第19話 転職活動(クエストテスト1-2)

 特に何事もなく、順調に進むことができ、日没の時間になった。赤い太陽が地平線へと沈んでいく。先方には1000m級の山々と麓に広がる森が見えているが、実際の端はまだ地平線の下だ。

 地面に母船で作成したオリジナルのランタン掛け(地面に突き刺すか、足を広げるか、だけで立てる事が出来、上は十字に広がっている形)を置き、ランタンを掛ける。食料は出来合いのものがあるし、寝るのはそのまま草原に寝転ぶだけなのでこれで野営の準備は終了である。

 再び“嵐の中の輝き”の面々を呼ぶ。


「随分と遅くまで進むと思ったら、野営の用意はこれだけなのか」


 と、ザッツが少し驚いたように言う。


「ええ。気温も暖かいですし、自分たちは食事の用意をする必要がありませんから」


「噂では聞いていたが、収納魔法があると便利なんだな。今日一日だけでも色々自分たちとは違うと思い知ったよ」


 と、今度はピイドが呟く。


「参考までに、普通皆さんはどうされるんですか?」


 と、コウが尋ねる。


「そうですね。普通は昼から進みながら夕食用の獲物を探し始めます。運よく獲れたらその場で解体します。獲れなかった場合、8回の鐘ぐらいには野営をする候補地を探し始めます。候補地は場所によって違いますが、草原では岩場、森の中では開けたところといった感じでしょうか。他の冒険者が使った野営地跡を使う場合も多いです。

 野営地が見つかっても夕食の獲物がなかった場合、日暮れ前まで獲物を探したり、薪の用意をしたり、気温が低い場合や天気が悪いときはテントを張ったりします。このような草原の場合は、草を刈る事もしますね。基本的に保存食は獲物が獲れなかった時の物なので、毎回は食べません。護衛任務時や急いでいる時は別ですが。

 いずれにしても日没までには全部終えておくのが基本で、日没まで旅をすることはありません。ただ、こういう風に明かりが付けられて、食料も料理済みのものを収納魔法で持っていけるのでしたら、日没まで移動に使ってもいいでしょうね。私も収納魔法が使える才能があったらと今回つくづく思いましたよ」


 ハルガンがちょっとうらやましそうに、だが丁寧に説明してくれる。

 ハルガンの説明が終わると、亜空間からスープやサンドイッチを取り出す。自分たちだけなら直ぐに肉を焼くことができるのだが、残念ながら焚火ができるようなものは探していない。


「明日は森の近くまで行ける予定ですから、薪が拾えると思います。今日のところはこれで我慢してください」


 そう言って、コウは取り出した食料をみんなに配る。


「いやいや、これで十分だって、ミストもそう思うだろう」


 ハザがそう言うと、ミストが無言で頷く。ミストは無口な性格のようで、昼食時も話しているのを聞いたことがない。パーティを組んで長いのだろうか、ハザとミストは年齢が10ほど違うが、対等な感じで話している。ハザが人懐っこいのかもしれない。


「もし可能ならば、で構いませんので、皆さんの体験談や冒険者として注意すること、等を話してもらうことはできますか?」


 冒険者の過去を詮索することは御法度なのが暗黙の了解だ。下手に詮索したら次の日にスラムで殺され、身ぐるみを剥がされていても不思議ではない。コウは慎重に尋ねた。


「だから、そんなにかしこまる必要はねえって。お前さんたちの事情は、依頼を受けるときにある程度は聞いている。正直とんでもないパーティの補助なんかしたらたまったもんじゃないからな。逆に、補助を任されるってことはそれなりにギルドに信用されてるってことだ。とんでもないパーティに昇格テストの補助をされたんじゃテストの意味がないからな。だからお前達の事は、何かあっても秘密にしておくよ。そこは信用してくれ」


 ザッツが串焼きを美味そうに食べながら言う。


「そうですね。個人的なことで、あなた方には当てはまらないと思いますが、やはり私は残存魔力を常に気にしています。休息すればもちろん魔力は回復しますが、いつ休息できるか分かりません。就寝中にモンスターに襲われることもありますし、逃げる事を最優先する時もあります。余力が無いといざという時に対処が出来ません。私は見た目の通り、魔法が使えなければ一般人以下の戦力にしかなりませんから」


 と、最初にパーティ最年長であるハルガンが話す。


「俺はまず依頼中の禁酒だな。まあちょっとは飲むこともあるけどよ」


 ザッツの言葉にコウ達は意外に思う。単なる偏見だが、酒を毎晩水みたいに飲んでいる姿しか思い浮かばない。


「なんか意外みたいだな。まあ、分からんでもないけどよ。酒を飲むと考えが鈍る。ほんのちょっとかもしれないが、それで生死が分かれることもある。これでも皆の命を預かるリーダーだからな。それに飲んだら喉が渇く。旅の途中の水ってもんは貴重だ。人間腹が減っても水さえありゃ、何日かは何とかなるが、水がなくなったら動くこともままならねえ。そうやって全滅したパーティを幾つも知っている」


 最後の方は、何か辛い過去を思い出したのか少ししんみりとした口調で話す。


「だが、街にいるときは飲むぜ、ジクスで酒飲み勝負で負けたことは1度しかねえ」


 あ、負けたことはあるんだと、どうでもいいことかもしれないがコウは思った。


「そうだなあ、戦闘時になるけど常に後ろを気にするってところかな。ザッツとハザが二人とも攻撃に偏ってるからね。ミストがある程度接近戦もこなせるとは言え、やはり自分の後ろに敵を通したくはないね」


 と、ピイドが話す。なるほど、壁役のマリーにはちゃんと理解してもらう必要がある。

「俺はやっぱり武器の手入れかな。俺の武器は切れ味重視だからな。手入れを怠ると途端に攻撃力が落ちちまう。一応マジックアイテムなんだが、血糊なんかは自動で消えるわけじゃないからな」


 そう言って、ハザはこの地域では珍しい、切れ味に主眼を置いた曲刀を見せる。


「……俺は自分の役割を果たすだけだ」


 パーティーメンバーがそれぞれ話したので気まずいと思ったのか、ミストがつぶやくように話す。無口だが人は良いようだ。


 とりとめのない話をし、暗くなってからしばらくすると“嵐の中の輝きは”就寝の準備に入った。見張りをする必要があるため早く寝る必要があるのだろう。コウ達は見張りの順番は、コウ、ユキ、サラ、マリーの順番にした。もっともコウ以外は、ただ単に横になっているだけだったが。

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