第17話 転職活動(パーティー紹介)

 鐘が1回鳴ると同時に活性剤が注入され、コウは目を覚ます。ベッドから出ると適当に昨日買った服装、もちろんダミーの方だが、に着替える。横を見ると同じようにユキも着替えを終えていた。

 1階に降りていく。この宿の宿泊客は余り早く起きないためか、レストランには、商人らしき2人の男がテーブルに向かい合って座っているだけである。着いたばかりなのか、まだ食事も頼んでないようだ。

 座ると木板に書かれたメニューをウェイトレスが持ってくる。基本的にメインのセットを選び、スープ、飲み物を選ぶシステムのようだ。

 コウとユキはウィンナーのセットにオニオンスープと紅茶、サラはハムのセットに、オニオンスープとコーヒー、マリーはチーズセットにベーコンスープとコーヒーを頼む。ウィンナーは冒険者ギルドのものより塩味が薄く、代わりに香辛料が使われており上品な味がする。朝食でこれとは流石は高級宿である。

 食事を食べ終わり、紅茶をゆっくりと香りを楽しみながら飲む。これと比べたら、昨日の合成茶葉の紅茶など、ただの腐ったお茶である。合成茶葉にも色々種類があり、この料理にはこの紅茶が合うとかいう話を聞くが、天然物を飲んだ後ではどうでもいいことにしか思えない。というかきちんと成分を同じになるように合成しているのに、味が違うのはなぜだろう。軍は食事にこだわってはいけないという伝統でもあるのだろうか。まあ、違う世界なので紅茶と言いつつ別のものの可能性はあるが……。


 ゆっくりと朝食をとると良い時間になったので、そのまま冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドの前には昨日と同じく数人の冒険者らしき人たちが集まっている。恰好を見る限り裕福な生活は送っていないようだ。しばらくすると2回鐘が鳴りギルドのドアの鍵が開けられる音がする。集まっていた冒険者たちは競い合うように依頼ボードの方に向かっていく。どうやら基本的に依頼を受けるのは早い者勝ちらしい。


 受付にレアナがいたので話しかける。


「おはよう。今日テストは受けられるんだろうか」


「はい。マスターから今日できると聞いています。鐘3回の時刻に補助パーティの方がいらっしゃいますよ」


「その補助パーティの情報と依頼情報を事前に聞くことは可能だろうか」


 レアナは少し考えて言う。


「依頼情報をお教えするのは大丈夫ですけど、パーティの情報はごく簡単な事しか教えられません。基本的にパーティの情報をお教えするのは禁止ですし、変な先入観を持たれても困りますから」


「ああ、それで構わないよ」


 コウがそう言うと、レアナは受付を代わり、事務所の奥から分厚い本を取り出すと、昨日と同じく酒場のテーブルへと向かう。全員が席に着くと、レアナが説明を始める。


「まず依頼内容ですが、トティラ草という薬草の採取になります。単体でも治癒効果がありますが、基本上級や特級の治癒系のポーションの材料の一つです。生えているところが特殊で、魔の森と呼ばれるマナの密度が濃い場所や、ダンジョンの中しか生えません。探すこと自体はそこまで難しくはないのですが、強めのモンスターが出る地域を探索しなければいけないため、依頼ランクはCとなっています。今回はここから歩いて2日ほど北にある魔の森で採取を行います。ちなみにこんな植物ですね」


 レアナはそう言って該当ページを開く。茎の部分が長く、青いキャベツのような植物だ。確かにあったら目立っていそうだ、ただ余り美味しそうには見えない。


「依頼数は5つ。群生はしないので、結構広い範囲を探すことになると思います。運が良ければ1日で集められるでしょうが、普通は3日ぐらいかかりますね。今回コウさん達には関係ありませんが、成功報酬は20銀貨、素材の状態によって多少の上下があります。また余分に持って帰った場合、1個当たり3銀貨でギルドが買い取ります」


 以前見た“冒険者の心得”という本ではCランクパーティの依頼相場は、1日当たり5銀貨だったので、相場より若干安めである。尤も、多めに取れた場合や途中モンスターを倒す場合もあるので、採取の依頼としてはこんなものかもしれない。


「次にコウさん達に付くパーティーですが、“嵐の中の輝き”という5人組の男性パーティーです。前衛の戦士が3人、弓を使う中衛のレンジャーが1人、魔術師が1人ですね。

これ以上細かいことは言えませんので、紹介されたときに聞いてください」


「ところで、着替える場所はあるんだろうか。それとも、一回宿屋に帰って着替えてきた方が良いのかな」


 流石に街を歩く服で冒険に出かけるのはまずいだろう。強度的には何の問題もないのだが……出来れば目立つ装備は止めたかったが、昨日あれだけ目立ってしまった以上、装備しないのは余計な詮索を生むことになる。


「そうですね。一応上の会議室を使ってもらっても構いませんけど、3回の鐘が鳴る前に戻ってこられるようでしたら、宿屋で着替えられてもいいですよ」


 まだ3回の鐘が鳴るまで30分はある。街の外へ行くのなら、露店でもいいので、料理をまとめ買いしたい。そういった理由で宿で着替えることにして、コウ達は一旦ギルドを出ていった。


 宿で装備を変えた後、ギルド到着までの間適当に露店を見て回る。朝なので、料理の店というより食材を売ってる店が多い。時間もないのでサンドイッチ類や果物、何の肉かわからない生肉を箱ごと買っていく。亜空間の中は時間が進まないので、いくら買っても腐ることはない。これは収納魔法も同じようである。

