第7話 街へ

 コウ達は門番に素直に従って進んでいく。心なしか門番達が緊張しているようだった。コウは無言で進むのも何なので、情報取集もかねて、横の隊長と呼ばれていた人物に話しかける。


「ところで自分たちがどうして連行されているのか教えてもらってもいいですか?」


 話しかけられた男はあきれたように答える。


「こんな怪しげな格好の集団、街に素直には入れるわけないだろう。実際見るまでは俺も信じられなかったからな。信じてたら報告があった時点で捕獲部隊が派遣されていたよ」


 どうやら自分たちが考えていた以上に、装備が怪しいらしい。


「そんなに装備が怪しいですかね」


「いや、逆になんで怪しくないと思えるわけ?怪しさだらけだよ!まずお前!」


 とコウを指す。


「なんだよそのごてごてした滑車の付いた武器は、なんとなく弓っぽいがそんな武器見たことねえよ。次にお前」


 ユキを指さす。


「メイド服なのか、鎧なのかわけ分かんねー服着てるんじゃねーよ。まあ、それは100歩譲って個人の趣味としてもだ、その槍は何だ、5mはあるじゃねえか。戦争にでも行く気かよ。しかも全部金属製じゃねえか。いったい何キロあるんだよ。そして重さでいえばお前とお前!」


 と今度はサラとマリーを指さす。


「そのばかでっけえ大剣と盾と分厚い鎧、いったい何キロあるんだ、10キロや20キロじゃすまないよな。盾なんかまるで鋼鉄の扉じゃねえか。両手でも持てる重さじゃねえだろう。何平気で片手に持ってんだよ!」


 男は一気にまくしたてると、一息ついて今度はどことなく恥ずかしそうにしゃべる。


「それに顔だ。お前たちのような美男美女なんざ、吟遊詩人にしか聞いたことはねえ。この国の姫様は美しいことで国中どころか他国にも名が知られているが、多分お前たちほどじゃねぇ。まあ、そばでじっくり見たことはねえけどな。お前たちを見たとき、俺は一瞬お前たちの後ろに花畑が見えたぜ」


 隊長の言い分に納得するように周りの男たちがうなずいている。


(個体差の範囲内だと思ったのですが、予想外ですね)


ユキが思考通信をしてくる


(まるでハープのような弓とか、彫刻がぎっしり彫り込まれた槍とか、刃の部分が枝分かれしているような剣と比べたらそんなにおかしいものかね?それに顔といわれてもそんなに違うものかね?)


 コウの祖父や曾祖父の時代、約2000年前は外見を美しくすることが流行っていたと聞いたことがある。それが極まり無個性になり、今度は奇抜な顔が流行ったそうだ。今は自然そのままが主流だ。遺伝子レベルで整形できるため、コウ達にとって外見は個体を識別するという程度の認識しかない。AIは艦長の趣味が出るため極端に美形か変わったものが多い。今回は3人とも美形の方だった。そしてコウ自身は整形をしていないが、負けず劣らず美形に生まれていた。ただコウレベルの顔はありふれており、今まで顔のことを気にしたことはなかった。

 コウ達から見れば、この世界の人間の顔は個性豊かで魅力的に見える。完全に価値観が違っていた。ちょっとしたカルチャーショックである。

 そうこう言ってるうちに、門番の詰め所と思われる建物につく。石造りの四角い一階建ての建物で飾り気も何もない。入り口は見たところ1ヶ所だった。

 隊長が入り口とコウ達の武器を見て、入らないと判断したのか、メインの武器を壁に立て掛けておくように言う。

 コウ達はあせった。何故かというとコウ達の武器は超高密度の金属で出来ており、それぞれ数十トンの重さがある。10m程度離れただけなら重力制御ができるが、それ以上離れるとコントロールが切れ、元の重さになってしまう。建物の壁は合わせて300トンを超える重さに耐えられるとは思えなかった。立て掛けて離れたら建物は倒壊するだろう。かといって地面に置いたら沈み込んでしまう。

 幸いなことに建物は基礎がしっかりしている。地下に大きくはないが牢があるためだろう。建物の基礎の上に倒れればなんとかなりそうだった。コウ達が戸惑っているのを、武器がとられることを心配している、と勘違いした隊長が一人の男に声をかけ、コウ達に言う。


「心配しなさんな。貴重な物みたいだからな。見張りを立てておく。別に、お前たちをいきなり犯罪者として扱うわけじゃない。まあ、納得いくまで事情聴取はさせてもらうがな。あー、後ギルドマスターを誰か呼びに行ってくれ、こいつらの情報が他のところでなかったか確認したい」


 一人の男が走っていき50m程離れた所にある、石造りの5階建ての建物に入っていく。

(どうされますか?)


