第18話 転職活動(クエストテスト1-1)
コウ達は冒険者ギルドから外へ出る門へと向かう。門の横には露店があり、日持ちのする食料や水、酒、ちょっとした武器などが並べてある。それなりに繁盛しているようだ。コウ達もちらっと確認して、ランタン4つと油を購入し、門まで歩いていく。
門まで着くと外に出る人たちが並んでいる。列の後ろにつき、列が進むのを待つ。
自分たちの番になる。手続きは冒険者だったらパーティ名、パーティメンバー、依頼で出るのかどうか、帰還予定日を書くだけだったのですぐに終わる。ただ居合わせた隊長の視線が痛い。詰所はとりあえず大きな布が何枚も張られており、応急処置はしているようだった。
視線は痛かったが、特に何か言われるでもなく外に出る事が出来た。ここから東に少し離れたところに川があり、川沿いに北に1日、そこに支流があるので、支流に沿って北東に1日ほど行くと魔の森の端に着く。
ちなみにそこから北東に広がる森が魔の森で、支流の西は普通の森のようだ、支流の東と西で植生も生物も全く違うらしい。不思議なものである。
のんびりと、緑の草を踏みながら歩いていく。“嵐の中の輝き”は20m程離れたところを付かず離れずついてくる。
町からある程度離れると、念のため武器を亜空間から取り出す。後ろで“嵐の中の輝き”のメンバーが驚いたのが分かる。今更気にしても仕方がない、自分たちはそういうものだと慣れてもらおう。
「んー。良い天気だ」
黙って進むのも何なので、コウがしゃべる。取り敢えず天気の話は話題としては鉄板である。
「そうですね。青い空に白い雲、サンサンと輝く太陽。正面に見える山脈と裾野に広がる深い森。正に、何かの風景画のようです」
ユキが相槌を打つ。
「そういや、今から行く所って川の上流だろう。マヤメ穫れねえかなあ。昨日の晩飯、最後のホーンラビットの肉でお腹いっぱいになったけど、マヤメの塩焼きが一番美味かったんだよな」
サラが心なしかうっとりとしたように言う。どうやらサラは花より団子のようである。
「そうですわね。あれはなかなかのものでしたわ。あれを肴に白ワインをキューッと呑むのも良さそうですわ」
あれ?マリーって意外と酒飲み?と言うか白ワインってキューッと呑むもんなの?
と疑問が多少あるが、マヤメの塩焼きが一番美味かったのはコウも異論はない。
依頼中にのんびり釣りは出来ないだろうが、マリーの盾を川に突き立てて、サラの大剣で殴れば大抵の魚は獲れるはずである。それぐらいの時間は大丈夫だろう。一応テスト中の獲物は補助パーティーのものだが、食事の為の狩りは例外である。
1日の終わりに、天然の森の中で、天然のマヤメを、天然木を燃やした火で焼いて、天然ものの酒を呑む。想像しただけで涎が出そうである。
「それにしても何にも起きないな」
ボソッとサラが呟く。
「フラグかな」
「フラグですね」
「フラグって何のことですの?」
サラが呟いて10秒も経たないうちに、今までバラバラに動いていたホーンラビットが自分達に気づいたのが判る。5匹のホーンラビットが移動して、自分達の300m程前方で待ち伏せを開始した。
「フラグは立てたものが回収する事。ちなみに毛皮とかも売れるから、なるべく傷つけないように、長針の投擲で倒すように」
いくら自分達の物にならないとは言え、雑に殺したら“嵐の中の輝き”の面々は面白くないだろう。自分達の補助の役割がなければ、ランク的には楽に小銭が稼げる獲物のはずである。
「えー! あたいはちまちました攻撃は苦手で、ドッカーンと全力攻撃するのが得意なんだけどなあ」
そう言ってる間に20㎝程の長針を5回投擲し、ホーンラビットの眉間に突き刺す。ホーンラビットは待ち伏せた姿勢のまま、なにが起きたかも判らずに命を失った。
(生命反応停止確認。2㎞以内に危険生物の反応無し)
念のためだろう、ユキが思考通信で連絡を入れてくる。歩いて5分もかからずにホーンラビットの死体のところまでやってくる。角の生えた大きなウサギという情報だったが、実際見てみると思ったより大きい。子豚ぐらいはあり、体重も10㎏以上はあるだろう。サラが根元まで突き刺さっている長針を抜いていく。
「やる気がないのか、がさつなのか、雑ですわね」
マリーが皮肉を言う。確かに長針はそれぞれの眉間の完全に中心には刺さっておらず、±1㎜程の誤差があった。
「いや、こんなもんでいいんじゃね」
サラが反論する。やる気もないし、がさつでもあるようである。だがまあ、この世界の基準に合わせれば十分な精度だろう。自分よりサラの方がこの世界に馴染み始めている気がした。
そうこうしてる間にお昼である。
「一緒にお昼をとりませんか」
コウが誘うと“嵐の中の輝き”の面々が近づいてくる。コウ達のところに来てホーンラビットが5体倒されているのを見ると少し驚いたようだ。
「戦闘をしているところは見なかったが……」
完全に動揺を隠せず、ザッツが尋ねた。
「投擲武器で倒したんですよ。ちなみに獲物はどうしますか? 自分たちで運びますか? それとも自分たちを信じて預けますか?」
ザッツはホーンラビットをどうするかより、他のことを色々聞きたそうな顔をしていたが、最後は折り合いを付け、
「俺たちが運ぶのは無理だな。運ぶんだったら血抜や内臓を取り出さないと傷んでしまうし、それをやっていたら補助パーティの役目は果たせないからな。基本報酬の金額がもらえれば十分だ。ただあんまり見つけるのに時間をかけるのは勘弁してほしいぜ」
コウは頷く。ホーンラビットの死体を亜空間へと収納する。収納し終わると、今朝買ったホットドッグと梨のような果物を取り出した。亜空間内では時間が停止しているので出来立てである。
「どうぞ」
と、“嵐の中の輝き”にも勧める。
「いいのか、ありがとよ」
と、機嫌良くザッツが手に取り、他の面々も受け取っていく。
皆で適当に座り、ホットドッグを食べ始める。ホットドッグは塩味を利かせた大きなソーセージをパンで挟んだものだった。肉汁と油がパンに染み込んでおり、十分おいしいものだったが、好みでいえばマスタードとケチャップが欲しかった。果物は思ったより水気があり、かじると果汁が滴り落ちる。梨というよりスイカのような味がした。だがそれはそれでおいしかったので、2個食べた。
食事も併せて30分ほど休憩すると、また森へと向かって歩き始める。“嵐の中の輝き”も少し離れていった。
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