 収納魔法が使えることには驚かれるが、収納魔法が使えるなら、と食材の購入量については驚かれない。あまり使わないようにオーロラには言われていたが、同時にどっちでもいいということも言っていたので、使ってもかまわないだろう。


 宿で着替えて、ギルドに入ったのと同時に、鐘が3回鳴る。


「おーい、こっちだよ」


 そう酒場の方から声がかかる。テーブルに5人の男とワヒウが座っている。テストを補助する“嵐の中の輝き”だろう。


「すみません。少し遅くなりました」


 先輩冒険者を待たせてしまったため、コウは謝る。先任者より遅く来るなど、軍だったら10㎞は走らされるだろう。気が緩んでいたようだ。


「いや、時間通りだし、気にするこたあねえよ。ただ単にワヒウとの事前打ち合わせのため、俺たちが早めに来てただけだしな」


 リーダーと思われる30代半ばの男が気さくに答える。


「まあ、元来冒険者というものは、きちっとした決まりを嫌う者が多いですから」


 と、40前後と思われるローブ姿の男が付け加える。


 ワヒウが隣のテーブルに座るように指さす。


「レアナから今回の依頼内容についてはお前さん方に説明したと聞いている。間違いはないな」


 ワヒウの言葉にコウは頷く。


「じゃあ、自己紹介からだな。まずはお前たちからだ」


 そう言ってワヒウはコウ達を見る。


「こちらのパーティ名は“幸運の羽”。そして私はリーダーのコウといます。後衛で、弓使いです。投擲、接近戦もある程度ならできます。こちらはユキ。中衛で、槍使いです。彼女も投擲、接近戦もある程度できます。こちらはサラ、前衛です。大剣をメインに使いますが、他の近接武器全般も状況に分けて使えます。最後にマリー。前衛で片手剣と盾による殴打がメインです。それといざという時パーティ全体の盾役をこなします。そして全員収納魔法が使えますが、逆に他の魔法は全く使えません」


 コウが一通り自分たちを紹介する。

 やはり最初にコウに声をかけた人物がリーダーだったようで、パーティを紹介していく。


「Cランクパーティ“嵐の中の輝き”だ、全員がCランク冒険者で、ここのギルド内だけでの評価だがC+ランクパーティだ。俺はパーティリーダーのザッツ、得物はこの両手剣だ。狭い場所では片手剣も使うがあまり得意じゃないな。もちろん前衛だ。こいつはピイド。片手剣と盾を使って戦う、まあ一般的な戦士だな。堅実な戦い方を得意とする。こいつはハザ。二刀流だ。スピードを生かした戦いをする。ただ、堅い敵は苦手だな。弓も多少は使える。こいつはミスト。お前さんと同じ弓を使うが、基本的に戦いより探索や罠検知で役に立ってもらってる。レンジャーってやつだな。接近戦は出来なくはないってレベルだな。最後にハルガン。パーティ最年長の知恵袋だ。魔法使いだが、低レベルの治癒、退魔などの神聖系の魔法も使える。接近戦はまるでだめだ」


 コウは紹介された人物を観察する。

 ザッツは身長2m弱、副ギルドマスターのワヒウを一回り小さくしたような体格である。急所部を補強したハーフプレートを着用しており2m程の大剣を持っている。髪は明るい茶色で短く切っている。

 ピイドは180㎝ほどのこの世界では標準的な体型をしている。年齢は20代後半だろう。一般的なハーフプレートを使用しており、武器は1m程の片手剣と直径1mほどの丸い盾を持っている。濃い藍色の髪を耳が出る程度の長さでそろえている。

 ハザと呼ばれた男は自分と同じくらいの体形で、すらりとしている。いかにもスピード重視のような感じだ。鎧も軽そうなチェインメイルに急所の部分だけ革鎧を重ね着している。年齢は20代半ばといったところか。黒髪で男としては長めの髪を首の後ろで結んでいる。

 ミストはハザと似たような体型で、長さ150㎝程のこの世界ではロングボウと呼ばれているものを持っている。短めの暗い茶髪をしている。印象深いのは鋭い感じを受ける濃いグリーンの目だ。リーダーとほぼ同じ30代半ばに見える。

 ハルガンは身長こそ180㎝ほどあるが、筋肉がまるでついていない痩せた型だ。流石に骨と皮だけとまではいかないが、他のものが筋肉質なものばかりのため、余計痩せて見える。銀髪で物柔らかそうな顔をしている。40前後に見えるが実際はもっと若いかもしれない。鎧はローブを着ているのでわからないが、おそらく厚手の布程度だろう。2m程の先端に宝石がはめ込まれた長い棒を持っているが、武器として使うものではないようだ。


「しかし、話には聞いていたが、すげえ装備だな」


 武器を亜空間に仕舞っているためか、目立つマリーの方を見てザッツが呟く。


「まあ、色々とありまして……」


 コウが言葉を濁す。


「まあいい、野暮な詮索は無しってのが、冒険者の鉄則だ。ああ、後かしこまった言葉遣いも無用だぜ。冒険者ってのは実力があってなんぼの世界だ。早速、クエストに出かけようじゃないか。用意はできてるんだろう?」


 ザッツの問いにコウが頷く。視線の片隅でサラがほっとしている表情を見せたのが見える。おそらくかしこまった時の口調というのが設定されていないのだろう。なかなかピーキーな人格AIを作ったものである。


「聞いているだろうが、俺たちは補助だ。基本的に口も手も出さない。まあ飯ぐらいは一緒に食うし、わざわざ離れたところで寝たりはしないけどな」


 コウは再び頷いて、冒険者ギルドを後にした。


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