ユキが尋ねる。


(まあ、仕方あるまい。各員、出来るだけ被害が少なくなるように武器を置いてくれ、私の弓はマリーの盾に重ねる。それと人に被害がないことが最優先だ)


マリーは素早く内部をスキャンし、最適な位置を計算し盾を置く。コウがそれに弓を重ねる。ユキとサラはそれぞれ自分が計算した最適位置に置く。


「ついてこい」


 隊長がドアを開け先に入っていく。その後にコウ達が入り、その後に門番が入った時だった。バキッ、バタンと大きな音がする。それに続いてミシミシと言う音と、ガラガラと石の崩れる音がした。


「何事だ!」


 隊長が叫び、コウ達を押しのけ外へでる。コウ達も後を追う。外へでると建物が半壊していた。計算通りの壊れ方でけが人はいない。一安心しているコウ達に隊長がドスの利いた声で聞いてくる。額に青筋が浮かび上がっている。


「どういう事か説明してもらおうか」


「単純に武器の重さに建物が耐えきれなかったのだと思いますよ」


 コウは正直に答える。


「この建物は詰め所とは言え、軍事施設だ。そんじょそこらの武器で攻撃したって、簡単に壊れるような柔な作りはしちゃいねえ。それが武器を立て掛けただけで壊れる?そんなバカな話があるか!なぜだ!」


「自分達の武器は見かけよりも重いのです。軽量化の魔法が掛けられているようなのですが、自分達の手を離れると解除されるんですよ」


 これも、重力制御を軽量化の魔法と言い換えただけで、正直な答えである。


「なぜそれを言わない!貴様達は俺達を舐めているのか?」


 ますます隊長の機嫌が悪くなる。一方怒鳴られているコウの方は涼しい顔をしているように見えるが、内心はちょっと悩んでいた。

(一応連行という形だから、言われた最低限の事しかせず、聴かれた事のみ答え、余計な事は、しない、話さないが基本だよな……)

 たとえば警察がバッグを持った不審者を連行し、バッグを指定したところに置かせ、それが扱いが悪くて爆発したら誰のせいか?

 爆弾魔とかならともかく、普通は扱いの悪かった警察のせいである。しかも然るべき理由で運んでいたなら尚更である。

(この世界の者は敵か味方かも判らない内から、情報を流すのが当たり前なのだろうか?随分と平和な世界のようだ)

 コウはまたしてもカルチャーショックを受ける。


「ジェイク。気持ちは分かるが落ち着け」


 集まってきた野次馬の中から一人の男が前にでて隊長に話しかける。先ほどギルドマスターを呼びにいった男も一緒にいるので、ギルドマスターだろうか。自分より10㎝程高い隊長よりも頭一つ分以上高い身長で、肩幅は自分の倍くらいはあるだろう。今までは大柄に見えた隊長が横に並ぶと貧弱に見える。顔を見る限り隊長より若干上、この世界で40代後半に見える。ただ剥き出しになっている腕の筋肉ははちきれんばかりに盛り上がっており、肉体的に衰えは見えない。


「話はギルドで聴くぜ」


 男は有無を言わせぬ口調で周りを見渡す。


「分かった」


 と短く隊長、ジェイクは答える。門番の詰め所は半壊、野次馬多数、冷静になればどう見てもまともな調書が取れるわけがなかった。


「お前ら冒険者ギルドへ行くぞ」


 とジェイクが言う、どうやらギルドというのは冒険者ギルドを指すようだ。

 コウ達は5階建ての、この世界でいえば立派な建物に案内される。案内するのは先ほどジェイクに呼び掛けた男に、一緒に来た30前後と思われる落ち着いた感じの女性だ。女性はユキ達ほどではないが十分に整った顔立ちをしており、スタイルも良い。自分たちの他にはジェイクとギルドへの伝令に走った門番がついてくる。

 ギルドの中に入ってみると、事務所のような部分と、質屋のような部分、酒場のような部分に分かれている。一行は事務所の受付の裏を通り階段を上っていく。5階部分に到達するとそれまでと違って廊下などはなく階段の奥に扉が一つだけついている。扉を開けると応接室と思われる場所にでた。壁際は様々な彫刻があり、中央にセンターテーブルあり、センターテーブルの周りは四つ豪華なソファー並べられている。

 自分とサラは人は入り口の近くに座り、ユキとマリーは鎧が邪魔で座れないため後ろに控える、右に隊長ことジェイクともう一人、左にジェイクに声をかけた男、そして正面に女性が座る。全員が座ると女性が話し始める。


「はじめまして、こちらの自己紹介から始めるわね。私はこの町の冒険者ギルドマスターのオーロラ。この国の冒険者ギルドマスターの代表も兼ねているわ。こちらの大男はワヒウ、副ギルドマスターよ。そして知っていると思うけどこの町の門番の隊長のジェイク、横にいるのは副隊長のクットよ」


 そういって自分たちの方をじっと見る。


「私がギルドマスターといっても、少しも驚かないのね?」


 顔は微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。正体を見極めようとする意思が強く見て取れる。コウ達にとっては外見年齢で判断するという考え自体がなく、ただ単に自分たちの正面に座ったのだから、この女性が一番偉いのだろうと考えていただけだが、この世界では珍しい事のようだった。

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