良いんじゃない、と、コウはユキのツッコミに思う。


「せめて最後ぐらいは、あたいの大剣で全力攻撃が出来る奴がでてほしいぜ」


「そうですわね。わたくしのせっかくの防御力も御披露目したいですわ」


 いや、今までの状況から考えて無理でしょ。それに多分最後の1回も補助パーティーは“嵐の中の輝き”の可能性が高い。自分達だけならともかく、彼等をそんな危険な目にあわせるのは気が引ける。


「まあ、とにかくだ、明日依頼が都合よくあるかどうかわからないが、テストの最後の1回頑張ろうではないか」


 そう言ってコウはグラスを掲げる。他の3人も掲げると、一気にグラスの中のはちみつ酒を飲み干した。これで解散したいところだが、せっかく出したつまみとはちみつ酒があと1杯ずつ分ほど残っている。なんとなく締まらなかったなと思いながら、つまみと酒を綺麗にたいらげて、就寝した。

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